最近よく聞くメタバースとは? 意味や事例をわかりやすく解説

昨今、「メタバース」というIT用語が注目されています。これは基本的に「仮想空間」などと訳される言葉ですが、曖昧にしか概念を理解していない人や、実際のビジネスにどのように影響するのか分からない人も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、メタバースの意味や歴史、ビジネスにおける活用事例などについて分かりやすく解説します。

メタバースとは仮想空間のこと

メタバース(MetaVerse)とは、超越を意味する「メタ(Meta)」と、世界または宇宙を意味する「ユニバース(Universe)」を組み合わせた造語で、オンライン上に構築された「仮想空間」または「仮想世界」のことです。

デジタル空間とはいえ、メタバースは3次元的に構成され、現実世界と同じく時間の概念もあります。各ユーザーはこの世界へインターネットを通じてアクセスし、3Dアバターへと姿を変えて、さまざまな活動を行います。友達と遊んだり、話したりするのはもちろん、仮想通貨やデジタルのオブジェクトなどを使って経済活動や生産活動を行うことも可能です。

仮想世界というと「空疎な虚構の世界」というイメージがありますが、メタバースはむしろ、「デジタル上に現実世界を移し替えたもの」と捉えた方が実態に近いでしょう。たとえば、2009年に公開された細田守監督作の日本アニメ映画『サマーウォーズ』には「オズ」という仮想世界が登場しますが、この作品世界では遊びも経済活動も「オズ」の世界を中心に回っており、医療や交通などの社会インフラも「オズ」のシステムとリンクしています。要するに「オズ」は、デジタル上の世界でありながら、確かに現実的な効力を持っています。同作を鑑賞した方は、この「オズ」のイメージでメタバースを捉えると分かりやすいでしょう。

メタバースの歴史

次世代のIT技術として注目されているメタバースですが、実際のところ、その概念自体は意外と古くから知られています。続いてはメタバースの歴史を紹介していきます。

<h4> SF作品の題材としてのメタバース</h4>
上記では『サマーウォーズ』を例に出しましたが、メタバースは映画や小説などの創作の世界では昔からお馴染みの題材です。そもそも「メタバース」という名称自体、1992年にSF作家のニール・スティーブンソン氏が発表した小説『スノウ・クラッシュ』に由来しています。

この小説には、人間やソフトウェアがアバターとして活動する現実世界を模した3次元的仮想世界が登場しますが、その世界の名前こそが「メタバース」です。デジタル上の仮想世界という概念自体も、『スノウ・クラッシュ』が発表される約10年前、1981年にSF作家ヴァーナー・ヴィンジ氏が発表した小説『マイクロチップの魔術師』が初出だとされています。

現実に開発が進むメタバース

このように、「メタバース(仮想世界)」というアイデアは、特にSFの愛好家にとって魅力的な空想として知られていました。しかし、1991年にインターネットが登場したのを皮切りに、デジタル技術は瞬く間に発展し、メタバースはすでに現実のものになりつつあります。

たとえば、2003年にLinden Lab社のフィリップ・ローズデール氏とそのチームが開発し、今なお稼働中の『セカンド・ライフ』は現実のメタバースの先駆け的存在と評価されるオンライン仮想世界です。『セカンド・ライフ』は当時の技術的限界からユーザーにとってあまり快適な世界とは言えませんでしたが、それでも後に続くメタバース開発に与えた影響は大きなものでしょう。『セカンド・ライフ』では、その世界内で流通している「リンデンドル」という仮想通貨を使って、他のユーザーと取引を行うこともできます。なお、仮想通貨として代表的な存在である「ビットコイン」が登場したのは2009年のことです。

2010年代になると、オンラインゲームやVRゲームも普及し始め、デジタル世界を他者と共有することも、現実と見紛うほどの没入的な仮想体験も一般的なものになりました。たとえば、2017年発売の『フォートナイト』や2020年発売の『あつまれ どうぶつの森』は、オンラインゲームでありながら、メタバース的なものとして解釈される作品です。たとえば『どうぶつの森』では他のプレイヤーに代わって雑草を駆除することでお金を稼ぐこともできますし、アパレルブランドがアバターの衣装をデザインして販売したり、政治家が選挙活動に利用したりした事例もあります。

今日では2021年に社名を「Meta」に変えた旧Facebook社を筆頭に、GoogleやMicrosoftなどの世界的IT企業もメタバースへの投資に力を入れ始めており、今後メタバースビジネスはますます発展していくものと予想されます。

メタバースが注目されている理由

昨今ではビジネス分野においてもメタバースが注目を集めています。以下では、その注目の背景を解説していきます。

VR技術の進歩

メタバースが注目を集めている理由のひとつに、VR技術の進歩が挙げられます。VRとは「Virtual Reality」の略称で、仮想現実と訳されます。ユーザーはVRゴーグルを装着し、視界いっぱいに広がるデジタル世界の中を動き回ることで、その世界を没入的に体験することが可能です。

このVR技術は当初こそゴーグルが重くて違和感が強く、視覚表現もそこまで高いレベルではありませんでしたが、今ではそのどちらも大幅に改良され、価格も安くなっています。たとえば不動産業界では、物件見学を現地に行かずともVRで仮想体験できるサービスを提供する企業も増えており、VRが商用に利用されることは着実に増えています。

メタバースが「もうひとつの世界」として機能する上で、このVR技術が提供する現実さながらの没入感というのは大きな要素です。こうしたことから、VR技術の進歩とともにメタバースの注目度も増しています。

NFTの発展

NFTの発展もメタバースを現実のものとする上で重要な要素です。NFTとは、デジタルデータに証明書を付けることで、電子取引やその商品に唯一性や真正性を付与する技術です。デジタルデータは本来、複製や改ざんが容易であり、それが理由で電子取引などの普及が阻害されていました。

しかし、NFTを活用すれば、その商品がいつ誰によって販売されたものなのかなどを保証することが可能です。たとえば数量限定のデジタルコンテンツにシリアルナンバーを付与し、NFTでその真正性を保証すれば、それが複製ないしは偽造されたものではないかという疑いは激減するため、その商品のプレミア性を守れます。

メタバースにおいては、ユーザーが仮想通貨を用いて取引を行う場面も多々想定されます。しかし、その際に通貨や取引、商品の信頼性が低ければ、誰も大きな取引をしようとは思わないでしょう。そのため、NFTの登場は、メタバースが経済活動の場として機能する上で、非常に大きな役割を果たすと捉えられています。

コロナ禍によるコミュニケーションのオンライン化

2020年頃から世界的な感染爆発を起こした新型コロナウイルスもメタバースへの注目を後押ししている一因です。コロナ禍においては感染予防の観点から、外出自粛要請が政府から出るなど、人と対面で接触する機会を減らすことが推奨されました。

その中で急速に需要を高めたのがデジタル技術の活用です。これまでオフィスで仕事していたのがテレワークになり、紙資料や各種手続きはデジタル化・オンライン化され、コミュニケーションやミーティング、学校の授業などもチャットやオンライン会議などに置き換えられていきました。

企業によっては、現実のオフィスで働けない分を補うために、「バーチャルオフィスツール」を利用するところも出ました。これはデジタル上に再現されたオフィス内を社員たちが3Dアバターで動き回り、仕事やコミュニケーションに役立てるITツールです。小規模とはいえ、これも一種のメタバースであると言ってもさしつかえないでしょう。

これまで現実で行われていた諸活動がデジタルに置き換えられることは、メタバースの本質的な要素のひとつです。技術の上でも、人々の意識の上でも、コロナ禍は社会をメタバースの実現・普及に向かって大きく動かしたと捉えられるでしょう。

メタバースとVR、AR、MRの違い

メタバースは、VR、AR、MRといった、いわゆるXR技術と親和性が高いことで知られています。とはいえ、メタバースとXRを同一視するのは正確な理解ではありません。そこで以下では、VR、AR、MRそれぞれの概要を簡単に確認した後に、それらの技術とメタバースの違いを解説します。

VR

すでに紹介した通り、VRは「仮想現実」と呼ばれる技術です。ユーザーは通常、VRゴーグルというヘッドマウントディスプレイを装着することによって視界をデジタル世界で満たし、通常のモニターで体験するのとは一線を画した臨場感のあるデジタル体験を享受できます。コントローラーやセンサー技術などを使って、体の動きにあわせてデジタル世界を動き回ることも可能です。VRはゲームなどで使用されるほか、バーチャルでの疑似的な不動産見学や旅行など、現実世界を仮想体験するための手段としても用いられています。

AR

AR(Augmented Reality:拡張現実)とは、スマートフォンやタブレット、ヘッドセットなどのディスプレイを通じて、現実世界の上にデジタルコンテンツを重ね合わせる技術です。ARを一躍身近な技術にしたものとして『ポケモン GO』というスマホゲームが挙げられます。このゲームでは、スマホカメラを通して映し出された現実世界の中に、ポケモンの映像を映し出すことで、あたかも現実世界にポケモンが実在しているような感覚をユーザーに与えています。

今日、ARはビジネス用途にも広く使われるようになりつつあります。たとえば一部の家具メーカーは、AR技術を使うことで、顧客が自分の部屋に家具を設置した際のイメージをより具体的に捉えられるようにしています。

今見ておくべき、国内ARアプリの最新事例 についてもぜひ覧ください。

MR

MR(Mixed Reality:複合現実)とは、現実世界と仮想世界を融合させて、物理オブジェクトとデジタルオブジェクトが共存し、リアルタイムに相互作用する新しい体験を作る技術です。MRの特長は、空間マッピングやセンサー技術などを活用することで、デジタルオブジェクトを現実の体の動きや物理的な環境に対応させられることです。

たとえばMR技術を使えば、腕の動きにあわせてデジタルオブジェクトのリンゴを動かしたり、現実のテーブルの上に置いたりできます。もしテーブルを倒せば、デジタルのリンゴは床に落ちて転がるでしょう。デジタルオブジェクトの周囲を歩き回って、360度違う角度から眺めることも可能です。MRはまだ登場したばかりで普及前の技術ですが、このようにリアルとデジタルを相互作用させるMR技術は、今後さまざまな用途に活用されることが期待されています。

MRについてはこちらの記事でもご説明しております。

XRとメタバースの違い

VR、AR、MRなどの技術は、「XR」と総称されます。デジタルに疑似的な現実世界を構築するメタバースにとって、XR(特にVR)は相性の良い技術です。たとえば、メタバースをVRで体験できるようにすれば、メタバース世界に現実世界さながらのリアリティを与えられるでしょう。

ただし、メタバースを実現するために、必ずしもXRが必要というわけではありません。XRを使用せず、通常のスマホやPCの画面に表示される3D世界でも、そこで現実世界に近い営みができるならメタバースに該当します。また、メタバースにおいては他者と世界を共有していることが重要になりますが、XRは完全に個人で利用する場面も想定された技術です。たとえば、ひとりでプレイするVRゲームの世界は、メタバースとは言えません。

このように整理してみると、XRはメタバースをより豊かにする技術である一方で必須の技術ではないこと、XRとメタバースは必ずしも対応していないことが分かります。

ブロックチェーンとの関連性

メタバースはブロックチェーンとも関連性の深い概念です。ブロックチェーンとは簡単に言うと、デジタル上で行われた一連の取引履歴を暗号化技術によって正確に記録する技術を意味します。ブロックチェーンに記録された取引履歴は改ざんが著しく難しいので、仮想通貨取引などの信頼性を高める上で重要な技術です。

以下では、ブロックチェーンに関連する技術であるNFTとメタバースの関係、あるいは仮想通貨とメタバースの関係について解説します。

NFTとの関係

NFTとは、ブロックチェーン上に記録される取引およびデジタル資産の証明書のようなものです。メタバース内では、さまざまなデジタルコンテンツが売買されることが想定されますが、こうしたデジタルコンテンツは複製することが容易です。

たとえば、先着100名までしか購入できないアイテムをメタバース内で購入したとしても、通常の取引方法ではそれが海賊版である可能性を否めません。しかしNFTを活用すれば、そのアイテムがオリジナルのものであることを証明できます。これによって、メタバース内で扱われるデジタル資産に対して、価値を持たせることが可能です。

仮想通貨との関係

仮想通貨とは、メタバース内で流通している通貨です。メタバース内で何かの売買をする際は、この仮想通貨を利用して取引する場合が多いです。仮想通貨の代表例としては、ビットコインやイーサリアムなどが挙げられるでしょう。今日では、資産運用における投資対象のひとつとして仮想通貨を購入する人も増えています。

メタバースのメリット

ビジネスにメタバースを取り入れることで、企業はどのようなメリットを得られるのでしょうか。続いては、メタバースをビジネスに導入するメリットを解説します。

新たなビジネスチャンスを見つけられる

メタバースは新たなビジネスチャンスが数多く眠っている場所として期待できます。たとえば、ソーシャルメディアは多くのビジネスチャンスを生み出し、そのプラットフォーム上には新しい形のビジネスモデルやマーケティング・広告手法などが誕生しました。メタバースは、これよりもさらに大きなチャンスを企業に提供する可能性があります。

たとえば、ユーザーにとってメタバースの価値が高まるにつれて、メタバース内のアバターの容姿、衣装、住居、持ち物なども一種の資産価値を持つようになります。それらはこれまで商品化されること自体なかったものであり、他社に先駆けてそこにアプローチしていけば大きな利益につながる可能性があります。ライブやセミナーなどのイベントも、地理的な制約がなくなるため、顧客の対象が広がり、現実世界で行うより大規模かつ安価に実施できるかもしれません。

このように、メタバースの導入はビジネスに新しい可能性を与えることが期待されており、実際、総務省の『令和4年 情報通信白書』では、78兆円規模までメタバース市場が拡大すると予測されています。

参照元:総務省:情報通信白書 「第2部 情報通信分野の現状と課題」

同じ場所にいるかのようなコミュニケーションがとれる

メタバースの大きなメリットのひとつは、仮想世界のアバターを使って、世界中のさまざまな国の人とコミュニケーションできることです。チャットなどのテキストだけのコミュニケーションとは異なり、アバターの身振り手振りや表情なども使うことで、細かなニュアンスまで伝えられます。

VR技術を組み合わせれば、お互いに相手が目の前にいるかのようにコミュニケーションすることも可能でしょう。今後、自動翻訳技術などがさらに発展していけば、言語の問題も飛び越えて、遠い外国に住む人とも気軽に友人になれるかもしれません。将来的には、オンラインでミーティングする際は、現在のオンライン会議システムよりもメタバースの利用が一般的になる日が来るとも考えられます。

メタバースのデメリット

上記のようなメリットがある一方で、メタバースを導入する際には、あらかじめ対策を考えておくべきデメリットもあります。以下では、メタバースを導入するデメリットを解説していきます。

セキュリティの対策が必要

第一に懸念されるのが、セキュリティ上のリスクです。メタバース内では基本的に仮想通貨を利用することになりますが、この仮想通貨を入れておく仮想的な財布「ウォレット」がサイバー攻撃の対象になる恐れがあります。

仮想通貨はもはや現実的な資産価値を有しますので、このウォレットが攻撃されれば、経済的な被害は大きなものになるでしょう。実際、ウォレットを狙ったサイバー攻撃はすでに発生しており、莫大な損害が出たケースも報告されています。したがって、メタバースを利用する際には、ウォレットを対象としたサイバー攻撃に対してセキュリティ対策を練ることが必要です。

依存症への注意

ユーザーの精神面への悪影響も懸念される点です。没入感が強い仮想世界であるメタバースは、ユーザーにとって非常に魅力的であり、下手すると依存症のように不健康なハマり方をしてしまう恐れがあります。これはSNSやゲームへの依存症が、すでに多くの人にとって大きな問題になっていることからも明らかでしょう。

特に子供はそうした傾向が強く出やすく、現実との関係が希薄になりがちです。現在SNSなどを巡って問題視されているのと同じく、メタバース内でのトラブルやいじめなどがノイローゼなどに結び付いてしまう恐れもあります。したがって、メタバースビジネスに参入する際は、企業の社会的責任として、顧客へこうした依存症や正しいメタバースへの向き合い方に関する注意喚起などを行う姿勢が求められます。もしも自社のメタバース内でのトラブルが社会問題化すれば、サービス自体も悪印象を受けることは避けられないでしょう。

技術やコストが必要

メタバースは、それを提供する企業側にもユーザー側にも大きなコストを要求する点にも注意が必要です。メタバースで使用される技術が高度になればなるほど、それを楽しむために必要となる機材も高くなります。たとえば、最新のVR技術でメタバースを構築したとすると、ユーザーがそれを楽しむには、ハイテクで高価なVRゴーグルや、高速で信頼性の高い通信環境などが必要です。

先進国に住む一部の裕福な人にのみメタバースを提供したいならば、それはそれでいいのかもしれません。しかし、メタバースを世界中の多くの人が利用できるような世界として構築したいのであれば、こうした経済面でのハードルの高さは大きなネックになります。もちろん、高度なメタバースを構築するには、企業側にも多くの技術やコストが要求されるのは言うまでもありません。したがって、メタバースをビジネスにする場合には、自社と自社が想定するユーザーにとって最も望ましい技術的・経済的バランスを考慮することが重要です。

メタバースにおけるビジネスモデル

経済産業省は、2021年にメタバースの現状や将来の展望などを示した調査結果を示した資料「仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業」を公表しました。この資料には、メタバースが今後どのようにビジネスで活用されていくのか、大まかなビジネスモデルの在り方も記載されています。以下では、主にこの資料に基づきながら、メタバースにおけるビジネスモデルを解説していきます。

デジタルコンテンツの提供

第一に考えられるビジネスモデルは、単一の企業が仮想空間を開発・運営し、その中で自社のサービスやコンテンツを提供する方法です。たとえば、ゲーム会社がオンラインゲームを開発・リリースし、その中でゲーム内アイテムなどを販売する手法がその代表例として挙げられるでしょう。この段階だと、そこまでメタバースビジネスとしての展開は広がっていません。

プラットフォームの提供

次に考えられるのは、仮想空間を構築した企業が、プラットフォームとしてそれを企業や消費者に提供する方法です。たとえば、ライブやセミナーなどのイベントに使える仮想空間を開発し、バーチャルイベントを開催したい音楽会社やイベント運営会社などに提供するといったビジネス手法がこれに該当します。

経済産業省の定義によれば、メタバースのビジネスとは、このプラットフォームビジネスの発展型です。そこにおいては巨大なプラットフォーム上にさまざまなコンテンツが共存し、ユーザーはそこで遊んだり、ショッピングしたり、教育を受けたりと、現実世界と同じように多様な行動を行えるとされます。必然、このプラットフォームは、多様な企業・組織が共有する巨大な公共世界として機能することになるでしょう。

このように、メタバースのビジネスの可能性は非常に大きな発展の可能性を秘めているだけに、その土台となるプラットフォームを開発できれば、今後メタバースがビジネスとして普及していく中で、非常に魅力的な立ち位置に付くことが可能です。旧FacebookやGoogleやMicrosoftなどの巨大IT資本がこぞってメタバースへの投資を強化しているのも、このことを考えれば納得できるでしょう。

メタバース事業の進め方

続いては、上記のビジネスモデルの区分を念頭に置いた上で、企業がメタバース事業を始める際の進め方を解説します。

プラットフォームの作成・登録

最初に検討すべきは、自社がメタバースでどのようにビジネスを展開するのかです。ゲームの提供、バーチャルイベントやバーチャル旅行の提供、デジタルアートの販売、メタバースプラットフォームそのものの提供など、メタバースビジネスの可能性は実にさまざまです。それを決定したら続いて、自社でプラットフォームを構築するのか、すでに他社が構築しているプラットフォームに登録するのかを決めましょう。

ステークホルダーとの関係構築

続いては、自社のメタバースビジネスに関係するステークホルダーとの関係を構築していきます。プラットフォームの登録企業側に回るならプラットフォームの提供事業者、自社そのものがプラットフォーム提供事業者に回るなら、それを利用する企業との関係を築くのが当面の優先課題になるでしょう。とはいえ、メタバースビジネスにはITインフラ事業者をはじめ、デジタルコンテンツを制作する会社、VR機器などのデバイスを開発する会社などさまざまな企業が関係してくるので、そういった周辺の関係者との関係構築も重要です。

機材の準備

プラットフォーム側と登録企業側のどちらに立つにせよ、自社のスタッフがメタバース世界を利用するための機材の準備も必要です。サービスのテストをするためにも、バーチャルイベントなどの運用をメタバース内で行うためにも、自社用の機材がなくては始まりません。どのような機材が必要かは、プラットフォームの内容によりますが、一般的にはPCやVRゴーグル、VRコントローラーなどが挙げられます。

通常、メタバースは重い情報処理を必要とする3Dグラフィックが利用されているため、一般的な業務用PCより高いスペックのPCが推奨されます。いわゆる「ゲーミングPC」と呼ばれるPCを用意すれば、快適に利用しやすいでしょう。

口座の開設

メタバースサービスの多くでは、ビットコインなどの仮想通貨が取引に利用されています。こうした仮想通貨による取引を行うためには、仮想通貨用の口座開設が必要です。仮想通貨用の口座開設に際しては、一般的に国内の仮想通貨取引所を利用します。基本的には金融庁の以下のページに掲載されている「暗号資産交換業者」の一覧の中から利用する会社(取引所)を選定するとよいでしょう。

参照元:金融庁「免許・許可・登録等を受けている業者一覧」

メタバース事業に参入する際の注意点

経済産業省は、メタバース事業に関して懸念される12の問題を定義しています。各問題は以下の通りです。

1 仮想オブジェクトに対する権利の保護
2 仮想空間内における権利の侵害
3 違法情報・有害情報の流通
4 チート行為
5 リアルマネートレード(RMT)
6 青少年の利用トラブル
7 ARゲーム利用による交通事故やトラブル
8 マネーロンダリングや詐欺
9 情報セキュリティ問題
10 個人間取引プラットフォームにおけるトラブル
11 越境ビジネスにおける法の適用に関わる問題
12 独占禁止法に関わる問題

引用元【報告書】令和2年度コンテンツ海外展開促進事業(仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業)p.20.21

これらのリスクの具体的な事例および対応策については、経済産業省の下記のページに掲載されている「仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業 報告書 」別紙①および別紙②に詳細があります。メタバースビジネスはまだ発展途上のため、法的な整備や前例などが不足している部分も多々あります。だからこそ、ここで想定されている問題について、自社なりに事前に検討し、具体的な技術面や運用面などから必要な対処法をあらかじめ考えておくことが重要です。

引用元:経済産業省:「仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業 報告書

メタバースの具体的な活用方法

メタバースをビジネスにどのように利用したらいいのか、まだイメージするのが難しい方も多いでしょう。以下では、メタバースの具体的な活用方法を紹介します。

バーチャルイベントの開催

メタバースは、オンライン上でバーチャルイベントを開催するために活用されています。ここで想定されるイベント内容は、音楽のライブ、製品の展示会、就活フェスやセミナーなどさまざまです。

オフラインで開催する通常のイベントだと、イベント自体には関心があっても時間的・場所的な制約から参加を断念せざるをえない人も出るでしょう。運営者側としても、会場の収容人数などの都合から人数制限をかけたり、当日の運営スタッフを多数手配したりと、不便な部分が多いです。天候によって来場者数が左右されたり、開催を断念したりといったリスクもあります。

しかし、バーチャルイベントならば、上記のような手間やリスクの心配がありません。バーチャルイベントなら、たとえ海外の人でも簡単に参加できるので、これまで接点の薄かった顧客と出会える可能性もあります。バーチャルイベント用に作成したコンテンツは、自社のホームページやYouTubeなどで公開して二次利用してもよいでしょう。

【経済産業省】実証実験イベントの開催

上記と関連して、経済産業省は2022年12月に「Web3.0時代におけるクリエイターエコノミーの創出に係る調査事業」の実証事業イベントを開催しました。このイベントは、実際にバーチャルイベントを参加者に体感してもらうと共に、メタバース内のNFTの活用やプラットフォーム同士の連携、データ規格などの課題を洗い出すことを目的に実施されました。

参照元:「Web3.0時代におけるクリエイターエコノミーの創出に係る調査事業

バーチャルオフィスの設置

すでに触れましたが、バーチャルオフィスの設置もメタバースの活用方法です。コロナ禍においては、テレワークが社会的に普及し、オフィスに縛られない柔軟な働き方の可能性が示されました。これによって、都心部に広いオフィスを設置する必要性が薄れ、オフィスの移転や縮小などのコストカットに成功した企業も出ています。

その一方で、各社員が個別の場所から勤務するテレワークにおいては、気軽にコミュニケーションしにくく、物理的にも心理的にも各社員が孤立したような状況になってしまう弊害も多くの企業で散見されました。そこで一部の企業が導入したのがバーチャルオフィスです。

社員はデジタル上に構築されたバーチャルオフィスに3Dアバターの姿で「出勤」し、マイクなどを通して近くの社員と会話するなどしながら仕事ができます。忙しいときなどは、そうしたステータス表示をすることも可能です。このバーチャルオフィスを活用することで、テレワークにおいても他の社員と一緒に働いているという感覚を疑似的に体験できます。

バーチャル店舗の運営

バーチャル店舗の運営も、今後メタバースビジネスとして活用が期待される手法です。現在のECサイトは、「実際のお店を訪れる」というより「商品カタログをWebで閲覧する」という感覚の方が近いでしょう。

しかし、メタバースを活用すれば、バーチャル上に再現された都市に並ぶ店舗を訪れ、友人と一緒にウィンドウショッピングを楽しむことができます。もちろん、お店の中に店員を配置して、デジタル上で接客することも可能です。バーチャル都市の中に広告を出すこともできるので、新しいマーケティングチャネルとしても注目されています。

メタバースの活用事例

メタバースはすでに一部の企業や自治体などで活用されています。以下では、その中から3つの活用事例をピックアップして紹介します。

バーチャル渋谷

「バーチャル渋谷」は2019年に発足した「渋谷エンタメテック推進プロジェクト」によって実現された渋谷区公認のメタバースです。その名の通り、ここには渋谷の街並みが正確に再現され、ユーザーはその中を自由に歩いたり、交流したりできます。コロナ禍においては、現実では開催の難しいハロウィンイベントをここで実施し、数十万人を超える参加者を集めました。すでに多数の企業が参加するなど、今後の展開が期待されるメタバースです。
参加にはバーチャルイベントプラットフォーム「cluster」アプリから、スマートフォン・PC・VRゴーグルで利用できます。

参照:https://vcity.au5g.jp/shibuya

REV WORLDS

「バーチャル渋谷」に対して、「REV WORLDS」は新宿を舞台にしたメタバースです。このメタバースは老舗百貨店の伊勢丹が運営しており、ユーザーは、仮想の「伊勢丹新宿店」でウィンドウショッピングを楽しめます。仮想店舗内に登場する商品は実際に伊勢丹で販売されているものであり、オンラインストアでそのまま購入可能です。このようにバーチャル上に店舗を構築することで、ECサイトでは再現の難しい自社ならではの雰囲気を外国のユーザーにも感じてもらえます。

参照:https://www.mistore.jp/shopping/feature/shops_f3/vrinfo_sp.html

Decentraland

「Decentraland」は、ブロックチェーンを活用したメタバースプラットフォームです。ユーザーはこのプラットフォームの中で仮想の土地「LAND」や作成したコンテンツを売買できます。LANDの「地価」は順調に値上がりを見せており、疑似的な不動産ビジネスとして機能し始めています。音楽イベントなどが開催されているのも大きな特徴のひとつです。

参照:https://decentraland.org

まとめ

メタバースは、次世代のデジタルビジネスにおいて非常に大きな影響力を持つと考えられており、すでに実用化も始まっています。今後のデジタル社会に対応していくには、メタバースも含めた最新技術に適応し、DXを進めていくことが重要です。DXの推進に関心のある企業の方は、ぜひ以下の資料もご覧ください。