パルコ、LIFULL、資生堂のテクノロジー活用事情

2018年1019日、ヒューリックホール東京にて「Yappli Summit 2018」を開催しました。

トークセッション3は、リアルとデジタルの融合によるマーケティングの進化がテーマ。

株式会社パルコ執行役 グループICT戦略室担当 林 直孝氏、株式会社LIFULL LIFULL HOME’S事業本部 新UX開発部 デバイスソリューションユニット ユニット長 横山 明子氏、資生堂ジャパン株式会社 EC事業推進部グループマネージャー / 博士(工学) 吉川 拓伸氏の3名を招き、各社の最新テクノロジーを活用したマーケ事例についてヤプリ執行役員である金子洋平が聞きました。

パルコは個客理解のためにアプリやMRを積極的に活用

金子:まず、各社が今、どのようなテクノロジーをどう取り入れているのか、直近の活用事例を伺えればと思います。林さんいかがでしょうか。

林氏:弊社は2014年10月に「POCKET PARCO」というアプリをリリースしました。

これまで商品を購入される瞬間はPOSのデータで取得できていたのですが、商品購入前後の文脈、例えば来店前にどのショップのブログ記事を参考にされた後に購入されたのか、その後どのようにリピートに繋がったのかを分析するのは難しかったです。そこでアプリを駆使することで、行動分析が可能になりました。

今年からは「PARCO WALKING COIN」という機能を導入しています。位置情報と歩数計を連動して、店内での歩数に応じて「コイン」が付与されます。店舗を歩いただけでインセンティブを付与することで、店舗内回遊を促進する狙いがあります。

実際効果は出ていて、今年1月から導入し、PARCO WALKING COIN利用者は買い周り店舗数が約2倍、客単価は1.2~1.3倍になりました。

あと、今後はお客様が利用するデバイスがスマホからVRARMRのゴーグルに切り替わっていくのではないかと思っています。SXSW2018に出展した時、HoloLens(ホロレンズ。Microsoft製のMRデバイス)を使った2020年のショッピング体験を提案しました。実際の店舗とバーチャル映像を組み合わせて、バーチャル映像で試着体験ができたり、商品のスペック情報を閲覧できたり、商品購入もバーチャル上で完結できます。

なぜ我々がこういうことに取り組んでいるかというと、小売そのものに進化の余地があると感じているからです。進化できるポイントとして、2つイメージしているものがあります。

1つはものづくり。今までだと、商品をデザインして、商品サンプルを作って、バイヤーさんが選んだものを生産して店頭に並べるという流れがありました。そこで3Dデータを活用すれば視覚的には着用感も確認できるため、サンプルを作ることなく発注も可能になってくる。生産の工程を省力化できるのではないかと思います。

もう1つは売り場の概念です。店舗の鮮度を保つために一定期間ごとに改装していく必要があります。でも、バーチャルで内装デザインを変えられるようになれば、毎日でも内装を変えることが可能です。バーチャル改装が実現すれば、売り場の改装に時間やコストをかけることなく、本来注力するべきものづくりや接客に集中できると考えています。

あとは、リアル店舗でのお客さまの動きを把握する重要性を感じています。ARVRを駆使すれば、どのお客さまがどの商品を認知し、触れたのかをすべてデータ化できます。そのように取得したデータをAIに取り込んで、接客を助けるためのツールとして活用していくことも可能になると思っています。

LIFULL HOME’Sは不動産探し体験を進化させるためにARを活用

金子:HOME’Sさんはアプリで「かざして検索」という面白い機能がありますよね。あれはどのような経緯で開発されたのでしょうか。

横山氏:今まで物件を探す時は、スマホ画面と向き合うのが普通でしたよね。機能的には各社横並びで、扱う商材もほぼ一緒だったので、体験で差をつけたいと思っていました。

自分が引越しを検討しているとき、ふと目の前にある物件を見て、ここは今空いているのか、賃料がいくらなのかを手間をかけずに知りたいと思いました。そのニーズを解決するための手段としてARが最適だと感じ、「かざして検索」がスタートしました。

かざして検索」はとても簡単に使えます。LIFULL HOME’Sアプリを起動し、建物にスマホをかざすと、LIFULL HOME’Sに登録されている物件であれば情報が出てきます。物件内の間取りも、ホームズくんと一緒に計測できます。

計測するだけならiPhoneの標準機能にもありますが、キャラクターを取り入れることでよりコンテンツに集中してもらえる環境を作っています。

資生堂では培ってきたメイクシミュレーションの技術をテレビ会議に応用

吉川氏:今回事例としてご紹介したいのは、まだプロトタイプで公開はしていないのですが、バーチャルメイク後の自分をテレビ会議に使用できる「TeleBeauty」というアプリです。弊社では90年代からメイクシミュレーションに取り組んでいて、その技術を活用しました。最近、リモートワークを導入する企業が増える中、テレビ会議をする機会も増えています。テレビ会議時の女性の悩みに応えるかたちで開発しました。

私は、どのようなテクノロジーもユーザー体験を向上するために活用するべきだと考えています。テクノロジーを取り入れてあらゆるデータを取り、そこからさらに良い体験を提供していくというエコシステムが回るようにしていきたいと考えています。

最新技術を取り入れる時、プロダクトアウトとマーケットインどちらが適切?

金子:最新テクノロジーを使う時、よくプロダクトアウトかマーケットインどちらを採用するべきかというのは議題として上がりやすいところだと思います。皆さんは新しいテクノロジーを採用される時、どちらの思考に近いでしょうか?

林氏:プロダクトアウトとマーケットインは対義語みたいになっていますが、その中間で模索するのが重要だと思っています。

例えば、今年3月にSXSWで出展したMRの購買体験は完全にプロダクトアウトです。出展した際、来場の皆さんはとても興味を持っていただいて、多くの意見をいただきました。それを踏まえて、5月に渋谷でバージョンアップしたものをポップアップストアとして出店しました。

このように、まずは世の中に出してみて、フィードバックをもらってすぐ改善していくという、プロダクトアウトとマーケットインのいいとこ取りをしてスピーディに最適解を見つけていくのがベストではないかと思っています。

金子:LIFULLさんではいかがでしょう?

横山氏:弊社も、新しい技術がユーザー課題を解決できる可能性があるならとりあえずやってみるという方針ですね。新しいことに挑戦しないと結果が得られないですから。とりあえず挑戦するのを良しとする企業文化はありがたいですね。

もちろん事業とのバランスはあるので、100%を目指さずに80%の仕上がりにして、残りの20%はユーザーや市場の反応を見て改善するイメージです。

吉川氏:そうですよね。あと、サービスを出した後の予算感や運用まで計画しておくというか握っておくのは重要だと思います。

金子:予算を確保するコツってありますか?

吉川氏:自分で取り組みたいテクノロジーを温存しておきます。いくつか玉を用意しておいて、トップダウンの案件が来たとき、最適なものをすぐ出せるようにしておくのは有効かなと思います。

横山:弊社の場合、普段から最新テクノロジーの理解を早めるために情報共有してインプットを促しています。後は、新しいことに取組むとメディアの露出が増えたり、エンジニア採用においてもプレゼンスを上げたりできるという、一度で複数のメリットを得られますと社内に伝えるようにしています。

金子:林さんはどうでしょう?

林:大きく始めないことが大事ですね。スマホアプリ立ち上げの時も、全国で一斉スタートするのではなく、一部店舗で限定的に開始して、実際に成果が出て社内の理解を得られた状態で全国展開をしています。もしうまくいかなくてもまた新しいことに取り組めばいい。新しいこと、誰もやっていないことにチャレンジするのが好きな会社ですし、そういう文化が根づいていると思います。

各社が次に注目するテクノロジーは「音声」

金子:様々なところにアンテナを張られている皆さんが注目されているテクノロジーはなんでしょうか?

横山氏:音声テクノロジーは使ってみたいと思っています。ただ、今のところ不動産探しにマッチしていないかなと。どこかのタイミングで音声の方が楽になるときが来るのではないかと思っています。

あとはMRですね。不動産会社にわざわざ行かなくてもオンラインで契約完了できる世界が近づいてきています。そこでMRを活用すれば、自分だけでなく人と一緒に契約を進めている安心感を提供できます。わざわざ足を運ばなくても良い住まい探しができる環境を提供できればいいなと考えています。

吉川氏:僕も音声ですね。スマートスピーカーというより音声のUIに可能性を感じています。声には感情がこもるので、化粧とすごく関連していると思っていて。気持ちのスイッチを入れたい、リラックスしたいという気持ちがわかれば、状況に適したレコメンドができるようになるのではないかと思っています。

金子:おもしろいですね。確かに声には体調の変化や感情の起伏が含まれますしね。

吉川氏:Optune(気候や肌の測定データをもとにその日に合わせたスキンケアを提供する資生堂開発のデバイス)には、今の気持ちを選択する機能がありますが、声のトーンから感情や体調を自動的に読み取れるようにしたいとチームで話しています。

林氏:弊社も音声テクノロジーは取り入れています。池袋PARCOと名古屋PARCOに、スマートスピーカーとタブレットを組み合わせてお客様の質問に応えるという音声案内サービスを展開していますが、実際運用してみると想定外のことが多数起きて学びが多いんですよね。例えば、お客様がトイレの場所を聞かれたとき、スマートスピーカーは「トイレはこちらです」と大声で案内をしてしまう。大勢の人がいる前では音量などに配慮がほしいというご意見をいただいた時、大きな気づきを得られました。

AIはまだそこまで気を使えませんから、人間がチューニングしなくてはいけない領域がまだまだあると思います。そのようなお声をいただいて、即日「お探しの施設はこちらです」という返答に切り替えました。実際にやってみないとわからないことがたくさんあると改めて実感しました。

顧客体験向上の手段として、今後もテクノロジーと向き合っていきたい

金子:最後に、直近で取り組みたいと思っているものがあれば教えてください。

林氏:デジタル化されたデータを取得し統合しているところなので、そのデータをAIでどう活用していくかというところですね。

我々のような商業施設の場合、お客様は欲しいものを探しきれずに帰ってしまうパターンが多いので、そこをしっかりマッチングできれば、PARCOでのお買い物をもっと楽しんでいただけると考えています。お客さまの買い物体験をより良くしていきたいですね。

横山氏:最近、iPhoneAndroidでスマートフォンの利用時間を確認できるようになりましたよね。各社がユーザーの健康を意識し始めたというか、利用時間に対する注意を促しているのでしょう。

なので、アプリの利用時間を短くしていかなければいけないかなと感じています。今までゴールまで10ステップかかっていたのをもっと短縮して、簡単にマッチングできるようにしたいです。まずは利用時間の長さでサービスの良し悪しを判断するのはやめようと考えています。

吉川氏:弊社もパルコさんと同じくAI活用に取り組んでいます。店頭の美容部員が持っているノウハウや知識をデジタル化して、いつでもどこでも誰でも使える状態にしたいと考えています。ただ、すごく難しい分野です。

お客さまは、商品を買うためだけではなく、なんだか肌の調子がおかしいから相談したいなど、目的がはっきりしていない、目的が途中で変わる状態でいらっしゃるときもある。AIでこのような状況に対応するためには、まずは接客データの収集を戦略的に取り組まなければならないですね。