XR(クロスリアリティ)とは? 意味や事例について解説

VRやARをはじめとするXR技術はエンタテインメントで使われているイメージが強いかもしれませんが、ビジネス用途でも広く活用が進んでいます。本記事では、XRの基本的な定義から、XRに含まれる各技術の特徴やその使用例、将来性まで解説します。XRとは何かを知って、業務に応用する際のヒントにしてください。

XR(クロスリアリティ)とはVR・AR・MR・SRの総称

XRとは「Extended Reality」または「Cross Reality」の略称で、現実世界と仮想世界を融合させる技術の総称です。バーチャルな体験に高いリアリティを付与して没入感を高める「VR」や、現実世界にバーチャルなテキストやグラフィックを投影させる「AR」などの技術がXRに含まれます。昨今では、類似の技術が続々登場してきており、VRやARなどの言葉の境界が曖昧になってきたため、XRという総称が使われるようになりました。 現状では、VRやARのほかに、MRやSRといった技術がXRの一種として挙げられます。それぞれのXR技術は、「現実世界と仮想世界を何らかの仕方で融合する」という基本的なコンセプトは共通しているものの、それぞれで使用されるデバイスやユースケース、ユーザー体験などは異なっています。各技術の詳しい内容は以下の通りです。

VR(Virtual Reality:仮想現実)

VRは、CGや360度カメラなどのデジタル技術によって生成された仮想の3次元空間を体験できる仕組みです。ユーザーはVRゴーグルを使って、視界をその仮想空間で満たし、コントローラーを使ったり、実際に自分の体を動かしたりすることを通じて、その世界を体験します。 これによって、ユーザーは本当に仮想世界へ入り込んだかのような臨場感や没入感を得ることが可能です。身近な事例としては、PlayStation VRなどのゲーム機器が挙げられます。 また、他のユーザーと対話できる「ソーシャルVR」なども存在し、会議やネットショップなどにも活用されています。

AR(Augmented Reality:拡張現実)

AR とは、テキストやグラフィックなどのデジタルなオブジェクトを現実世界の環境に重ね合わせる技術です。 ユーザーはAR体験において、実在する現実世界の要素とデジタルな要素を同時に見ることができます。ただし、現実世界の要素とデジタルな要素のあいだに相互作用はありません。 ARはカメラアプリやアプリゲームなどで簡単に体験することが可能です。例えば、AR技術の認知度を一躍広げた「ポケモンGO」というゲームでは、あたかも現実の街中にポケモンアニメのキャラクターが存在するかのような視覚体験ができます。

MR(Mixed Reality:複合現実)

MR は、ARのようにデジタルなオブジェクトを現実世界の環境へ視覚的に重ね合わせると共に、それらのあいだの相互作用をも可能にする技術です。たとえば、ARが現実の街中にCGのポケモンキャラクターを視覚的に表示するだけだとしたら、MRの場合ではそのポケモンへ手を伸ばして抱き上げ、実在するポストの上に置いたりできるイメージです。 このようにデジタルオブジェクトへ直接干渉したり、現実世界の環境に応じた振舞いをさせたりできるMRは、ARよりもさらに高度な仕方で現実世界と仮想世界を融合させた体験を提供することが可能です。MRはXR技術の中でも特に新しく、複雑な処理が必要な技術ですが、今後さまざまな仕方でビジネスに応用されていくと予想されます。Microsoft社が開発した「Microsoft HoloLens」などがMRデバイスの代表例です。

SR(Substitutional Reality:代替現実)

SRとは、現実の体験を、実在しない過去の体験や架空の体験などに置き換える技術です。例えば、SRデバイス(ヘッドマウントディスプレイ)を被った状態で、現実世界の交差点の前に立っているとしましょう。 ユーザーの認識からすると、その交差点には、さまざまな人や車が行き交っているように見えます。しかし、実はそこで認識している人や車は、過去の映像や音を投影したものにすぎず、現実世界のその交差点には全く別の人や車が行き交っている(あるいは無人である)といった事例がSR体験として挙げられます。 SRはこのように、ユーザーに現実世界と仮想世界の出来事を混同させる技術です。この技術を使えば、過去の体験が今まさに目の前で起こっているかのようにユーザーに錯覚させることも可能です。SRによって過去の体験を高い臨場感を持って反復経験できるようになるので、そこから新しい知見を得たり、心的疾患に対する心理療法で治療効果を発揮したりすることが期待されています。

メタバースとの違い

XR技術、その中でも特にVR技術と関連性が高いのがメタバースです。メタバースとは、インターネット上に構築された3次元的な仮想世界を意味します。ユーザーはその世界を共有し、アバターを通して一緒に遊んだり、話したり、ときには経済活動をすることも可能です。いわば、メタバースとは、インターネット上に作られた「もうひとつの現実」と言ってもいいかもしれません。 実際、メタバース内の土地が不動産投資の対象になるなどの実例もあります。身近なところでは、世界的にヒットしたゲーム「あつまれどうぶつの森」は、広義の意味ではメタバースの一種であると捉えることも可能です。
VR技術は、このメタバースへの没入感を高めるための有力な手段として考えられます。例えばパソコンの画面越しにアバターを操るよりも、VRゴーグルを通して、目の前に友達がいるかのような臨場感を味わいながら話した方が、現実で友達と会っているのと近い感覚で会話を楽しむことが可能です。 とはいえ、VR技術はメタバースの現実感を高めるための補助装置に過ぎず、必須なものではありません。また、メタバースはインターネットを通して他者と共有することが前提の場所ですが、VR技術は一人で体験することを想定されています。そのため、VRで体験される仮想世界は、必ずしもメタバースとは限りません。ただし、XR技術が今後さらに発展普及していけば、将来的にメタバースはXR技術を使って体験するのが一般的になってくる可能性はあります。

XRの市場規模は急成長している

XRとメタバースの市場規模は近年急成長しており、その勢いは今後も継続していくと予想されます。例えば、株式会社矢野経済研究所が2022年に公表した調査結果によれば、日本国内における2021年度のメタバース及びXRの市場規模は744億円であり、2022年には前年度比245.2%の1,825億円、2026年には1兆円を超える見込みです。 同研究所の考察によれば、このように市場規模が急成長しているのは、新型コロナウイルスのパンデミックが関係しています。つまり、これまで現実世界で行われていた社内会議や展示会、セミナーなどを開催する場がバーチャルに移行してきた影響が、XRやメタバースの需要拡大を後押ししたという見方です。 とはいえ、この数年の経験を通して、リアルで実施すべきものと、オンラインでも対応できることの棲み分けがある程度できつつあることから、コロナ禍の収束後もXRやメタバースの活用の場は今後も広がっていくと考えられます。

参照元:株式会社矢野経済研究所|メタバースの国内市場規模予測

XRが注目されている背景

XRが市場規模を拡大している背景には、コロナ禍という社会的要因も関係していますが、XR技術そのものの魅力や進化スピードもその一因です。登場したばかりの頃のXR技術は、仮想世界の解像度が低く、現実と同じような世界がそこに広がっているとは言い難いクオリティでした。デバイスも大きくて重く、しかも値段も高価だったため、肉体的にも経済的にも負担が重かったのが実情です。 しかし昨今では映像や音響のクオリティが上がり、より没入感の高い仮想体験が可能になっています。デバイスの小型化・軽量化も同時に進んでいるため、ユーザー体験の快適性は以前とは比べ物になりません。デバイスの価格設定が一般ユーザーでも手を出しやすいレベルにまで下がってきていることも普及を後押ししています。 さらに忘れてはならないのが、通信環境の進化です。高度なXR技術をインターネット上で配信するには、大容量の高速通信が欠かせません。その点、現在では以前の3G、4Gより遥かに安定して大容量のデータをやりとりできる5G回線が実用化されたことで、そうした通信技術的な課題もクリアされています。

XRが活用されている業界

XR技術は、すでにさまざまな業界で活用が広がっています。XR技術をどのように利用しているかは、業界の特性ごとに多種多様です。そこで以下では、各業界でXRがどのように利用されているのかを紹介します。

製造業

製造業は、VR、AR、MRなどのXR技術の幅広い活用が期待されている業界です。例えば、VRで設計データを仮想空間上に映し出せば、スタッフ間でイメージを共有しやすくなります。これはMRを利用した場合も同様です。現実空間にデジタルオブジェクトを投影すれば、完成品のサイズ感を確かめたり、デジタルオブジェクトを動かしながら様々な観点から製品の構造をチェックしたりして、設計の不備などを発見しやすくなると考えられます。 また、MRやARは、製造現場のレイアウト設計などにも役立てることが可能です。一般的に製造設備は大型のものが多く、搬入した後でレイアウト変更するのは簡単ではありません。とはいえ、実際に設備を入れてみないことには、作業動線などをチェックしにくいのも事実です。その点、ARやMRを活用すれば、現実の工場に実物大の設備をデジタルオブジェクトとして投影できるので、レイアウト確認が容易になります。 さらに、ARやMR技術を搭載した専用ゴーグルを使えば、作業手順や点検すべき情報などを対象物に重ねて表示できます。これによって作業員は、いちいちマニュアルを持ち歩いたり開いたりする必要がなくなるので、作業効率を向上可能です。さらに、専用ゴーグルを通して遠隔地の作業員と視界を共有して、作業指示を仰ぐこともできます。

不動産業

昨今では、コロナ禍の影響もあり、物件の体験やプロモーションなどにVRを使用する不動産業者が増えています。引っ越しをする際には通常下見をしますが、遠隔地への転居では、それを行うのが難しいです。特に外出自粛要請が出ていたコロナ禍では、なおさら困難だったでしょう。 その点、360度カメラなどを使って物件をVRで体験できるようにすれば、現実に近い感覚で下見を疑似的に行えます。VR内で動き回ることで物件の広さを体感しやすくしたり、家具などの生活用品を配置した際のイメージギャップをなくしたりすることも可能です。

医療現場

医療現場でもXR技術の活用は広がっています。具体的には、手術前・術後の映像を立体的に投影してカンファレンスを行うなどです。あるいは、仮想現実で臨床実験を行い、若手医師の育成に役立てる動きも出ています。実際、コロナ禍では医学生が臨床実習を行うのも困難だったため、東京大学はイマクリエイト株式会社と協力して「医学部生向けバーチャルトレーニング」というVRコンテンツを開発しています。  通常、臨床実験などは細心の注意の下で行われるべきことです。しかし、XR技術を使えば、現実で試すには危険すぎることや、費用がかかりすぎることなどもトレーニングできます。こうしたメリットがあるので、VR技術は医療現場以外でも、航空業界でパイロットの育成のために使われるなど、教育目的でも使用されています。

参照元:DG Lab Haus|「コロナで実習ができない」が開発のきっかけ「医学部生向けバーチャルトレーニング」

ビジネスにおけるXRの事例

ビジネスにおいてXRをどのように活用できるのか、一般的な事例を紹介します。自社でも応用できそうな分野がないか参考にしてください。

【VR】VR会議でアバター越しのコミュニケーション

テレワークの普及に伴って増えたオンライン会議ですが、対面で行う場合に比べてコミュニケーションが難しいという声もしばしば耳にします。そこで活用したいのがVR会議です。VR会議とは、VRゴーグルを装着し、アバターの姿を借りて仮想空間に作られた会議室へアクセスして行う会議を意味します。各参加者のアバターには自分の身振りや表情などが反映され、それを参加者同士でも確認できるので、対面に近い感覚で会議を行うことが可能です。

【VR】現地に行く前の模擬旅行

VR技術を使えば、現地に行く前の模擬旅行や下見なども、高い臨場感で顧客に経験してもらえます。あるいは、何らかの事情で旅行に行けない方への代替手段としてもこうしたVR旅行は有用です。エアロバイクとVRを連携させて、現実に外の世界でサイクリングをしているような体験をできるサービスなどもあります。

【VR】現場研修やトレーニング

医療現場での例でも挙げたように、現場研修やトレーニングなどの教育目的でVRを使うのもひとつの方法です。例えば製品の組み立てや機器の操作なども、VRを用いたシミュレーションで行えます。これによって、教育にかかる時間や費用、人的リソースなどのコストを減らすことが可能です。

【AR】工事現場で完成イメージを表示

ARは建設業や土木業などでの活用にも適しています。ARを使えば、施工前の現場に完成イメージや建機を投影するなどして、簡単にシミュレートが可能です。例えば、電子黒板アプリを応用したAR技術を活用すれば、スマートフォンとARマーカーだけで工事写真の撮影ができます。施工時の工事写真撮影、報告業務を効率化することが可能になります。

【AR】トンネルの危険個所を識別

AR技術を使って、トンネルの土木工事の際に危険個所を識別できるサービスも実用化されています。これは「トンネル切羽変状可視化システム」と呼ばれていますが、Webカメラで撮影したリアルタイムの切羽映像(掘削個所)とその変位状況から、崩落の危険性などをシステムが判断し、その結果をウェアラブル端末やPCなどに可視化する技術です。切羽の危険性が可視化されることで、そこで作業している作業員の安全性を高められます。

【AR】商品を自宅に試し置き

家具業界などでは、AR技術を使い、実寸大の商品画像を自宅に投影することで、その商品を自宅に設置した場合のシミュレーションを行えるサービスを提供する企業が増えています。商品のサイズ感や、その商品を置いた場合の部屋のイメージなどが把握しやすくなることで、高価格の商品の販売促進や、返品率の低下などの効果が期待可能です。

【MR】コールセンターでのお問い合わせ対応

MR技術は、コールセンターでの問い合わせ対応などに活用できます。問い合わせ内容によっては、実物がないと説明しにくい場合があります。そうした場合、これまではオペレーターがわざわざ実物を操作しながら対応していました。しかし、MR技術を取り入れれば、製品の3Dオブジェクトを空間上に再現して説明できます。実物が手元になくても説明しやすくなることは、オペレーターのリモートワーク促進にもつながるメリットです。

【MR】製品開発シミュレーション

製造業の事例でも挙げたように、MRは製品開発のシミュレーションに役立ちます。製品開発のシミュレーションといえば、従来なら実際に数多くの試作品を作るか、デジタル上のシミュレーションに留まるかの二択が基本でした。しかし、試作品を作るにはコストがかかりますし、デジタルでのシミュレーションでは実感として分かりにくい部分があります。その点、MRを活用すれば、製品の実像に近い三次元画像を手元に投影しながら開発を行えるので、上記のジレンマを軽減できます。

【MR】試作車の検査業務

従来、試作車の検査をする際は、実寸大の模型を作って、作り直す必要がないか検査していました。しかしこうした模型を作るにはそれだけでも手間がかかる上、設計の変更に伴って何度も作り直さなければなりません。その点、MRを活用すれば、模型を作らずとも視覚的にチェックできる上、設計に変更箇所があってもデータを更新するだけですぐに対応可能です。経験のない作業者でも短時間でミスなく検査業務を行えるなどのメリットもあります。

XRシステム製品の紹介

XR技術を活用するには、VRやARなどそれぞれの技術に応じたシステムまたはデバイスが必要です。そこで以下では、XRの種類別に主な製品を紹介します。

【VR】Meta Quest 2

「Meta Quest 2」はMeta社(旧Facebook社)が提供するVRソリューションです。Meta Quest 2は完全ワイヤレスのオールインワンVRヘッドセットで、PCやスマホなどのデバイスを必要とせずにVR体験ができます。価格も2023年3月時点で最低価格が5万円台であり、一般ユーザーでも購入しやすいのが特徴です。Meta Quest 2はゲームやSNSなどのほか、バーチャル会議などでも利用できます。

【AR】M400スマートグラス

「M400スマートグラス」は、Vuzix社が開発したARスマートグラス(メガネ型デバイス)です。Vuzix社はアメリカで産業用スマートグラスメーカーとして高い評価を得ており、その製品は米軍で採用されるほど高い堅牢性や安定性を誇っているのが特徴です。M400スマートグラスはAndroid OSを搭載しており、スマートフォンと同様に、他のデバイスへ接続することなく、スタンドアローンで動作できます。

【MR】HoloLens 2

「HoloLens 2」はMicrosoft社が開発したヘッドマウントディスプレイ型のMRデバイスです。先に紹介した2つと同じく、スタンドアローンで機能するグラフィックコンピューターとして動作します。HoloLens 2はWindows OSが搭載されており、現実世界に高解像度のCGを投影可能です。視線や動作、音声コマンドに対応しているため、ハンズフリーの状態で作業を進めたり、遠隔通信をしたりすることが可能です。

デジタルマーケティングにおけるXRの役割とは?

ここまでさまざまビジネス領域でXRが活用されていることを紹介してきましたが、デジタルマーケティングではどのような役割が期待されるのでしょうか。 例えば、現実世界に広告を出すには、物理的なスペースが必要です。しかし、XR技術を活用すれば、たとえ現実世界にそうしたスペースがなくても、デジタルオブジェクトとして広告を表示できます。人が行き交う交差点のど真ん中に広告を表示することだってXRならば可能です。 また、VR技術とメタバースをつなげるなどして、コミュニケーションツールとして活用していくこともXRの普及を広げる鍵になります。魅力的なメタバースを構築できれば、そこには多くのユーザーが友達と連れ立って流入してくることが期待できます。そのメタバース空間に広告を出してもいいですし、アバターやコスチューム、インテリアなどのデジタルオブジェクトを商品化していくことなども可能です。 XR技術はまだ実用化して間もない技術なので、活用に向けて積極的に挑戦していくことで、他社に先駆けてその分野で競争的優位性を得られる可能性があります。

XRに将来性はある?

まだ歴史の浅いXR技術ですが、その将来性はどうなのでしょうか。結論から言えば、XRの市場規模が近年急成長していることも踏まえると、その将来性は高いと考えられます。XRはいま注目視されているメタバースとも親和性が高く、Meta社やMicrosoft社などの世界的IT企業も開発に注力していることから、その技術的進歩はさらに加速していくことでしょう。XR技術がさらに発展するにつれ、今後もさまざまな業界で活用が進むことが期待されます。

まとめ

XRとは、現実とデジタルを融合させる技術の総称です。なかでもARの市場規模は急成長しており、さまざまな業界や用途で活用が広がっています。今後さらにXRが進歩していくことを見据え、その活用について検討してみてはいかがでしょうか。

関連する以下の記事もぜひご覧ください。

Web3(Web3.0)とは何? 注目されている理由や代表例を紹介