アンケートから見えてきた、小売業界の販促を激変させる「新しい買い物のかたち」

今回ご寄稿いただいたのは、株式会社ロコガイド マーケティング部『リテールガイド』編集長の竹下浩一郎さん。小売販促のDXに詳しい竹下さんに、独自のアンケート調査をもとに、「若年層の購買行動がどう変化しているか」「その変化に小売企業はどう対応するべきか」について教えていただきます。

はじめに

主要顧客が高齢化する中、若年層の取り込みに苦労しているスーパーマーケット(SM)企業は少なくありません。販促が「高齢者向けの施策」に偏っていることも、その原因の一端ではないでしょうか。紙の「チラシ」はその代表例といえそうですが、実際、新聞購読率の低下などもあって、チラシ自体の効果が小さくなっていると感じている人も多いと思います。

問題意識を持ちつつも、なかなか現状の取り組みを変えられないということは、よくあることです。もちろん、若年層にアプローチするためにどのような手法を取り入れればよいのかがよく分からないということもあるでしょう。より根本的には、若年層の購買行動についての理解不足があるように思えます。

そこで本記事では、株式会社ロコガイドのサービス利用者や女性に対する生活者アンケートの結果をもとに、若年層の購買行動を読み解きながら、効果的にアプローチする方法について考えてみたいと思います。

若年層中心に、情報入手は「チラシからスマホ」へ

 

図表①は株式会社ロコガイドが実施した調査の結果をまとめたものです。ここからは、年代が下がるにつれてチラシの閲覧習慣が大きく下がる傾向が読み取れます。60代が過半であるのに対し、20代は1割を割る水準です。まさに極端な減り方といえるでしょう。

60代といえば、まさに現在のSMの主力の顧客層です。いまは、ある程度の売上げも取れているからよいのでしょうが、これが10年後、20年後にどうなるでしょうか。従前と変わらないチラシ前提の販促では、今後大きく集客を減らす可能性が高いと言わざるを得ません。

若年層の意識について、別の視点で見てみましょう。まず、株式会社ロコガイドが2019年7月に実施した「若年層女性グループインタビュー」の発言から幾つか抜粋してみます。

「そもそも折込チラシに興味がないし、読み解けない」という刺激的なものがあった他、「価格をすべて覚えているわけではないので、おトクかどうかの判断もできない」「どこも同じような商品ばかりで差がわからない こだわりの違いを教えてほしい」など、チラシに対して厳しい意見がありました。せっかくコストをかけ、表現にもこだわって作ったチラシのメッセージが、特に若年層には届いていないということが伝わってきます。

それではどのような切り口で販促を考えればよいのでしょうか。もちろん、方策はいろいろあるでしょうが、1つの重要な要素として「デジタル化」が挙げられることは確かでしょう。

図表②は、スマホの所有率の推移を年代別に見た総務省のデータです。20代、30代の若年層の所有率が100%に近い水準に高まっているのは納得のできることでしょう。

一方で50代、60代の所有率の高まりも顕著な傾向として見て取れます。高齢層とも分類される60代でも18年段階で56%以上の所有率となっています。その意味では、デジタルツールの代表的存在であるスマホは、すでにあらゆる世代にとっての「インフラ」になっているといえるでしょう。

若年層の集客に課題があるからこそ、スマホを前提としたデジタル化への対応が急がれるわけですが、そもそもそれ以前に、SMの主力の顧客層である60代自体がすでにスマホを当たり前のように使いこなしている現実があります。その面でも、集客方法におけるデジタル対応が、将来対策ではなく、まさに喫緊の課題になっていることが分かります。

「更新の早さ」「外で見られる」「保管しやすい」が求められる

前述の「若年層女性グループインタビュー」には、「特売日には、お店にいけない。お店は専業主婦の味方なのか」といった声もありました。やはり働く女性が増えた昨今、販促を考える上でも「時間」の重要性は高いということが分かります。

販促のデジタルシフトは当然のこととして、販促においては、多くの情報の中から自分にとって何がお得かが分かる「分かりやすさ」、そしてそれをすぐに実現する「早さ」、究極的にはリアルタイムでの情報発信が求められているのではないでしょうか。

その点、図表③の「望ましい買物情報」は、「早さ」という点で年代による違いが良く出ていて興味深いデータです。最も差が出たのが「更新の早さ」。若い世代ほど情報が早く更新されることを望んでいます。

もう1つ、年齢層で大きく差が開いた項目に、情報を「外で見られる」「保管しやすい」という点があります。若年層は圧倒的に情報を外で見られることを重視し、さらに保管のしやすさを望んでいます。

これらの要素は、スマホなどを活用したデジタルのツールに置き換えればほとんど解決することが分かります。まず、「更新の早さ」については、デジタルが最も得意とするところです。「外で見る」という点で考えれば、パソコンではなく、スマホであるという点も重要になってきます。「保管のしやすさ」についても、紙のチラシよりデジタルの方が圧倒的に便利でしょう。

時間の重要性を示すものとして、図表④の「普段行くお店の数」は示唆に富むものです。年齢層が若いほど、利用する店舗が少なくなる傾向が表れているからです。体力面で考えれば、若年層の方が機動力があり、多くの店に訪れそうな気もしますが、実態は逆のようです。

働く女性の増加は長年指摘されていることですが、やはり、若年層が「忙しい」「時間がない」傾向にあると考えるのが自然でしょう。

ここからは、「時間をかけて店舗同士の売価を比較するよりも、1つの店舗でまとめて購入したいというニーズ」があると読み取れます。若年層の集客を高める上では「ストアロイヤルティ」を高めることが重要であるということが分かります。

チラシがない中でも、お買い得情報は強く求められていた

冒頭で、問題意識を持ちつつも、なかなか現状の取り組みを変えられないという点に触れました。しかしながら、今年の春、それを一気に変えるような出来事が起こりました。言うまでもなく「新型コロナウイルス」が起こしたさまざまな影響です。

4月7日に7都府県に緊急事態宣言が行われ、16日に対象が全国に拡大されるなど、日本中に危機感が広がりました。その中で、SMなどの小売業は「密」を避けるために集客につながるチラシを一斉に自粛しました。

今回、新型コロナウイルスの影響下という特殊な環境の中、お客の意識、また買物行動はどのように変化したのでしょうか。株式会社ロコガイドが自社サービスのトクバイアプリのユーザー1218人に対して2020年4月に実施した生活者調査の結果を通じて見てみましょう。

まず、当時、生活者が店からの情報としてどのようなものを欲していたのでしょうか。それを聞いたのが図表⑤です。最も多かったのが「営業時間変更の情報」であるのは、当時の状況からすれば納得のできるものです。経済活動が制限される中、多くの店で営業時間の短縮が実施されました。非常時のような状況だからこそ、リアルタイムの情報発信の重要性が改めて実感できます。

一方で、「その日のお買い得情報」が営業時間の変更と同程度の数値になっている点は注目です。当時、一部商品で買い占めのような状態が発生しましたが、「商品の入荷予定情報」や「商品の在庫情報」、さらには「お店の混雑状況」といった一見関心の高そうな項目よりも、お買い得情報の方が、数値が高くなっています。

同様のことは、図表⑥を見ても分かります。「買物で困っていること」を聞いたものですが、トップの「欲しい商品が欠品している」というのは当時を考えると納得できるものですが、こちらでも「チラシの休止が増えて特売情報がわからない」が2位につけていることからも、お客がお買い得情報を重視していることが分かります。

実際に寄せられる生活者の声の中には、「お買い得情報を把握してパッと買い物をすませたい」といったものがありました。非常時においてもお買い得情報の位置づけは依然として高いものがあるようです。

前述のように、今回、多くの企業がチラシを自粛しました。それが上記のような結果をもたらしたのですが、一方で、企業側は実際には特売価格は継続しているケースが多かったと思われます。この辺り、お客がお買い得情報を求めていることを考えれば、適切な情報提供によってお客の満足度を高められるチャンスと捉えることもできます。

あるSM企業のトップは、「チラシなどを一切やめたため売上げが大きく落ち込んだ。価格は安くしていたが、競合企業にはネット(の販促)を続けていたところもあり、そうした企業との競合した企業は厳しかった」と当時を振り返ります。実際、この会話で名前の挙がった、ネット販促を続けていた企業の既存店売上高は、他の企業と比べても頭1つ抜けて好調でした。もちろん、ネット販促だけが好調の要因ではないでしょうが、その1つであったとは言えると思います。このエピソードは、非常時における情報提供の在り方について大きな示唆を与えるものです。今回の一連のチラシ自粛の動きを「根本的に販促を見直すチャンス」と見る向きもあります。

販促のデジタル転換における「アプリ」のメリット

ここまで、「若年層の購買行動」と「新型コロナウイルスがもたらした販促へのインパクト」について、触れてきました。共に従来の販促手法からの転換、具体的には「デジタル」への転換を求める内容になっていますが、それらの条件に最もマッチするのは、やはり「アプリ」であると言えそうです。

紙のチラシを代替するデジタルツールとして、その情報の鮮度や、外出先などさまざまなところで閲覧できる点、また、若年層が利用する店が少ない傾向にあるという点については、アプリは個別のブランドごとにダウンロードするので、ストアロイヤルティ向上に向いているという特性もあります。特に新型コロナウイルスの影響が続く中、「密」を避ける意味もあって、お客も買物頻度を減らし、まとめ買いを増やす傾向にあります。そうした中にあって一層、ストアロイヤルティの重要性は増しています。

「新型コロナの影響でチラシをやめ、いまでも戻していないのですが7月も既存店は好調。もうチラシはやめて、アプリにしようと思っています。これからは地上戦ではなく、空中戦ですね」

これは、あるSMの幹部が率直に語った意見です。この発言には、図らずも今回の新型コロナウイルスが後押ししたことが良く表れています。

もともと、若年層の購買行動は、販促のデジタルシフトへの移行を強く促していました。今回の新型コロナウイルスによって、それがより明確になったことは間違いないようです。

執筆者プロフィール

竹下 浩一郎(たけした こういちろう)
株式会社ロコガイド マーケティング部『リテールガイド』編集長
中央大学文学部卒業後、株式会社商業界入社。スーパーマーケット経営専門誌『食品商業』、チェーンストア経営専門誌『販売革新』編集部を経て2014年11月『食品商業』編集長。20年5月株式会社ロコガイド入社。コーネル大学リテール・マネジメントプログラム・オブ・ジャパンの講師なども務める。ファイナンス修士(専門職)(中央大学)。

▼小売流通業界のデジタル変革をガイド『リテールガイド』
https://retailguide.tokubai.co.jp/

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