店舗DXを成功させるポイント!目的や成功事例・注意点も解説

最近よく耳にする「DX」というキーワード。聞いたことはあるものの、具体的にどういう意味で、日々の業務とどう関わっていくのかは実はよくわからない方も少なくないのではないでしょうか。この記事では、特に実店舗の経営やマーケティングに携わっている方に向けた「店舗DX」について解説。店舗DXの定義からその目的や成功事例まで幅広くご紹介します。

DX/店舗DXとは

「店舗DX」の前にまずは「DX」についてご説明しましょう。DXとは「デジタルトランスフォーメーション」の略称で、IT技術をより発達させたり、有効活用することで、ビジネスや人々の暮らしをより良いものに変革させる取り組みを指します。「変革」というのがポイントで、たとえ日々の業務の中にIT技術を組み込み効率性や生産性が上がったとしても、DXという観点から見ると残念ながら不十分となってしまいます。業務の一部が改善されるだけでなく、ビジネスの仕組みそのものが抜本的に変わるようなレベルのものが本来のDXと言われるからです。このように、DXは抽象的かつ実現するハードルが高いものであるため、業界問わず多くの企業がDXを実現するための具体的な取り組みについて試行錯誤しています。

そして、DXを推進することにより、実店舗における顧客体験の向上を目指す取り組みが「店舗DX」です。具体的にはキャッシュレス決済の実装やセルフレジの設置、ICタグの導入など、AIやIoTなどの最新デジタルテクノロジーを活用して、ユーザーが抱くショッピングの価値観が変わるような施策が実施されています。

 

>>店舗DXを語る上で欠かせないのが顧客を軸にした購買体験を設計する「オムニチャネル」というキーワード。店舗DXへの理解を深めるために、ぜひこの記事もご覧になってみてください。

今さら聞けない「オムニチャネル」とは?顧客のメリットを起点に体験をデザインする。

店舗DXを進める目的

ビジネスや人々の暮らしをより良いものにするのがDXですが、実店舗を持つ企業がDXを進める具体的な目的にはどのようなものがあるのでしょうか。その内容について解説します。

顧客満足度の向上

実店舗を持つ企業がDXを推進する具体的な目標としてまず挙げられるのは、顧客の満足度を向上させることでしょう。DXの具体的な方向は色々考えられますが、それが本当に顧客のためになるのかという視点は欠かさず持っておきたいところです。そのためには、顧客が店舗での購入体験に対してどのようなニーズを持っているのかを把握することが大切。顧客を起点とした施策づくりを心がけておけば、企業に対する満足度も高まりやすく、売上の向上や新規顧客の開拓にもつながるでしょう。

人材費の削減

デジタルテクノロジーが代替できる業務は積極的に代替することで、店舗を抱える企業の多くが持つ慢性的な人手不足の課題を解消しつつ、人だからこそ提供可能な価値づくりに注力できるようになります。先述したセルフレジの導入はその顕著な例と言えます。

業務効率化

顧客にとっての価値づくりという最終目標を達成する過程において、これまでの業務をより効率化させることも目的の一つとして挙げられます。特に勤怠管理と発注業務、この2つの業務効率化が期待できます。例えば勤怠管理では、打刻時刻や労働時間の管理にかかる負担が軽減され、発注業務ではリアルタイムでの在庫状況の把握や過去の履歴確認などが可能に。真の意味でのDXを達成するために、まずはこういった日々の業務をより良くしていこうとする企業は少なくありません。

新しいビジネスモデルの創造

DXは「変革」がポイントなので、従来のビジネスモデルの延長にある以上はどうしても実現しにくい現実もあるかもしれません。そういった状況を打破するために、新たなビジネスモデルを生み出すべくDXが活用されることもあります。そもそも、DXが業界問わずここまで注目されている背景には、従来のビジネスモデルでは今後のグローバル社会において競争力を維持できない企業が増えるだろうという日本の産業全体の課題があります。ゆえに、新たなビジネスモデルを生み出すような取り組みこそがDXの本質とも言え、世界が注目するような店舗での新しい購買体験が日本から生まれることが期待されています。

 

店舗DXの成功事例6選

先述したようにDXはやや抽象的なものなので、具体的に何からすれば良いのかわからないという方も多いはず。ここでは、具体例として店舗DXを成功させた6つの事例をご紹介します。

イオンリテール

スーパーマーケットの「イオン」を運営するイオンリテールは、スマートフォンのアプリを導入することによって会計時の待ち時間の解消に成功しています。「レジゴー」というシステムで、専用のアプリを使って商品をスキャンすると、アプリ内のカートに追加されます。その後、会計時は店舗スタッフが商品を改めてスキャンする必要がなく、スピーディーに支払いを済ませることが可能。専用のアプリはユーザー個人のスマートフォンにダウンロードすることもでき、アプリがダウンロードされた貸し出し用のスマートフォンも店内に用意。会計時に便利なだけでなく、買い物中の合計金額も都度確認できるなど、買い物体験全般の質を向上させていると多くの評判を集めています。

「レジゴー」URL:https://www.regigo.jp/

スターバックスコーヒー

スターバックスもイオンリテールと同様、会計時での待ち時間の長さに課題を持っていました。そこで、スマートフォンアプリのサービス「Mobile Order & Pay」を開始しました。このサービスを使えば、来店する前から事前に注文と決済を済ませておくことが可能に。あとは指定した店舗で商品を受け取るだけで済むので、レジに並ぶ必要がありません。細かいトッピングオーダーもアプリ上でできるなど、コアなファンのニーズもしっかり押さえたクオリティで利用者数が増えています。

「Mobile Order & Pay」URL:https://www.starbucks.co.jp/mobileorder/guide/

ファーストリテイリング(ユニクロ)

ファーストリテイリングによる先進的な店舗DXの取り組みの一つが、ユニクロ原宿店での試着のデジタル化です。「StyleHint原宿」という専用スペースには、240台ものデジタルディスプレイが所狭しと並んでおり、その一つひとつにはモデルやファッション系インフルエンサーたちによる、ユニクロの服を着用したスタイリング写真が映っています。「未来の服のライブラリー」をコンセプトに掲げるこのスペースを通じて、ユーザーはただ自分に合う服を探すだけでなく、今やこれからのトレンドを全身で感じることが可能に。この例のようにユーザーを魅了するタイプの活用方法もあれば、同社はカゴを置くだけで中の全商品のタグが一括で読み込まれ、迅速に決済処理を進められるセルフレジを各店で導入するなど、より便利に感じられるようなタイプのDXも進めています。

「StyleHint原宿」URL:https://www.stylehint.com/web/ja/harajuku

三越伊勢丹HD

百貨店大手の三越伊勢丹HDでは、実店舗の価値をバーチャルの世界に持ち込むことで新たなショッピング体験を創出しています。その名も「仮想伊勢丹新宿店」。ユーザーは、いち住民として仮想都市で暮らし、ともに過ごす人々とコミュニケーションできるスマートフォンのアプリ「REV WORLDS」を利用。仮想都市内に実際の伊勢丹新宿店を忠実に再現した店舗が出店されており、ユーザーは自宅にいながらチャットやビデオで接客を受けられ、もちろん商品の購入も可能です。バーチャル世界なのにまるで実際の伊勢丹新宿店でショッピングしているような体験がユニークで、サービスの提供を通じてデパートの利用率が低い若者世代の取り込みを目指しています。

「仮想伊勢丹新宿店」URL:https://www.rev-worlds.com/place/4

JINS

大手メガネブランドのJINSでは、ユーザーが選んだメガネがどのくらい似合っているのかを客観的に判断するAIサービス「JINS BRAIN」を展開しています。JINSの社員3,000人、計60,000にも及ぶデータをベースに、ユーザーの顔の形や雰囲気を踏まえて、マッチング度を点数(100点満点)で表示します。また、店舗にあるメガネの中から、マッチング度が高いものをレコメンドする機能も用意しているなど、数値に基づく新しいメガネの購買体験を実現しています。

「JINS BRAIN」URL:https://brain.jins.com/

TOUCH TO GO

2020年にJR新高輪ゲートウェイ駅構内にオープンし、多くの注目を集めたのがウォークスルー決済を実現した新世代型の店舗「TOUCH TO GO」です。ウォークスルー決済とは、商品を手にとって、会計エリアに立つと自動で購入金額が表示され、ユーザーは電子マネーやクレジットカードでスピーディーに支払いを済ませられる決済のこと。ユーザーが手にとった商品を店内の至るところに設置されたカメラやセンサーが瞬時に把握するので、会計時に一つひとつをスキャンする必要がありません。ゆえにTOUCH TO GOは、店頭スタッフもいない完全無人店舗。世界的にも珍しい、全く新しい購買体験ができる店舗になっています。株式会社TOUCH TO GOによって手がけられたこの技術を用いて、コンビニや飲食店など様々な業態でウォークスルー決済型の店舗が登場しています。

「TOUCH TO GO」URL:https://ttg.co.jp/product/

 

>>三越伊勢丹HDの仮想伊勢丹新宿店のように、実店舗での接客の価値をデジタル上に移行させて新しい価値を生み出す流れには注目が集まっています。「デジタル接客」について詳しくはこちらの記事もご覧ください。

「デジタル接客」で販売員の可能性はこんなに拡がる

店舗DXを成功させるポイント

店舗DXを成功させるために押さえておきたいポイントとして、「DXの目的を明確にする」「買い物に行く理由を再定義する」「自社の店舗の価値を固める」の3つが挙げられます。それぞれの詳細について解説しましょう。

DXの目的を明確にする

まず押さえておきたいのが、店舗DXを推進する目的を明確にすることです。「変革」によって今までとは一線を画す優れた顧客体験を提供することが最終目的として挙げられますが、より具体的にどういったことを実現したいのかをしっかりと言語化し、社内で共有するようにしましょう。どのような規模のものであれ、DXの導入はそう簡単にいくものではありません。複数の部署の様々な社員が連携しながら取り組んでいくものなので、目的が曖昧だと意思疎通もはかりづらく、プロジェクトの進みが遅くなってしまいます。先ほど挙げた具体的な目的例も参考にしながら、自分たちが目指すべき方法を決めていきましょう。

自社の店舗の価値を創出する

例えば先述した「TOUCH TO GO」は顧客がスピーディーに購買できて非常に便利ですが、一方でそれを導入しようとしている店舗の魅力が「時間をたっぷり使った丁寧な接客」だったとしたら、導入によってその魅力が無くなってしまうかもしれません。このように、「優れた顧客体験」のあり方は店舗によって変わってきます。正しい方向でDXを推進するために、自社の店舗が提供している価値はどういったものなのかを再認識することが重要です。スタッフ一人ひとりに聞いてみたり、顧客にアンケートをとってみるなどして、様々な視点からの意見を参考にしながら見つめなおしてみましょう。

買い物に行く理由を再定義する

先ほど「時間をたっぷり使った丁寧な接客」が魅力の店舗の例を挙げましたが、これまではそれが魅力だったものの、時代によってこの魅力が薄れてしまう可能性も決してゼロではありません。つまり、買い物そのものの価値も時代によって変わり、その影響で店舗の価値も変わってきます。なので、自社の店舗の価値を考えるだけでなく、遡って「人が買い物に行く理由とは何か」までも突き詰めて、時代の流れ全体を捉えておくようにしましょう。

  • なぜ人は、買い物をするのか
  • どのような購買体験が注目を集めているか
  • 最近感動した購買体験は何か

などを考えてみると、買い物そのものの価値が見えてくるかもしれません。

 

店舗DXを導入する際の注意点

店舗DXには、ここまでご紹介してきたような様々なメリットがある一方で、導入する際には注意点もあります。本記事の最後にその内容について解説します。

導入・運用コストがかかる

店舗DXを実現するためにはデジタルツールが必要不可欠なため、その導入コストは確実に発生します。成功事例でご紹介したスターバックスコーヒーのアプリサービスのように比較的導入しやすいものから、ユニクロやTOUCH TO GOのような大掛かりなものまで、同じDXでもかかってくるコストは実に様々。また、変革を伴うDXのため、変わった後の新しい運用にかかるコストも忘れてはいけません。

会社全体でのITリテラシー向上が必要

組織全体でDXを推進するには、全社員を対象としたITリテラシーの底上げをする必要が出てくるかもしれません。IT人材を採用する、あるいはIT部門を新たに設立するといったアクションは有効ですが、ごく一部の社員だけがDXに精通したままでは業務の改善はできても変革まで起こせる可能性は残念ながら低いでしょう。DXを推進する社員だけでなく、店舗スタッフ一人ひとりまでがDXについて理解できるよう、社内での教育体制やバックアップ体制を整えておかなくてはなりません。

 

まとめ

この記事では、実店舗の経営やマーケティングに携わっている方に向けて、店舗DXを推進する価値や成功事例などについてご紹介しました。店舗DXを成功させるためには、提供しているサービス内容からマーケティング施策、店舗の運営体制など、俯瞰的な視野で店舗に関わる全てを見直していく必要があります。また、具体的な施策も多岐にわたるので、記事内でご紹介した事例などを参考に、最適な施策を幅広く検討していきましょう。

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