デジタル化が加速する現代市場では、インターネット広告の戦略的活用が重要課題となっています。インターネット広告をより効率的に運用するために欠かせないのが「AI(Artificial Intelligence)」の活用です。
本記事ではAIを広告戦略に活用するメリットや企業事例などについて解説します。
AI広告とは
AI広告とは、人工知能を広告の制作・配信・運用などに活用する広告手法です。
AIは計算機科学における一分野であり、言語の理解や物事の認知、状況に応じた判断、未来の予測など、人間特有の知的活動をコンピュータ上で再現することを目的とします。
そして事象を学習して法則化するという知的能力をコンピュータ上で再現するAIアルゴリズムを機械学習と呼びます。この機械学習モデルや、コンピュータに言語を理解・生成させる自然言語処理(NLP:Natural Language Processing)などのAI技術を活用した広告手法がAI広告です。
AI技術を広告配信に活用する主なメリットとしては、広告運用の自動化と広告品質の高度化が挙げられます。
AI広告はターゲティングの詳細設定や広告の予算配分、入札価格の適正化、配信スケジュールの管理などを省人化・自動化できるため、広告運用における業務負荷の大幅な軽減が可能です。
そして機械学習モデルがユーザーの属性や嗜好を分析することで広告コンテンツが最適化され、見込み客や顧客一人ひとりにパーソナライズされた高品質な広告体験を提供できます。
このようなメリットを享受できるよう、用途に応じてさまざまなAIツールが開発されています。
目次
AIを活用できるインターネット広告
現代はデジタル化の進展とともにインターネット広告の市場が年々拡大しており、2021年にはマスコミ4媒体広告の市場規模を初めて上回っています(※1)。そんなインターネット広告における重要課題のひとつがAIの戦略的活用です。AI技術を活用できる代表的なインターネット広告としては以下の4つが挙げられます。
(※1)参照元:令和4年版 情報通信白書(p.68,69)|総務省
SNS広告
SNS広告とは、TwitterやInstagram、Facebook、LINEなど、SNSの広告枠に出稿できるインターネット広告です。
総務省の「令和4年通信利用動向調査(※2)」によるとSNSの利用率は80.0%となっており、ソーシャルメディアを利用するユーザー数は年々増加している傾向にあります。若年層から高齢層に至る幅広いユーザーがソーシャルメディアを利用しているため、不特定多数の潜在顧客に対してアプローチできる点がSNS広告の大きなメリットです。
また、SNS広告はユーザーの年齢や性別、居住地といったデモグラフィックデータや行動履歴に基づく詳細なターゲティングが可能であり、見込み客一人ひとりにパーソナライズされた広告配信もできます。
ただし、ターゲティングの精度を確保するためにはマーケティング分野に関する高度な知見が必要です。SNS広告の運用にAIを活用できれば、ターゲットの選定やユーザーの絞り込み、リアルタイムな分析、キャンペーンの管理、広告テキストの自動生成などが可能となります。
(※2)参照元:令和4年通信利用動向調査(概要)(p.11)|総務省
リスティング広告
リスティング広告は検索連動型広告とも呼ばれ、ユーザーが検索したキーワードと連動して掲載されるインターネット広告です。広告主が入札したキーワードに連動して広告が表示されるため、特定の需要をもつ見込み客に対して効率的にアプローチできます。
また、広告表示そのものにはコストを必要とせず、広告がクリックされた段階で広告費が発生します。そのため、広告の無駄打ちによるコストの増大を最小化できる点が大きなメリットです。 こうしたメリットをもつリスティング広告ですが、高い成果を創出するためには競合性の低さと購買意欲の高さが両立したキーワードを選定したり、見込み客の興味関心を引く広告文を作成したりしなくてはなりません。
リスティング広告にAIを用いることで、キーワードの発掘や入札業務、広告文の作成などを自動化できます。 また、機械学習はデータセットに基づく正誤判定を得意としており、リスティング広告の成果分析や効果測定を高い精度で実行できる点もメリットのひとつです。
ディスプレイ広告
ディスプレイ広告とは、WebサイトやWebサービス、アプリケーションなどの広告枠に掲載されるインターネット広告を指します。代表的なサービスとして挙げられるのは、Googleの「GDN(Google Display Network)」と、Yahoo! JAPANの「YDA(Yahoo Display Ads)」です。GDNとYDAは各社が運営するさまざまなWebサービスやパートナーサイトに広告が表示されます。不特定多数の幅広いユーザーに広告が配信されるため、商品やサービスの認知度拡大を図りたい場合に適しているインターネット広告です。
先述したSNS広告も同様ですが、ディスプレイ広告はリターゲティング広告の配信もできます。リターゲティング広告とは、広告主のWebサイトを離脱したユーザーを追跡し、別のオンライン媒体に自社広告を表示するWeb広告です。競合サイトに遷移したユーザーを再び自社サイトに誘導できるため、機会損失を最小限に抑えられます。
ディスプレイ広告にAIを活用できれば、ユーザーのセグメンテーションやリターゲティングの設定、広告の自動生成などが可能となり、広告戦略の効率化とターゲティングの高精度化に寄与します。
動画広告
動画広告とは、その名の通り画像やテキストではなく映像コンテンツを活用した広告です。広義ではテレビ広告や屋外広告なども含まれますが、一般的には動画配信サービスやSNSなどで配信される映像コンテンツ型の広告を指します。動画広告の大きなメリットは非言語的な訴求で視覚と聴覚にアプローチすることで、画像広告やテキスト広告よりもプロダクトのもつストーリー性を印象付けられる点です。
ただし、動画広告は制作に相応のコストや時間を要し、さらにクオリティの確保が難しいというデメリットがあります。また、ユーザーは視聴しているコンテンツを動画広告によって妨げられる形になるため、不快感を与えてしまうリスクも少なくありません。動画広告にAIを導入できれば、自動生成アルゴリズムが動画コンテンツの制作をサポートするとともに、動画内に登場する人物や商品、テキストなどの要素を分析して効果的な訴求方法を予測したり、広告配信の最適化を支援したりできます。
広告にAIを活用する効果
機械学習や自然言語処理といったAI技術の得意領域は、データセットに基づくパターン認識と学習によるタスクの自動化です。たとえばデータの正誤判定や特徴量の抽出、異常値の検出、高精度な予測モデルの構築、テキストの自動生成といった分野に長けています。これらの特性を広告分野に活用する主なメリットは以下の4点です。
最適な広告運用
広告戦略にAIを用いるメリットのひとつに広告運用の最適化が挙げられます。
SNS広告やディスプレイ広告などはターゲティングの設定次第で、幅広い潜在層に対する広範囲なアプローチとセグメントされた顕在層への局所的な訴求を柔軟に設定できます。
しかし、ターゲティングは参入市場における自社の立ち位置やプロダクトの認知度、見込み客のニーズなどによって最適解が異なる属人的な業務領域です。そのため、情報分析に長けたデータアナリストやビジネスアナリストなどの高度な知見が求められます。
このような専門性の高い広告運用を自動化できるのがAIです。たとえば市場調査や需要予測などのデータセットを機械学習アルゴリズムが学習することで、競合他社の動向や需要の変遷、自社の立ち位置などの相関関係を踏まえながらターゲティングの最適解を導き出します。もちろんAIの導入によってデータ分析のスペシャリストが不要になるわけではありません。しかし広告運用をAIで効率化できればマーケティング部門の業務負荷が軽減され、広告運用の属人化を解消するとともに人件費の削減にもつながります。
独創性のある広告コンテンツの作成
現代市場における重要な経営課題のひとつは競合他社との差別化です。近年、デジタル化の進展とともに市場の成熟化が加速しており、商品やサービスのコモディティ化が進んでいます。さらにスマートフォンの爆発的な普及に伴って消費者の情報リテラシーが向上し、顧客ニーズは多様化かつ高度化していく傾向にあります。
このような背景のなかで市場の競争優位性を確立するためには、競合他社にはない独自の付加価値を生み出すとともに、プロダクトの認知度を高める独創的な広告戦略が必要です。 AIは市場調査やトレンド分析、需要予測、自社の経営状況などの膨大なデータ群から特定の傾向や規則性を発見し、独創的なアイデアの創出をサポートします。クリエイティブな分野ではAIよりも人間が優れているという意見もありますが、将棋AIや囲碁AIなどでは人間では考えつかない一手を指す場面も少なくありません。それと同様にマーケティング戦略にAIを用いることでユニークなコンセプトや斬新なアプローチが創出され、自社ならではの独創的な広告を作成できる可能性を秘めています。
効率的なターゲティング
ターゲティングの最適化も、広告戦略にAIを用いるメリットのひとつです。SNS広告やリスティング広告などは、特定の需要をもつターゲット層にピンポイントで訴求できるものの、そのためには市場調査や競合分析、需要予測などに基づく高度な分析スキルが必要です。
たとえば、化粧水の販売会社がリスティング広告を活用すると仮定します。このとき、「化粧水」というキーワードは競合ひしめくレッドオーシャンであり、入札単価が高額になるとともに、想定されるターゲット像が広すぎて高いコンバージョン率は期待できません。 このケースでは自社製品の顧客となり得るターゲット像を狭く深く絞り込むとともに、そのセグメントされたユーザーが検索窓に打ち込むキーワードを予測するプロセスが必要です。このような領域にAIを活用できれば、機械学習アルゴリズムがDMP(Data Management Platform)に蓄積されたデータセットを分析することで、ターゲット像の分析や抽出を自動化できます。そして見込み客と関連性の高いキーワードを自動生成し、競合他社が気付いておらず、なおかつ購買意欲の高いキーワードを発掘できる可能性が高まります。
広告効果の予測・評価
広告戦略を展開する上で重要課題となるのがマーケティング分析です。マーケティング分析とは、市場調査や需要分析、競合分析、自社分析などを通してさまざまな情報を収集・蓄積し、消費者の購買行動や見込み客の需要などを分析する施策を指します。そしてマーケティング分析における基本のひとつが広告分析です。広告分析とは、広告のインプレッション数やクリック数、コンバージョン率、広告費用対効果などの各種指標を分析し、顧客ニーズの深掘りや広告戦略の改善に役立てる一連の施策を意味します。
このような広告効果の予測・評価といった領域こそAIが得意とする分野です。たとえば、広告運用の成果をAIが自動診断でスコア化し、成功要因を具体化したり改善ポイントを提示したりできます。広告運用の成果を定量的にスコアリングできれば、その蓄積されたデータセットから機械学習アルゴリズムが高精度な予測を立てることも可能です。そして「計画(Plan)」→「実行(Do)」→「評価(Check)」→「改善(Action)」のPDCAサイクルを回し続けることで、より精度の高い広告運用が実現します。
広告にAIを活用している事例
ここでは広告分野にAI技術を活用している企業の事例やソリューションを紹介します。各種事例から本質を抽出し、自社のマーケティングやプロモーションに応用してください。
Google広告
Google広告では、コンピュータが学習データに基づいて新しいデータを生成するジェネレーティブAIの活用により、これまでにない新しい広告体験を提供しています。たとえばGoogleのあらゆるチャネルに広告を出稿できるP-MAXキャンペーンでは、広告出稿するWebページをAIが分析することで、キーワードの選定や広告文の作成、画像の提案、予算設定といった運用業務の自動化が可能です。こうした一連の施策をチャット型AIがサポートし、広告運用における業務負荷を大幅に軽減します。
電通グループ:MONALISA
電通グループのAI活用事例として紹介したいのが「MONALISA」です。MONALISAは主要なSNS広告の配信効果を予測するAIツールで、電通グループのAIに特化したプロジェクトチーム「AI MIRAI」における活動の一環として開発されました。具体的には過去の配信情報と広告コンテンツを入力するとAIが特徴量を抽出し、広告効果の各種指標を高い精度で事前に予測します。これにより、成果の見込めない広告コンテンツを配信前に検知するとともに、より高精度な広告プランニングの実現に貢献します。
電通グループ:AIアートディレクター
電通グループのもうひとつのAI活用事例として「AIアートディレクター」が挙げられます。AIアートディレクターはバナー広告の自動生成に特化したAIツールです。広告のクリック率を高めるためには、ユーザーの興味関心を引き付けて購買意欲を醸成するバナーが欠かせません。AIアートディレクターは広告デザイナーがもつ非言語的かつ属人的なスキルを数値化し、その特徴量をAIが学習します。その知見に基づいてAIがバナー広告を5秒に1枚というスピードで自動的に生成するとともに、その広告成果を高い精度で予測します。
博報堂:H-AI TD GENERATOR
博報堂が提供する「H-AI TD GENERATOR」は、リスティング広告のテキスト生成に特化したAIツールです。リスティング広告で高い成果を創出するためには競合性の低さと購買意欲の高さが両立するキーワードを発掘するだけでなく、検索窓にキーワードを打ち込んだユーザーが反応する魅力的な広告文を作成しなくてはなりません。H-AI TD GENERATORはランディングページの訴求内容と検索キーワードに最適化された広告文をAIが自動的に生成し、広告品質の向上やコンバージョン率の最大化を支援します。
サイバーエージェント:極予測AI
インターネット広告事業やメディア事業を展開するサイバーエージェントでは、広告配信効果を予測する「極予測AI」というサービスを提供しています。従来の予測分析ツールは新規の広告コンテンツ同士を比較し、効果予測値を数値化するモデルが一般的でした。
極予測AIは既存広告の効果予測値と新規広告の効果予測値を競わせ、現在最も高い成果を生み出している広告を上回る広告コンテンツを成果報酬型で提供します。極予測AIで制作した広告コンテンツは、通常プロセスで制作した広告と比較して2.6倍の効果(勝率)が出ています(※3)。
(※3)参照元:AIで広告クリエイティブ制作を一変、報酬は広告効果がでた時のみの料金体系「極予測AI」の提供を開始|株式会社サイバーエージェント
株式会社オプト:Literalporter
マーケティング企業のオプトが提供する「Literalporter」は、AI技術を活用した広告レビューの考察自動生成ツールです。広告運用の成果を最大化するためには施策と実績の間にある因果関係を分析・考察し、成功要因と失敗要因を言語化・数値化しなくてはなりません。しかし、そのプロセスは多くの時間を要するとともに高度で属人的なノウハウが必要です。Literalporterはトップコンサルタントのナレッジが数千通り蓄積されており、その知見に基づいてAIが広告運用の分析から考察に至る工程を自動化します。
株式会社セプテーニ・ホールディングス:Odd-AI Creation
「Odd-AI Creation」は、デジタルマーケティングの支援事業を展開するセプテーニが提供する広告クリエイティブ制作メソッドです。具体的には、深層学習を活用した広告クリエイティブソリューションの「Odd-AI」で広告成果を可視化し、クリエイターが広告コンテンツをリデザインします。AIの効果予測と人の目視による品質管理やアイデアが掛け合わさり、独創的な広告コンテンツを生み出す一助となります。テストでは通常プロセスで制作した広告と比較して、クリック率は約1.1倍、広告配信量が約1.5倍という成果を創出しました(※4)。
(※4)参照元:セプテーニ、AIを活用したディスプレイ広告クリエイティブ制作メソッド「Odd-AI Creation」を構築|株式会社セプテーニ・ホールディングス
楽天スクリーム株式会社:RMP – SQREEM Ads
楽天スクリーム株式会社が提供する「RMP – SQREEM Ads」は、AIの分析技術を用いた運用型の新広告プロダクトです。インターネット広告ではユーザーが抱える悩みや課題を深掘りするとともに行動パターンを分析し、見込み客を属性に応じてセグメントするプロセスが極めて重要です。RMP – SQREEM AdsはAIがユーザーの嗜好性や購買行動などの相関関係を分析し、配信セグメントを生成して広告運用を最適化できます。それにより、見込み客一人ひとりにパーソナライズされた独自性の高い広告体験を提供できます。
広告にAIを活用する際の注意点
機械学習や自然言語処理などのAI技術を活用することで、ターゲティングの高精度化や広告テキストの自動生成、広告分析の効率化といったメリットをもたらします。しかし、現状ではあらゆる問題に対して自律的に対応できる汎用人工知能の開発には至っておらず、現時点におけるAIはあくまでもデータ分析やタスク処理の補助的な存在です。そして蓄積された膨大なデータセットを学習して初めて効果を発揮するという側面があるとともに、最終的な判断は人間が下さなくてはなりません。 また、著作権法では機械学習に対する著作物の利用は特定の条件下において認められていますが、生成されたコンテンツが類似している場合、著作権侵害の問題が生じる可能性がある点に注意が必要です。
まとめ
機械学習や自然言語処理などのAI技術をマーケティング分野に活用できれば、広告運用の効率化やターゲティングの自動化、広告分析の高精度化が実現します。競合他社との差別化が困難となりつつある現代では、AIの活用による独自の広告戦略が必要です。AIとマーケティングについて詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
関連記事:AIをマーケティングに活用する方法やメリット! 事例も併せて紹介
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