現代の市場環境において競争的優位性を確保するには、顧客視点で自社の商品・サービスの魅力や課題を把握することが欠かせません。その際に役立つのが、4C分析という分析手法です。
本記事では、4C分析で着目する4つの要素をはじめ、4P分析などの他の分析手法との関係や活用シーンなどを解説します。ぜひご参考にしてください。
4C分析とは
4C分析とは、マーケティング戦略を立てる際に用いられる分析手法のひとつです。4C分析の4Cとは、「Customer value」、「Cost」、「Convenience」、「Communication」という4つの単語の頭文字に由来しています。4C分析は、この4つの要素を中心に据え、顧客視点で自社の製品・サービスを分析するのが特徴です。
4C分析の視点
前述のように、4C分析では「4つのC」を分析の基軸に据えます。各要素の詳しい意味は以下の通りです。
Customer value(顧客価値)
最初のCは、顧客にとって商品・サービスが持つ価値を意味します。従来、多くの企業は性能や品質を高めることが商品の価値を高めることだと考えていましたが、実際には顧客がどのような部分に価値を感じるかは多種多様です。 「好みのデザインか」「持ち運べるサイズや設計か」「人気のあるブランドか」「アフターサービスは充実しているか」など、さまざまな要素が合わさって、その顧客にとっての商品・サービスの価値が構成されます。もちろん、品質や性能も重要な要素のひとつですが、多角的な視点から消費者のニーズを考察することで、顧客一人一人にパーソナライズされたマーケティング戦略を展開することが可能になります。
Cost(顧客のコスト)
第二のCは、商品の購入や利用に際して顧客側が必要とするコストです。製品原価のような企業にとってのコストではないので注意しましょう。コストと言うと価格面のことが最初に連想されますが、ここにはお金以外のコストも含まれます。たとえば、購入するために遠方のお店に行かなければならないとしたら、交通費に加えて、時間や労力といったコストも必要です。また、「使いこなすのが難しそう」という認識が顧客にあれば、学習のコストなども加わってしまいます。 ただし、価格面にしてもその他のコストにしても、低ければ低いほどいいというほど単純なものでもありません。たとえば高価な商品は品質の高さの表れであると捉えることもできますし、行列に並ばないと入れないのはそのお店が人気の証拠でもあります。そのため、コストをやみくもに抑えようとするよりも、「顧客が満足・納得できるコスト感はどこか」を総合的に分析するところから始めるのが大切です。
Convenieince(顧客利便性)
第三のCは、商品・サービスの購入や利用のしやすさです。顧客が商品を購入したり、サービスの利用を継続し続けたりするためには、利便性が大きな要因になります。店舗の営業時間やアクセスのしやすさ、企業や店員へのコンタクトの取りやすさ、サイト設計の分かりやすさ、多様な決済方法への対応などが利便性にかかわる具体例です。 ECマーケットがこれほど巨大な市場になったのも、この利便性によるところが大きいでしょう。家にいながらいつでも膨大な商品情報にアクセスして好きな物を購入できるというのは、実店舗での買い物にはない便利さです。顧客がストレスなく購入・利用できる環境を整えることが、顧客を獲得・維持するための鍵になります。
Communication(顧客とのコミュニケーション)
最後のCは、顧客とのコミュニケーションです。顧客接点と言ったほうがより正確かもしれません。顧客は、対話や接触の機会が多い企業や商品に対して、愛着や信頼感や強く感じる傾向があります。そのため、顧客と接触するチャネルや方法、機会を多様にそろえ、質の高い対応をすることが顧客を惹きつけるためには非常に重要です。 顧客接点の具体例としては、ECサイト、コーポレートサイト、問い合わせフォーム、メール、動画サイト、SNSなどさまざまな種類があります。もちろん、実店舗や電話などのアナログな顧客接点も未だ重要です。特に高齢者などは、何かあったときにデジタルでやりとりするよりも対面の方がいいという人もいるでしょう。また、オンラインの顧客接点にしても、今後また新たなものが登場してくることは十分に考えられます。そのため、コミュニケーション手段は、自社の業態や顧客属性を考えながら、時代にあわせて工夫していくことが重要です。
4C分析の重要性
4C分析が重要なのは、現代のビジネスにおいて成功を収めるためには、顧客視点を持つことが大きな鍵になってきているからです。 現在のマーケットには多種多様な商品・サービスがあり、消費者はインターネットを通していつでも好きなものを買えるようになっています。つまり、顧客のニーズを考慮せずに商品・サービスを提供していると、競合に埋もれて見向きもされない恐れがあるのです。 そのため、現在のマーケティングは不特定多数の顧客に発信するマスマーケティングから、顧客一人一人に最適化された発信を行うOne to Oneマーケティングを重視する流れへと移行しつつあります。しかし、顧客に深く刺さる商品・サービスを開発したり、プロモーションを行ったりするには、前提として深い顧客理解を備えていなければなりません。 そこで重要になってくるのが4C分析です。4C分析を活用すれば、顧客が求めるものについて4つの異なる視点から把握することが可能になります。4C分析も万能のツールではないので、他のフレームワークと併用したほうがより効果的ですが、顧客理解を深める上で4C分析を活用するメリットは大きなものです。
4C分析の活用シーン
顧客理解の深化に役立つ4C分析は、以下のようにビジネスのさまざまなシーンで活用できます。
新しいサービス・商品を企画するとき
4C分析によって顧客が何を求めているのかを理解することは、新たなサービス・商品を開発する際に役立ちます。製造のしやすさや生産コストの低さなど、自社の都合ばかりを気にして商品を開発すると、肝心の顧客を置き去りにした商品になってしまいかねません。しかし、4C分析を取り入れて、顧客視点で魅力のある商品とは何かを客観的に分析してみることで、顧客を強く惹きつける商品を開発しやすくなるでしょう。
既存サービス・商品を見直すとき
4C分析は、すでに提供しているサービスや商品についてさらに売上や利用者を伸ばしたい場合にも、その改善のために活用できます。4C分析で把握した顧客が求めていることと、自社の商品や提供しているサービス内容のギャップを比較することで、現状の課題を把握し、顧客の満たされていないニーズに対処できるようになります。アンケート調査やカスタマーサポートに寄せられる顧客の声なども分析材料として取り入れることで、より実態に即した対策が可能になるでしょう。
キャッチコピーを考えるとき
購買を促すキャッチコピーを作成する際の参考情報を得るためにも4C分析は有効です。自社目線で商品をアピールしようとすると、顧客にとってさほど関心のない部分を強調してしまう恐れがあります。しかし、4C分析によって顧客が魅力的に感じる部分を明らかにすることで、顧客に対して深く刺さるキャッチコピーを作成しやすくなります。
競合を分析するとき
競合他社の商品・サービスを分析する際にも4C分析は効果的です。現在は類似した商品・サービスが数多く存在するので、自社の商品・サービスだけを見ていても、差別化が不十分になる可能性があります。そこで競合の商品・サービスも併せて分析し、顧客目線で自社と競合の共通点や強み・弱みを比較することで、競合と差別化を図るための戦略を実施しやすくなるでしょう。
採用戦略を立てるとき
4C分析は商品・サービスの展開だけでなく、人材を獲得するための採用戦略にも応用可能です。この場合、顧客を求職者に置き換えて、自分が求職者側ならどのような会社に就職先としての魅力を感じるか分析する形になります。 「自社が求職者に提示できる価値とは何か」「応募したり将来的に入社して働いたりする上でネックになりそうな部分は何か」など求職者目線で考えましょう。そうすることで、自社のアピールポイントを整理したり、職場環境や雇用条件などを見直したりして、人材の集まりやすい会社にできます。
4C分析と他の分析との違い
以下で紹介するように、マーケティング分析には、4C分析以外にもさまざまなフレームワークがあります。それぞれの特徴や違いを理解し、適宜使い分けたり組み合わせたりすることで、より精度の高い分析をすることが可能です。
3C分析
3C分析は、「Customer(顧客・市場)」、「Competitor(自社)」、「Company(競合他社)」の3つの視点からビジネスで成功するためのキーファクターを分析する手法です。顧客分析に特化した4C分析に対して、3C分析は自社の全体的なビジネス環境を把握するためのより包括的なフレームワークであることに特徴があります。
5C分析
5C分析は3C分析から派生したフレームワークです。3C分析における3つの要素に、「Customer’s Customer(中間顧客)」と「Community(地域)」の2つをさらに加えて分析をかけます。場合によっては、「Collaborator(協力者)」や「Context(背景)」という視点が入る場合もあります。 5C分析は流通業者などの「中間顧客」や「地域」といった要素が入る分、3C分析よりもさらに外部要因の分析に重きを置いてビジネスの成功要因を探すのに適したフレームワークです。3C分析と5C分析が環境分析という同系列の分析手法であるのに対して、4C分析は名前こそ似ているものの、顧客分析に特化していることに大きな違いがあります。
4P分析
4C分析とよく比較されるフレームワークが4P分析です。4P分析とは「Product(製品)」、「Price(価格)」、「Place(流通)」、「Promotion(販促)」の4つのPから販売拡大やマーケティング戦略を検討する手法です。4C分析が買い手(顧客)の視点から分析を行うフレームワークであるのに対し、4P分析は売り手(自社)の視点から分析を行うことに特徴があります。 歴史的に言えば、4C分析より4P分析の方が早くから存在する分析手法です。しかし先述のように、現代の市場環境に対応するためには、自社の視点だけでなく、顧客の視点に立って物事を分析することが欠かせません。そのため、4P分析の足りないところを補完する手段として4C分析が登場しました。とはいえ、自社の内部要因を度外視してマーケティング戦略を立てることもできないので、4P分析と4C分析は相互補完的に利用することをおすすめします。
STP分析
STP分析とは、「Segmentation(市場の細分化)」、「Targeting(ターゲット設定)」、「Positioning(自社の位置づけ)」の3要素を分析するものです。STP分析は、自社の商品・サービスのニーズがある市場や顧客層を特定し、その中で自社の強みをどのようにアピールしていくべきか整理する際に役立ちます。
SWOT分析
SWOT分析は自社の「Strength(強み)」、「Weakness(弱み)、「Opportunity(機会)」、「Threat(脅威)」の4つの要素を分析するフレームワークです。自社の現状を整理して、今後のビジネスの進め方を検討したり課題把握したりする際に役立ちます。顧客理解を深めるために利用される4C分析に対し、SWOT分析は自社そのものへの理解を深めるための分析手法です。
4C分析に関連する概念
4C分析を行う際には、以下で紹介する「ペルソナ」や「カスタマージャーニー」などの顧客関連の概念についても理解しておくと役立ちます。これらの概念は、後述する4C分析のやり方を解説する際にも出てくるので、ぜひ覚えておきましょう。
ペルソナ
ペルソナとは、自社の商品・サービスの提供対象となるターゲット層の典型的な人物像です。年齢・性別をはじめ、職業・家族構成・年収・ライフスタイルなどの情報を詳細に付与することで、まるで実在しているかのような生き生きとした人物像を設定します。 詳細なペルソナを設定することで、どのような人物が、どのような状況や思考の流れで商品・サービスに興味を持ち、購入に至るのか具体的にイメージしやすくなります。商品・サービスの開発や販促方法の検討などを効果的に行うのに役立ちます。
カスタマージャーニー
カスタマージャーニーとは、顧客が自社やその商品・サービスを認知し、関心を深め、購入に至るまでのプロセスを旅になぞらえた概念です。カスタマージャーニーを図示・可視化したものはカスタマージャーニーマップと呼ばれます。顧客へのアプローチは、顧客が商品・サービスにどれだけ知識や関心を持っているかによって適切な方法が変わってきます。したがって、カスタマージャーニーの各段階に応じて、どの人にどのようなアプローチをしていくのが最適か分析することは重要です。 カスタマージャーニーマップの詳細や作り方については、以下の関連記事を参考にしてください。 関連記事:カスタマージャーニーとは?マップの作成方法などの基本を1から解説https://yapp.li/magazine/4822/
4C分析のやり方
続いては、上記で挙げた他の分析手法も併用しつつ4C分析を展開する方法を解説します。
環境について調べる
まずは自社がターゲットとする市場環境などの調査を行います。具体的には、市場のトレンド、競合する商品・サービスの状況、その中における自社の位置づけなどです。この際には、先述の3C分析やSWOT分析が役立ちます。顧客の需要は市場状況に応じて変化するので、まずはこの環境分析によって、自社を取り巻く全体的な状況を俯瞰的に把握することが重要です。
顧客情報を掘り下げる
続いて、自社がターゲットとする顧客の行動や心理、ニーズなどについて深掘りして分析していきます。この段階においては、上記で紹介したペルソナやカスタマージャーニーを活用すると効果的です。自社のターゲット像をペルソナの作成を通して具体化し、そのペルソナがどのような経緯を経て、自社の商品・サービスについて知り、関心を深め、購入の判断に至るのかを詳細に分析していきましょう。
差別化をおこなう
4C分析と4P分析を組み合わせて、他社との差別化を意識しながらマーケティング戦略を検討していきます。複数のマーケティング分析を組み合わせて利用することをマーケティングミックスといいます。4C分析と4P分析はコインの裏表のような関係で、両者の分析の中心となる概念は以下のような対応関係で示すことが可能です。 ・顧客価値(Customer value)と製品(Product) ・コスト(Cost)と価格(Price) ・利便性(Convenieince)と流通(Place) ・コミュニケーション(Communication)と販促(Promotion) このように顧客視点と自社視点の両方から分析をかけていくことで、顧客に対して効果的にアピールできる自社の強みを明確化すると共に、需要と供給のバランスが取れた戦略を策定できます。
4C分析における注意点
効果的に4C分析を行うには、以下のような注意点やコツを押さえておくことが重要です。
顧客視点を忘れない
4C分析は、顧客視点に沿って進めていくものであることは絶えず意識しておくことが重要です。この点がおろそかになっていると、いつのまにか企業側の視点に戻ってしまい、自社にとって都合のいい主観などが入ってしまう恐れがあります。たとえ自社にとって受け入れがたい分析結果が出てきそうでも、そこは甘んじて受け入れていく覚悟が必要です。 アクセス解析などで得られる客観的に数値で示せるデータを参考にしたり、商品・サービスに関するアンケート調査を行い、顧客の声を直接入手したりすることで、顧客視点に寄り添った分析を行いやすくなるでしょう。
ターゲットを明確化する
続いて重要になるのが、どのような顧客をターゲットとするのかを明らかにしておくことです。ターゲット設定が曖昧なままだと、分析の焦点を定めることができません。自社のメインターゲット層以外の視点から分析するようでは非効率的です。そのため4C分析においては、ペルソナの作成を通してターゲットの人物像に具体性を持たせることが重要です。
整合性をとる
顧客心理の実態により即した分析をするには、4つの視点の整合性をとることが重要です。いくら商品の品質が良くても、価格設定が高すぎれば手を出せる顧客は限られてしまいます。それらのバランスが取れていても、商品を買うまでのプロセスが面倒であったり、プロモーションが不十分で認知度が低かったりすれば、やはり顧客がその商品を手に取る可能性は低くなってしまいます。そのため、特定の要素だけを重視するのではなく、4つの要素のバランスを意識しながら戦略を立てることが成功のコツです。
優位性を確認する
4C分析を活用するには、競合他社と比べて自社にどのような強みがあるのか、自社の優位性について改めて確認しておくことも役立ちます。この優位性としては、価格、品質、立地、希少性、ブランド力など、さまざまなものを想定可能です。 先述のように、現代の顧客は数多くの類似商品を目にしているので、この優位性をうまくアピールできないと、顧客にとって他の商品との違いがよく分からず印象が薄くなってしまいます。商品自体に違いを持たせるのが難しくても、アフターサービスを充実させるなど、付加価値の部分で違いを出していくことも効果的です。
4C分析の例
最後に、4C分析をどのように活用すればよいのか参考例を紹介します。
カフェ事業
まずは、カフェ事業における4C分析の活用について考えてみましょう。つまり、顧客にとって魅力を感じるカフェの要素とはどのようなものか分析してみるのです。カフェの場合、Customer valueは、「くつろぎやすい店舗やおいしいコーヒー」などが挙げられるでしょう。最近ではSNSの流行などもあり、「インスタ映えするラテアート」なども高く評価されます。 Costに関しては、一般的なチェーン店であれば「手頃な価格」などがやはり代表例です。Convenienceは、駅前やショッピングモール内にあるなど「訪れやすい場所にあること」などが重要になるでしょう。「クレジットカードやスマホ決済を使えること」や、コロナ禍をきっかけに広がった「モバイルオーダーに対応していること」などもここに加えられます。 Communicationについては、接客業である以上、「質の高い接客」は欠かせません。しかし、それ以外にも「SNSで積極的に情報発信をしていること」なども顧客に対してオープンな印象を与え、好意的に捉えられます。
アパレル事業
続いては、アパレル事業を例に分析してみましょう。アパレル事業は安価なファストファッションからオーダーメイドにも対応している高級店まで幅広いですが、ここではファストファッションの顧客層を想定してみます。 アパレルの「Customer value」は、顧客の趣味嗜好やニーズに応じて非常に多種多様です。たとえば、「シンプルだけどファッション性もある」「カラーバリエーションが豊富」「大きいサイズもそろえてある」などが挙げられます。 ファストファッションであれば、Costは「低価格」であることが優先的な要素です。とはいえ、コストパフォーマンスを重視する顧客であれば、ある程度は「長持ちすること」なども考慮に入れるでしょう。 Convenienceはカフェと同様に「会計に利便性があること」のほか、「気軽に試着できること」なども考えられます。Communicationはテレビや雑誌、SNSなどによる「多様な手段でのプロモーション」などが重要です。最近では、店員がコーディネート例などを発信している場合もあり、顧客を惹きつけるのに役立っています。
まとめ
4C分析とは、顧客視点で自社の商品・サービスの魅力や強みなどを明確にするために役立つ分析手法です。他の分析手法と共に4C分析を活用することで、深い顧客理解に基づいたマーケティング戦略を展開しやすくなります。顧客視点を中心に据えたマーケティング方法について関心のある方は、以下のURLの資料もぜひご覧ください。
この記事をご覧の方にぜったい見て欲しい無料eBook!
分析を行い、顧客について深く理解するために有効活用したいのが「顧客データ」ですが、どのように分析をしていけば良いのか知識が曖昧・・という方必見。そこで、データを使ってどのように集客やマーケティング施策に活用していくかについてまとめた無料eBookをプレゼントします。
ちょっとしたスキマ時間で気軽に見れるボリュームなので、ぜひ一度ご覧になってみてください!