エンゲージメント 経営とは? 導入方法やメリット、事例を解説

近年、エンゲージメント経営と呼ばれる経営手法が注目を集めています。この記事では、エンゲージメント経営の概要やニーズが高まった背景、具体的な導入方法を解説します。エンゲージメント経営のメリットや取り入れる際のポイントを押さえ、取り組み事例を参考にしましょう。

この記事に興味がある方におすすめ!

働き方や仕事における価値観が変化している昨今において、従業員が自身の日々の仕事に満足できるような体験を提供することで、組織エンゲージメントを高める方法について丁寧に解説。
組織エンゲージメントの向上はなぜ近年、そして今後より大切になっていくのかや、アプリなどのデジタルツールを活用して、従業員の業務を効果的にサポートする方法などを紹介します。

SNSと組織エンゲージメントをつくるためのGuide Book

エンゲージメント経営とは

エンゲージメント経営とは、企業が従業員との相互の信頼関係を重視する経営です。
エンゲージメント(engagement)の意味は、「契約」「約束」などです。
ビジネスにおけるエンゲージメントは従業員エンゲージメントと呼ばれることもあり、従業員の愛着心や企業に貢献したい度合、または企業と従業員が相互に信頼して成長することを示します。

かつては、企業と従業員の関係性を知るために、従業員満足度という指標が使われることもありました。
従業員満足度は従業員が企業に対していかに満足しているかを示すものであり、企業との相互関係はありません。
従業員エンゲージメントは相互の信頼関係にもとづいて発展するものであり、より強固なつながりを作ることに有効です。

エンゲージメントを高めることで、従業員が高い愛着心を持ち企業のために進んで働くようになるはずです。
企業と従業員の間に深いつながりや絆ができることで、人材の定着や生産性の向上といったさまざまな効果が見込めます。
現在、日本の企業は離職率の増加や従業員のモチベーション低下など、多くの問題に直面しています。

さまざまな課題が深刻化したことを受け、これまで重視されてこなかったエンゲージメント経営に取り組む企業が増えました。

関連記事:エンゲージメントとは?重要性や成功事例をご紹介。

エンゲージメント経営の導入方法

エンゲージメント経営は、すぐに実現できるものではありません。以下に示す必要な方法を、段階的に行っていきましょう。

エンゲージメントスコアを測定する

まずは自社の現状を把握するために、エンゲージメントスコアを測定しましょう。

エンゲージメントスコアとは、従業員の愛着心やエンゲージメントの現状を可視化した指標です。
アンケートなどを実施してエンゲージメントスコアを測定する必要がありますが、アナログな手法では手間がかかります。
効率的にスコアを測定するならば、専用のツールを利用するのがおすすめです。

多くの企業が多様なツールを提供しているため、コスト面や測定項目、信頼性などを考慮した上で、自社の目的に合致したツールを選ぶことが重要です。
さらに、測定対象となる従業員に測定の目的を説明して、理解や協力を得ることも重要です。

問題点を可視化する

エンゲージメントスコアの結果によって、自社の課題を可視化しましょう。
従業員が自社に対してどのような感情を持っているのか、評価体制やサポートシステムにどのような課題があるのかなどを明らかにすることで、対策を考えられるようになります。
スコアが低いほど従業員が自発的な貢献意欲を持っておらず、望ましい企業の在り方と乖離していることを示すため、迅速な対策が必要です。企業の体制やシステムに関わる問題は、従業員の満足度だけでなく企業としての発展に影響します。

具体的な課題解決の立案を行う

可視化された問題点を解決するために、原因を分析して具体的な対策を考える必要があります。従業員のモチベーションや内部の人間関係、企業のサポートシステムや環境整備など、さまざまな分野において改善すべき点を明らかにしましょう。

課題解決のための立案を行う際には、課題に優先順位をつけるとよいです。
スケジュールを組み、早期に実行するもの、中長期的に取り組むものに振り分けます。
その後、優先順位が高いものから解決を図りましょう。 複数の部署・部門で同じ対策が行われるように、マニュアルやガイドラインを準備するのも有効です。
適切な対策を実施し、企業としてあるべき姿に近づけましょう。

効果測定・改善を行う

対策の実施後は、効果を測定する必要があります。
実施前と比較して、エンゲージメントスコアが変化しているかを確認しましょう。
効果を得られなかった場合には何が問題だったのかを考え、再度課題解決の立案を行います。
効果があった場合にも、なぜ成功したのか、さらに改善すべきポイントはないかを考えましょう。

エンゲージメントスコアの測定から改善までのサイクルは、一度回して終わりではありません。一定の周期でPDCAサイクルを回し続ける必要があります。
その中で蓄積した成功や失敗の事例を対策に反映させることで、より高いエンゲージメントスコアを出せるようになるはずです。

エンゲージメント経営を取り入れるメリット

エンゲージメント経営の導入は、企業や従業員にプラスの影響を及ぼします。

労働生産性が向上する

従業員のエンゲージメントは、労働生産性に大きな影響を及ぼします。

エンゲージメント経営によって従業員のエンゲージメントが改善すると、パフォーマンスや労働生産性が向上します。
従業員と企業に信頼関係が築かれれば、待遇や仕事内容に変化がなくとも、従業員は企業に貢献しようというモチベーションを維持できるからです。

株式会社リンクアンドモチベーションと慶応義塾大学の共同研究では、エンゲージメントスコアが1ポイント上昇すれば当期の営業利益率が0.35%、労働生産性は0.035ポイント上昇することが明らかになりました。
調査発表の中では、エンゲージメント向上による効果は比較的短期間で得られる可能性があり、エンゲージメントスコアを経営指標に設定して継続的に取り組むことが重要であると述べられています。 企業と従業員の相互理解を深めることで双方にプラスの影響がもたらされるため、エンゲージメントを向上させる施策が必要です。

引用元:株式会社リンクアンドモチベーション 「エンゲージメントと企業業績」に関する研究結果を公開 

離職率の減少につながる

多くの企業が離職率の増加に悩んでいます。
人手不足が深刻化する中で優秀な人材が流出し続ければ、企業の競争力も低下しかねません。 エンゲージメントの向上は、離職率の減少につながります。

2019年に株式会社アスマークが実施した分析調査によると、企業への満足度と離職意向は反比例の関係になることが示されています。 企業に対して強いつながりや愛着心を持っていれば、退職してよりよい条件の企業で働くことを考えづらくなるはずです。
従業員が満足しやすい環境づくりに努め、エンゲージメントを向上させる取り組みを行いましょう。

引用元:株式会社アスマーク 1万人データから探る、社員の離職要因とエンゲージメント(愛着心・思い入れ)に関する分析レポート 【職種別・役職別】 

企業と従業員の関係がよくなる

エンゲージメントの向上によって従業員は企業への強い帰属意識を持ちます。
企業で働くこと自体に満足感や働きがいを感じられるため、企業と従業員の関係がよくなる効果が期待できます。
企業は従業員が能力を発揮しやすい場を整え、従業員は企業の働きかけに応えようと努力することで、相互にプラスの影響を与え合います。

従業員は高いモチベーションを持ち、企業のためになることを率先して行うようになります。
多くの従業員が同じ目標に向かい努力すれば組織としての力も増し、社会情勢の変化やさまざまな課題に一丸となって取り組めるでしょう。モチベーションの高い従業員同士が積極的に関わるようになれば、連携しやすくなります。職場全体の雰囲気もよくなり、人間関係の悪化やトラブルを未然に防げるかもしれません。 良好な人間関係は、生産性の向上や離職率の低下などにも影響を与えるはずです。

社会的評価が向上する

エンゲージメント経営を導入した企業は、高い社会的評価を受けられる可能性があります。従業員が働きやすく、企業と信頼し合う関係を築く取り組みをすることで、従業員を大切にする企業というイメージを与えられるからです。

従業員が個性や能力を発揮し、企業とのつながりを実感できるようにすれば、給与や福利厚生といった制度面の改善をせずとも満足度を高められる可能性があります。
エンゲージメントの高い企業という社会的なイメージが定着すれば、優秀な人材が集まりやすくなる効果も期待できます。これにより、業績や競争力、ブランド価値の向上など、さらなる好循環が生まれます。

商品・サービスの質が高くなる

従業員が企業に貢献したいと強く思うようになれば、積極的に仕事に取り組むため、商品・サービスの質も向上する可能性が高まります。商品・サービスの品質は、企業への評価や信頼に直結します。
そのため、企業を信頼する従業員は、よりよい商品・サービスを顧客に提供したいと考えるようになるはずです。
各分野の従業員が意欲的に商品開発やアイデアの創出、問題点の解消などに取り組むことで、商品・サービスの品質向上が実現可能です。

著書多数、名和氏が語ったパーパス経営の本質とは

「革命的で、皆がわくわくするような目標が、パーパスである」
と述べる名和氏。

本資料では、パーパスを起点に名和氏が提言する
「新SDGs」、「イノベーションを生む組織のあり方」、
「組織内でのDXの使い方」「味の素株式会社のパーパスで変化した事例」など、他では聞くことができない貴重なお話しが盛り込まれています。

人事・経営・組織作りに携わる方々は、ぜひ以下よりご覧になってみてください。

人的資本経営時代のニュースタンダード パーパス経営とは

エンゲージメント経営の取り組み事例

多くの企業がエンゲージメント経営に取り組み、成果を上げています。以下に示す事例を参考にして、企業がどのような視点からどういう施策を行っているかを押さえましょう。

株式会社ユーザベース

株式会社ユーザベースは、エンゲージメントが高い企業として評価されています。

同社では働く場所や働き方が自由であり、さまざまな属性の人材が働いていますが、共通して重視するのが「7つのルール」です。 「7つのルール」とは組織の行動指針かつ価値観であり、以下に示すバリューです。

・自由主義で行こう
・創造性がなければ意味がない
・ユーザーの理想から始める
・スピードで驚かす
・迷ったら挑戦する道を選ぶ
・渦中の友を助ける
・異能は才能

バリューを掲げるだけでなく、バリューを浸透させるための取り組みも行っています。
マネージャーや執行役員も含めた社内の情報発信や、コミュニケーションの活発化を図ることによるバリューを実践しやすい環境構築、「7つのルール」にまつわるエピソードを集めた「Year Book」の製作などです。
企業の核となる「7つのルール」とさまざまな取り組みによって、従業員は自由な環境で働きながら創造性やパフォーマンスを向上できます。

引用元:株式会社ユーザベース 私たちについて

株式会社リクルート

株式会社リクルートでは、定期的にエンゲージメントサーベイを実施して課題発見や課題解決に取り組んでいます。

リクルートが促進しているのは、「個の可能性に期待し合う場づくり」です。
複雑化する社会課題の解決には、さまざまな個性を掛け合わせて協力し合う体制が必要だという視点を持っています。
リクルートではエンゲージメントサーベイを通して、職場状況の可視化や従業員の対話による課題特定が行われてきました。2022年3月時点でエンゲージメントサーベイ回答率は94%、職場フィードバックミーティング率(サーベイを起点とした職場全員の対話)は47%です。

各職場では組織に関する考えを話し合い、特定した課題を解決してよりよい職場にするための取り組みが行われています。 さらに、企業トップによる情報発信や、従業員間のコミュニケーションを促す社内広報誌の発行も高頻度で行われています。各従業員が主体性を持ち、活発なコミュニケーションやサーベイによる課題発見・解決を推進することでエンゲージメントの向上が可能です。

引用元:株式会社リクルート エンゲージメント 

株式会社アトラエ

株式会社アトラエが目指すのは、意欲あるメンバーが無駄なストレスを感じずに働ける組織です。従業員が企業戦略を理解して能力を発揮し、エンゲージメントを維持するためにさまざまな施策を講じてきました。

オープンな情報共有:経営上の数値や資料のオンライン化、従業員への情報開示
フラットな組織づくり:上下関係なし、取締役以外の役職なし
360度評価:会社への貢献を指標に従業員同士が評価し合う
全員株主:従業員に特定譲渡制限付き株式を譲渡

アトラエでは会議もオンラインで行われており、全従業員に情報を平等に公開してアクセス可能な状況を作っています。
個人のミスも開示し、学ぶことで同じミスの防止が可能です。取締役以外の役職がないため、出世争いは起こりません。

上下関係がないことから評価する人がいないという問題を解決するため、従業員同士が評価し合い給与分配を定める360度評価を導入しました。また、全員株主制度によって、全従業員が株主の視点を持ちながら業務をこなせます。
これらの取り組みによって従業員が能動的に動けるようになり、離職率の平均は5%未満(2020年~2022年)に抑えられました。

さらに、平均エンゲージメントスコアは90~91(2020年~2022年)です。 エンゲージメントが低下した際は、原因を解消する制度を検討するなど、多方面からのアプローチによって高いエンゲージメントが維持されています。

引用元:株式会社アトラエ ESGデータ

エンゲージメント経営が注目される背景

エンゲージメント経営にはさまざまなメリットがあり、紹介したように実際に取り組んでいる企業も多くありますが、そもそもなぜエンゲージメント経営が注目されるようになったのでしょうか。

日本企業はエンゲージメントが低い

日本の企業は、海外の企業に比べてエンゲージメントが低いことが明らかになっています。 アメリカの企業「KeneXa High Performance Institute」は、世界28か国で、従業員が100名以上の企業を対象に従業員エンゲージメントに関わる調査を行いました。 2012年に発表された結果によると、上位3か国のインド、デンマーク、メキシコの従業員エンゲージメント指数は77%~63%でしたが、日本は31%で最下位でした。
日本企業の従業員は、仕事に対するモチベーションが世界的に低いことが分かります。モチベーションが低い従業員しかいない企業の業績は悪化するため、国際競争にも勝てません。 日本企業において、エンゲージメントを高める施策やエンゲージメント経営導入の必要性が高まっています。

引用元:「Engagement Levels in Global Decline: Organizations Losing a Competitive Advantage」 

引用元: DIAMOND online 世界でダントツ最下位!日本企業の社員のやる気はなぜこんなに低いのか? 

労働人口が減少している

日本では少子高齢化が進み労働力人口が減少し続けているため、企業にとって人材の確保や定着は急務です。 内閣府の「令和4年版高齢社会白書」によると、日本の生産年齢人口(15~64歳)は2020年には7,509万人ですが、2050年には5,275万人まで減少する見通しです。
労働力人口の減少が深刻化すると予測される中、安定した経営を目指すなら人材の定着が不可欠です。そのためには、企業は従業員が高い意欲を持って安心かつ快適に働ける環境を提供しなければなりません。

引用元:内閣府 令和4年版高齢社会白書

顧客からの支持を集められる

従業員が積極的に企業に貢献する姿勢を目にした顧客は、企業に対してよいイメージを持ちやすくなります。高品質の商品・サービスを提供することで新規顧客やリピーターの獲得にもつなげられ、売り上げの向上にも期待できます。 顧客からの支持を得ることが従業員のやりがいや喜びになり、さらによい品質の商品・サービスの提供を心がけるという好循環がもたらされます。

エンゲージメント経営に取り組むポイント

エンゲージメント経営を成功させるには、さまざまな工夫や取り組みが必要です。
重要なポイントを理解し、取り入れましょう。

長期的な視点で取り組む

エンゲージメント経営に取り組んでも、すぐに効果が表れるわけではありません。強固な信頼関係を一度構築できれば簡単には崩れないため、思うような結果が出ない場合でも焦らないようにしましょう。
前述の通り、エンゲージメント経営では問題点の可視化や効果測定・改善などのPDCAサイクルを繰り返すことが重要です。 企業全体で長期間、継続的に取り組むことを前提としましょう。うまくいかない場合でも原因の考察や検証を重ねることで、少しずつ成功に近づきます。

従業員の意見も取り入れる

エンゲージメント向上のための施策を行っても、従業員の意見を無視したものであれば効果は上げられません。職場環境の整備や評価制度の改善などの取り組みには、現場で働く従業員の意見や要望を反映させる必要があります。
さまざまな背景を持つ従業員が無理なく働き、成長できるような制度や環境づくりが重要です。成果を上げられた場合の評価だけでなく、努力を評価する制度や失敗した際のサポートも充実させましょう。従業員は努力や成果を正当に認められることでやりがいを感じ、企業への信頼が高まります。 施策実行後も、従業員に相談して改善点に反映させることが重要です。

上司のマネジメントスキルを向上させる

従業員の成長速度には個人差がありますが、上司の指導は大きな影響を及ぼします。失敗しても従業員がモチベーションを高く保ちエンゲージメントを向上させるには、上司のマネジメント力が不可欠です。
上司には企業理念やビジョンを正しく理解して伝える力や、従業員の背景や能力、性格などを理解したうえで指導することが求められます。 コミュニケーションを密に取り、日ごろから従業員が担当する仕事の進捗状況を把握しましょう。
通常業務に加えて行うエンゲージメント向上の取り組みは負担になる場合があるため、周囲の協力や他部門との連携などによって負担を軽減させるための措置を取ることも大切です。

社内コミュニケーションを活性化する

社内で情報発信・共有や意見交換が活性化すると、エンゲージメントが向上します。コミュニケーションを密に取ることで互いの状況を把握しやすくなるため、行き違いやミスが減ります。 コミュニケーションをスムーズに取るためには、チャットツールなどの導入がおすすめです。相手との信頼関係構築や理念の共有もしやすくなり、部署間の連携もスムーズにできます。 さまざまなコミュニケーションツールがありますが、自社アプリは自社の業務形態に合ったカスタマイズができるため使いやすく業務効率化に役立ちます。

この記事をご覧の方にぜひ見て欲しい 三菱UFJ信託銀行様の事例

実は三菱UFJ信託銀行様では、従業員向けアプリを起点とした組織エンゲージメントを高める施策が進んでいます。
アプリを起点に、会社のミッション・バリューの浸透、社内報・研修コンテンツの共有、経営層のメッセージ、キャリアに関するコンテンツなどを発信。

同社はどのような組織作りを目指しているのか。
お気軽にぜひご覧ください!

三菱UFJ信託銀行
社員向けアプリで従業員と会社をつなぐ架け橋となる!