アンケートなどの定量調査では得られない消費者の本音を探るには、対面で行う定性調査のデプスインタビューが適しています。本記事では、デプスインタビューとは何か、グループインタビューやエスノグラフィー調査との違い、実施の目的、メリット・デメリット、調査の進め方、成功のポイント、外注した場合の費用相場を解説します。
目次
デプスインタビューとは?
デプスインタビューとは、対象の人物とインタビュアーが1対1で対面する定性調査の手法です。英語表記の「Depth Interview」の頭文字を取って「DI」または「パーソナル・インタビュー」とも呼ばれ、1人当たり1時間以上かけて意見を聞くなど、比較的長い時間を費やして行います。主に市場調査などに用いられる調査方法であり、代表的な手法のひとつです。
デプスインタビューの特徴は、その言葉通り「デプス(深さ)」のあるインタビュー手法であることです。インタビュアーが対象の人物と1対1で対面しヒアリングすることで、表に見える情報だけでなく、生活や行動の実態を深く掘り下げて把握できます。加えて、質問に対する答えや反応で、その人物の裏側にある願望や不満、価値観などの深層部分を読み取ることも可能です。そうすることで、商品およびサービスの開発・販売などに役立てることができます。また、ペルソナ設定を目的とする調査にも適した手法です。
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グループインタビューとの違い
グループインタビューは、2人だけの対面で行うデプスインタビューとは違い、一般的に5~6名程度の共通属性を持つ人物を集めて座談会方式で実施します。お互いが自由に発言することで、消費者の願望や不満を収集できます。
この手法のメリットは、参加者がお互いの発言に刺激され、多くの意見が続々と出てくることが期待できる点です。一方で、他人の意見に影響を受けてしまう可能性があることや、人前で話しにくいテーマには向かないというデメリットもあります。グループインタビューも、消費者のニーズを理解するといった点ではデプスインタビューと同じ目的ですが、手法や合うテーマが異なります。
エスノグラフィー調査との違い
デプスインタビューと同じように、主に1人の人物を対象に行う調査にエスノグラフィー調査があります。
しかし、エスノグラフィー調査ではインタビューではなく、行動の観察が主に行われます。対象者の生活環境や生活習慣も把握でき、消費者の日常を調査することで、潜在的なニーズを導き出すことができます。そのため、エスノグラフィー調査は、新商品開発に向けたニーズの調査が主な目的として行われます。
デプスインタビューの目的
デプスインタビューでは、対面で商品・サービスの選択理由などを対象の人物から聞き出します。そのため、簡単な一問一答などのアンケート調査ではわからない、深層心理を導き出すこと可能です。デプスインタビューを行う主な目的として、以下に例を挙げて解説します。
・深層心理および行動の背景を把握するため
アンケートなどの定量調査で得た内容について、具体的な調査を行う目的として実施します。定量調査では得られない深層心理や行動背景を把握できます。
・マーケティング施策構築のため
マーケティング活動において、アイデアを収集する目的で実施します。施策の構築を行う前に実施することで、アイデアの収集ができ施策の方向性を定めることができます。この場合、質問内容を幅広く設定することが大切です。想定外の情報を得られる可能性が高まります。
・定量調査の内容を精査するため
定量調査における質問内容や項目が妥当であるかを探る目的でもデプスインタビューは行われます。意外な視点を得られることもあり、これまでの定量調査よりもさらに充実した内容で調査が行えます。
デプスインタビューのメリット
デプスインタビューは、マーケティング活動において多くのメリットをもたらします。ここでは、代表的な4つのメリットについて解説します。
潜在ニーズを把握できる
デプスインタビューは、1人に対して1時間以上もの時間をかけてその人物の考えや心の内を聞き出していきます。そこでは、商品やサービスに対する要望や不満だけでなく、その意見に至るまでのエピソードなども聞くことが可能です。そのため、その商品やサービスへのニーズだけでなく、必要とする理由、不満を抱く理由などの潜在的なニーズを把握できます。 消費者の潜在ニーズは、マーケティング施策の新たな構築や商品・サービスの開発におけるヒントとなり得ます。このような潜在ニーズを明らかにできることが、デプスインタビューの大きなメリットです。
本音を把握できる
インタビューを受ける人物にとって、1対1という環境は本音を語れる絶好の場所です。グループインタビューのような複数人が参加している場所では、他の人の意見に影響されてしまう恐れがあります。たとえば、これまで自分で持っていた意見が、他の意見を聞くことで自信がなくなってしまう、もしくは全く見当違いな気がしてしまうなどのケースが考えられます。 その点で、デプスインタビューの場合は、他者に影響されずに素直な本音を語ることができます。ただし、本音を聞き出すには、インタビュアーの力量も必要です。相手の感情を捉え、本音を語れるよう上手く誘導することが大切です。
オンラインで完結する
オンラインで実施できるのもメリットのひとつです。アプリやツールを利用して行うビデオ通話など、インターネット環境が整っていれば、場所や時間に捉われることなくインタビューを実施できます。また、全国のどこからでも参加者を集めることが可能です。参加者がわざわざ会場まで足を運ぶ必要もないため、交通費などもかかりません。
さらに、オンラインという環境により、参加者が余計な緊張やストレスを感じずに済むこともメリットです。自宅という安心できる場所でインタビューが受けられるため、終始リラックスして参加者から話を聞くことができます。踏み込んだ内容や本音を引き出しやすくなるのも、オンラインで行うインタビューのメリットです。
デリケートなテーマについて話せる
デプスインタビューにおける1対1での対話は、グループインタビューではヒアリングできないようなテーマにも向いています。本人の了承を得た上で、たとえば、病気や健康面、お金のことなど、他の人に聞かれたくないような話題でも、1対1ならば、踏み込んで話をしやすくなります。こういったプライベートな話題に触れやすいのも、デプスインタビューの特徴です。
デプスインタビューのデメリット
一方で、デプスインタビューは、その特性から時間がかかることや議論が発展しにくいこと、情報が偏りやすいなどのデメリットがあります。以下で詳しく解説します。
時間がかかる
デプスインタビューは、1人に1時間以上もの時間をかけて綿密に行うのが一般的です。そのため、情報を集めるのに時間が要されます。グループインタビューでは、1度に5~6人分の情報を集めることができますが、デプスインタビューにおいて5人分の情報を得ようとすると、5回のインタビューが必要になります。人数が多くなるほど時間がかかりますが、サンプルは数が多いほど有効活用できるため、時間をしっかり取って効率的に行いましょう。
費用がかかる
1人に対して多くの時間を費やすデプスインタビューは、グループインタビューに比べて費用がかかることも把握しておかなければなりません。1日に実施できる回数は限られており、多くのサンプルを得るには、1週間以上もの時間がかかる場合もあります。そのため、オンライン以外の場合、インタビュー会場を借りる費用なども日数に応じて発生してしまいます。 さらに、インタビューで得た情報の分析にも時間や費用がかかります。デプスインタビューでは、1人から多くの情報を得られるため、その分析やレポート作成にも多くの労力が必要になります。デプスインタビューを実施する際は、スケジュールに余裕を持たせ、それなりの予算も立てておくことが大切です。
議論が発展しにくい
他者との意見交換ができるグループインタビューでは、参加者同士がそれぞれの発言に触発され、議論が発展しやすくなります。それに比べ、1対1の対話であるデプスインタビューでは、議論が発展しにくい傾向にあります。ただ、あくまでこの手法の目的は、個人における考えや行動を深く掘り下げていくことです。あくまでこの手法の目的は、個人における考えや行動を深く掘り下げていくことです。たとえ1対1でも、議論を発展させて深層を探るには、インタビュアーの技量も求められます。ただ単に用意された定型の質問を読み上げるだけでなく、相手の話にあわせて柔軟に質問を設計することができるなどのテクニックにより、潜在的なニーズの引き出しが期待できます。
偏った考えになる可能性がある
1人の人物に対するインタビューのため、得られる情報は個人の考えや価値観の範囲内のものであることが前提になります。 グループインタビューでは、さまざまな意見が生まれ、さらに話が膨らんでいくといった状況が期待できます。一方、デプスインタビューではそのような状況になる可能性は低く、あくまで個人の意見を深く聞き出すことが目的になります。そのことから、デプスインタビューで得た情報は、大多数の消費者が持つ意見ではないということを意識しておくことが大切です。
デプスインタビューの調査の進め方
デプスインタビューの進め方を順序に沿って解説します。
1. 調査の目的を明確にする
マーケティングにおけるあらゆる調査に共通することですが、まずは調査を行う目的と課題を明確にする必要があります。調査の目的とは、「何のための調査なのか」ということであり、課題とは、「調査によって何を明らかにするのか」ということです。
さらに、その課題を解決するための仮説を立てておくことも大切です。特に商品やサービスの開発者と販売者がそれぞれ仮説を立てておくとよいです。その仮説と対象者の意見を照らしあわせることで、作り手と受け手の意識の間にどのような差があるのか、反対に共通点はあるのかなどを検証することが可能です。また、事前に仮説を立てることで、対象者への質問内容が定まり、効果の高い調査が行えます。
2. 調査対象者を決める
調査目的や課題が明確になったら、対象となる人物の条件を定義して選定します。調査の目的や課題にあった人物の選定はもちろんですが、デプスインタビューでは、その特性からさらなる条件を追加することが重要です。その条件とは、会話に対して積極的であること、また、ひとつの質問に対して、多く話してくれることなどが挙げられます。というのも、インタビューのテーマにあった人物であっても、会話に消極的で、質問に対して少ししか回答してくれないような人物では、得られる情報が浅いものとなってしまいます。さらに、自分の購買行動や生活の変化などを語ってくれる人物、自己分析ができて自分の好きなものや求めるものを率直に語れる人物などが理想です。加えて、自社の商品やサービス、ブランドについて詳細に語れる人物も選定の対象にするとよいです。
また調査対象者の選定のために、Webアンケートを行うのが一般的です。その際、選定基準を伏せておく必要があります。なぜなら、Webアンケートでは、報酬を目当てに虚偽の内容を答える可能性がゼロではないからです。また、その際、選択肢の回答のみに絞らず、自由回答欄を設けることもおすすめです。条件に合っているかどうかが選択肢の回答だけでは判断できない場合、自由回答欄でその要素を見つけられる可能性があります。
3. 調査対象者の報酬額を決める
調査の対象となる人物が決まれば、その人物に支払う報酬額を決めなければなりません。デプスインタビューでは、1人に対して、多くの時間を割いてもらうことになるため、労力や時間に見合う適切な報酬額を設定することが大切です。
一般的な報酬額の相場は、1時間で5,000円~1万円になります。調査の対象となる人物が医師や弁護士などの専門職である場合や企業の上級管理職である場合、報酬額は相場よりも高く設定される場合があります。
4. インタビューフローを作成する
対象者および報酬額の決定後は、実際のインタビューにおいてどのような順序でどのような質問をするかというシナリオを立てます。これはインタビューフローと呼ばれ、質問内容と質問する順序を明記したものです。 まずは、質問内容の洗い出しから始めます。洗い出した内容が「立てた仮説を立証できるか」「深層心理を引き出すための仕掛けがあるか」は効果的なインタビューにするための重要なポイントになります。 質問内容が決定したら、優先順位と質問の順序を決めましょう。限られた時間でインタビューの成果を得るには、優先順位や質問の順序が決め手です。時間がなければ優先順位の低い質問を省けるようにしておきます。
5. インタビューを実施する
インタビューフローが完成したら、実際のインタビューに移ります。デプスインタビューでは、扱うテーマやスケジュール、予算などで異なりますが、一般的には10名ほどのインタヴュー対象者の確保が目安とされます。インタビューのスケジュールは、1日に2人ずつ進めるなど長い期間をかけて実施する場合や、1日に5人ずつ集中して実施するケースがあります。また、インタビュアーを複数設定して、何人かのインタビューを同時に行う場合もあります。 また、デプスインタビューでは、何回かインタビューを行った後、回答や反応によって質問を変更したり追加したりすることも大切です。事前に作成したインタビューフローをベースにしながらも、質問順序などを柔軟に変更することで、より成果の高いインタビューが実現します。 万が一、スケジュールを上手く調整できないと、インタビュー実施期間が長くなり、結果全体が振り返りにくくなることも危惧されます。そのため、調査を設計する時点で、綿密なスケジュール調整が重要です。
6. インタビューで得た情報を分析する
まずはインタビューでの発言内容を対象者ごとにまとめます。録画データや録音データをもとにして書き起こしをする作業が多くを占めますが、記録係がインタビュー中に速記することも可能です。まとめた情報は、感情や願望を表すワードや頻出するワード、ポジティブもしくはネガティブな反応など、観点ごとに分類して整理します。
次は整理した内容の分析です。整理した情報の関連性を分析することで、これまでになかった視点や気づきを抽出できます。そこから商品やサービスの改善点や、新たな商品開発のためのアイデアやヒントなどを得られることがあります。
最後にレポートの作成です。レポートは、何の目的でどのようなインタビューを実施したか、その結果、どのような成果が得られたかをまとめます。決まった形式はありませんが、調査目的や課題、調査方法、結果の要約、分析内容、発言録などの項目で構成します。 デプスインタビューで得られるのは、数値化できるデータではなく、言語や行動によって得られるデータです。そのため、整理して分析すること自体難しく、多くの経験と技術が必要となります。調査を専門とする会社に依頼することもひとつの方法です。
デプスインタビューを成功に導く3つのポイント
ポイントを押さえることで、成果が得られるインタビューが実現できます。成功に導くためのポイントを3つ解説します。
1. 謙虚に聞き役に徹する
インタビュアーはあくまで聞き役であり、デプスインタビューの目的は潜在ニーズを引き出すことです。限られた時間の中でインタビュアーが余計な話をすることや、データを欲するあまり答えを誘導してしまうなどの事態にならないよう、終始謙虚な姿勢で聞き役に徹することが大切です。また、本音を話しやすい雰囲気を作り出すのも重要なポイントです。
一方で、インタビューに投影法やラダリングといったテクニックを使うことも有効です。投影法は、言葉では表現しにくい曖昧な内容について、たとえば「これを使っている人はどのような人だと思いますか?」など、別の誰かを想定させたり、イメージを使ったりして間接的に問う方法です。種類としては、文章完成法やバルーンテスト、比喩法/擬人化法、第三者技法などがあります。また、ラダリングとは「なぜそれがよいのか」などの質問を繰り返し行う方法で、対象者の考えや価値観などを掘り下げて聞き出すことができます。
2. 対象者に共感して、心理的距離を縮める
対象者に対して適度に共感し、心理的距離を縮めることも重要なポイントです。インタビューにおいて対象者は、話したことに対して反応がないと、どのように受け取られているのか不安に感じることがあります。適度に相槌を打ったり「そうですね」などの言葉で共感を示したり、対象者にとって安心して話せる相手になることが大切です。特に、プライベートに踏み込んだ話題やデリケートな話題では、共感してくれることで、安心して話すことができます。
また、先入観を持たずに、対象者の話題に興味を示すことも大切です。 インタビューの対象者が、想定と異なる回答を提示してきた場合でも、対立するようなそぶりを見せてはいけません。相手を否定するような言動や行動は、本音を引き出すどころか、インタビューそのものが台無しになる恐れがあります。
3. 相手の発言を注意深く観察する
言葉の真意や深層心理を聞き出すためにも何気ない反応や態度、発言を注意深く観察することが大切です。そのためにも、「先ほどの発言ですが…」など、会話の端々に生まれた発言を拾い、次の会話につなげていくことも、効果的なインタビューのポイントになります。
また、ラダリングのように対象者が話してくれた内容に対して、「どうしてそう思ったのですか?」「それはどういうことですか?」などの質問を繰り返すことで、対象者自身が思い込みや勘違いに気付くケースもあります。相手にただ答えを求めるのではなく、考えさせられる余地のある質問をすることが重要です。
デプスインタビューにかかる費用の目安
デプスインタビューにおいてすべての工程を外注する際、以下のような費用がかかります。
・基本料金
デプスインタビューの調査設計や実際のインタビューにかかる費用です。調査内容や質問数などによりが料金は変動しますが、一般的な相場は5万円~15万円になります。外注先によって、企画費やシナリオ作成費などが発生する場合もあります。
・リクルーティング料
インタビューの対象となる人物を選定する際にかかる費用です。金額は条件や選定の難易度により決定されますが、一般的に、1人あたり1万円~1万5,000円かかります。
・レポーティング料
インタビューで得た情報の分析およびレポート作成にかかる費用です。レポートに盛り込まれる内容や形式、ボリュームは外注先によって異なりますが、簡易的であれば5万円、内容によっては20万円ほどかかる場合もあります。
・対象者への謝礼
対象者への謝礼は、前述したように1人あたり5,000円~1万円が相場です。さらに、専門職や管理職に就く対象者の場合は高額になることもあるため、相場よりも多めに予算を設定しておきましょう。
・会場使用料
外注先のインタビュールームなどを使用する場合、1時間2万円~3万円ほどの会場使用料が発生することがあります。その一方で、インターネットの普及から、オンラインツールを使用してデプスインタビューを実施するケースも増えているのが実情です。オンラインでのインタビューは、費用だけでなく、参加者の負担も軽減しつつ迅速にインタビューが行えます。そのため、オンラインのサービスを展開する外注先を検討するのもおすすめです。
以上の項目を踏まえ、デプスインタビューをオンラインで10人に行った場合にかかるトータルの費用相場は、リクルーティング料と謝礼を1人あたり1万円として、30万円~55万円です。加えて会場使用料が加算されたり、謝礼が高額になったりした場合はさらに費用がかかる恐れがあるため、十分な予算を確保しておく必要があります。
まとめ
デプスインタビューは1対1で行う調査方法であり、対象者の願望や不満、価値観などの深層心理を聞き出すことができ、本音や潜在的なニーズを把握できる手法です。進め方は、まず調査する目的を明確にし、対象者や報酬額の設定、フローの作成、実施、レポート作成の順に行います。すべての工程を行うのが困難な場合、外注するのもひとつの手です。
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