人的資本経営とは? 重要ポイントや事例、進め方やKPI設定まで徹底解説

企業が経営戦略を実現させるためには、人材を最大限活用することが不可欠です。この記事では、近年注目されている「人的資本経営」の基本情報を網羅的にまとめています。
概要から注目されるようになった背景、経済産業省の「人材版伊藤レポート」における重要なポイント、他企業の取り組み事例についても分かりやすく解説します。

「人的資本経営」というキーワードが気になる方は要チェック!

最近よく耳にする「人的資本経営」というキーワードが気になる方は要チェック。このeBookでは、働き方や仕事における価値観が変化している昨今において、従業員が自身の日々の仕事に満足できるような体験を提供することで、組織エンゲージメントを高める方法について丁寧に解説しています。

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人的資本経営とは、人材を「資本」として捉えるもの

近年、「人的資本経営」は新たな経営のあり方として注目を集めています。通常「資本」といえば、基本的に資金と同様の意味合いでお金をイメージする場合が多いかも知れません。 しかし人的資本経営の「資本」は主に人材を意味しています。人材はコストや管理対象となるものではなく、投資対象として捉えられるのが特徴です。 人材を資本と考え大切に育成していくことで、企業は中長期的な成長や企業価値向上を見込めるようになります。そのため、こうした新しい経営の考え方が世界中で広まるようになりました。

これまでの経営との違い

これまでは、多くの企業において人材育成や管理は「コスト」の対象と考えられてきたため、企業がコスト削減を検討する際には当然、人的コストにも焦点が当たりました。そのため突然雇用契約を解除されるといったことも決してあり得ないことではありませんでした。 しかし人的資本経営では、人材を人事部門で管理されるだけの対象から解放している点で、これまでの関係性とは大きく異なります。
例えば、人材を経営戦略と連動させ、投資家や従業員と積極的に対話することで意思疎通を活性化させようとする点などが大きな特徴です。 したがって、人的資本経営は人事領域においても、新しい方向性に導く手法といっても過言ではありません。

参照:経済産業省|「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書(人材版伊藤レポート2.9)」P.7 「図表1:変革の方向性」 

人的資本経営が注目されている主な4つの理由

なぜ、人材のあり方を根本から見直す経営方法が注目されるようになってきたのか、考えられる4つの要因について解説します。

ESG投資に対する関心の高まり

かつて投資家が投資先を選択する際には、その企業の収益や利益、株価など、数値化された財務情報を根拠とするのが主流でした。 しかし近年はいわゆる「ESG」と呼ばれる非財務情報を重視し、中長期的な視点でESGに取り組む企業を高く評価し、投資先に選ぶ傾向が強まっています。 そもそもESGとは、「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」といった3つの要素のことです。
企業は、ただ営利だけを追求するのではなく、持続可能な社会を創るための新たな指標を掲げた事業経営が求められています。 またそれぞれの要素を見ていくと、人的資本は「社会(Social)」に含まれていると考えられます。そのため、ESG経営とともに人的資本経営にもスポットライトが当たるようになりました。

人的資本情報開示への要請

ESG投資を行うためには、判断材料として人材資本に関する情報も必要です。そこで各企業へ情報開示を求める動きが活発化しています。 一方、企業側としては、投資家からより多くの投資をしてもらえるように人的資本経営を推進し、情報開示をスムーズに行える体制づくりが求められています。

無形資産を重視する動き

ESGを重視する動きからも分かるように、数値などで明確に分かるような資産だけでは、真の企業価値を計れないことも多くあります。現代は未曾有の自然災害や金融危機、国家間の軋轢など、先行きが不透明な「VUCA(ブーカ)」(※1)の時代とも呼ばれています。
企業が将来にわたり継続して成長していくためには、ただ利益だけを追求するだけでは危険だといった考え方が浸透してきました。 今や投資家は、目に見えない非財務的な無形資産についてもチェックし、企業の成長性や価値を判断するのがスタンダードです。 その無形資産の中核にあるものは「人材」にほかなりません。そのため、企業は自社の持続的な企業価値の向上を図るために人材を単なるコストではなく「資本」として捉え、人材価値を高めるようになってきたと考えられます。

※1 VUCA:Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という4つの単語の頭文字をとった言葉で、目まぐるしく変転する予測困難な状況を意味します。

参照:パーソルグループ|VUCAとは?予測困難な時代に求められるスキルと組織づくりのポイント

働き方をめぐる多様化

「働き方」への意識が変化してきたこともひとつの背景です。年功序列、終身雇用制、オフィスに出社して仕事をすることが主流であったのはもはや過去のことであり、現在は多くの企業で多様な働き方が認められつつあります。ワークライフバランスを実現し、いきいきと働ける労働環境を整えることは社員のモチベーションを上げ、離職率を低下させるのに大切な条件です。 こうした環境や体制の変化は、まさに人材を資本とする考え方に基づいています。社員一人ひとりの能力を最大限発揮させるためには、企業が人材に対しての捉え方を大きく変えることが必要不可欠です。

国内では「人的資本経営コンソーシアム」が設立

ESGや無形資産などを重視したり、働き方が多様化したりしたことで、人的資本経営の概念が世界中で注目を浴びるようになりました。それにともない、国内でも流れに合わせた動きが生まれています。 「人的資本経営コンソーシアム」は、2022年8月に名だたる一流企業の代表取締役や大学の研究センター長など、計7名を発起人として設立された団体です。 日本企業における人的資本経営を実践し、情報開示を促進していくことが活動の目的とされています。実際の活動内容は、先進的に人的資本経営を実践されている企業の事例共有や、企業間の協力促進に向けた議論などです。

参照:人的資本経営コンソーシアムWEBサイト

経済産業省「人材版伊藤レポート」に見る、人的資本経営の重要ポイント

民間企業などだけではなく、国も人的資本経営に注目しています。経済産業省は2022年5月、「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書」、いわゆる「人材版伊藤レポート2.0」を開示しました。これはかつて同省が立ち上げた「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」の成果として、2020年9月に作成された「人材版伊藤レポート」が基となっています。
このレポートが世に出てから多くの企業から反響があったものの、具体的にどう動けばよいのかが分からないといった企業からの声もあり、検討会メンバーが2021年に再度集結しました。そして人的資本経営につながるアイデアや具体策、先進的な取り組みを実践している企業事例も盛り込んだ形で、より具体的に、より分かりやすくレポートがアップデートされています。
人材版伊藤レポートでは「3P・5Fモデル」と呼ばれる視点や要素を提起されているのが大きな特徴です。これは、人的資本経営を実践していくにあたって必要な、3つの視点と5つの共通的な要素を表しています。 では、次からそれぞれどのような内容なのかについて解説しましょう。

参照元:経済産業省| 人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書(人材版伊藤レポート2.0)

企業が重視すべき3つの視点

先に述べたように、人材版伊藤レポートでは人的資本経営を実践するのに重要なポイントとして「3P・5Fモデル」を挙げています。ここではまず「3P」、つまり3つの視点(Perspectives)とは何かについて紹介します。

1. 経営戦略と人材戦略が連動しているか

1つめの視点は、「人材を企業の経営戦略と表裏一体となって戦略的に策定できているかどうか」です。これまでのように、人事部門だけが管理するものではなく、経営陣が積極的に人材戦略に関わり、経営戦略とどう連携させていくかがポイントです。

具体的な取り組みとしては、まず「CHRO(Chief Human Resource Officer:最高人事責任者)」を設置することが挙げられます。CHROは、経営陣として存在しながら、人材戦略を策定し実行する役割を果たすと考えれば分かりやすいかもしれません。そしてCHROやCEOは、現在抱えている人材面での課題をピックアップし、経営陣と議論を交わします。経営環境を見ながら、重要な指標としてKPIを設定したり、組織の戦略的目標を達成するために事業部門と人事部門との役割分担を検討したりするのもひとつです。また、若手から経営人材を選抜するほか、役員報酬についてKPIを反映させることにも実践例があります。
このように人材を経営の資本として考え、両者のつながりを意識して経営を進めていくことで、企業価値が向上していくと考えられます。

2. 「As is – To be ギャップ」を把握できているか

2つめは、「現状と理想とのギャップを理解すること」です。業界や業種などによって差はあれども、めざしたいビジネスモデルや経営戦略(To be)はどの企業にもあるはずです。しかし、それらと現時点における人材の状況や人材戦略(As is)との間に、隔たりがあるケースは少なくありません。
人材資本経営は、人材戦略と経営戦略とを組み合わせることで最大効果を生み出す仕組みが大前提のため、もしもギャップがあれば早めに解消しておく必要があります。 そこで、障害となっている課題が何かを特定することが大切です。また課題ごとのKPIを用い、「To be」と「As is」間のギャップを定量的に把握するようにしなければなりません。 たとえば、人事情報基盤を整備する、人材ポートフォリオ計画を踏まえて目標達成までの期間を設定する、定量把握するための項目を一覧化する、といったような取り組みが有効です。

3. 人材戦略が企業文化として定着しているか

3つの視点の最後は、「人材戦略がその企業ならではの文化に根付いているかどうか」です。たとえば、どれほど人材資本経営を進めたとしても、それが現場の社員に受け入れられなければ、企業文化として醸成されないおそれがあります。将来にわたって企業価値を高めるには、いかに人材戦略を適切に進めるかにかかっていると考えられます。
ここで重要なのは、人材戦略を策定する段階で、自社が社会に与えるべきインパクトとは何かといった観点から、理想の企業文化や理念を掲げることです。また、策定した企業理念に合致するよう、社員がどのように行動すればよいかを示します。具体的には表彰制度や昇格制度として取り入れることも一案です。 さらに経営陣と社員が対話できるダイレクトコミュニケーションの場を設けられると、より強く認識を共有できるほか、それぞれの立場で企業文化の具現化を考えるよい機会になります。

企業が重視すべき5つの共通要素

続いて、「3P・5Fモデル」における「5F」。つまり5つの共通要素とは何かについて、それぞれ解説します。いずれも人的資本経営を進めていく際の重要なポイントです。

1. 動的な人材ポートフォリオの構築

自社が策定した経営戦略を実現していくためには、必要な人材を、量と質の両面から確保することが不可欠です。 そこで企業は、さまざまな人材が各々の強みを活かして活躍できるように、人材ポートフォリオ計画を用意する必要があります。これを人材版伊藤レポートでは「動的な人材ポートフォリオ」と呼んでいます。
策定にあたっては、今いる人材ありきではなく、経営戦略を具現化するためにはどういった人材が必要なのか、将来の目標を見据えたバックキャストで考えることが大切です。自社にとって必要な人材像を要件定義した上で、採用、配属、育成のプロセスを戦略的に行うのに、ポートフォリオ計画は大きな役割を果たします。
具体的には、以下のように進めていくのがおすすめです。 まず、自社にとって必要な人材の量と質と現状とのギャップを把握します。そして理想に近づけるよう、今社内にいる人材を適切に配置したり外部から採用したりし、ギャップを埋めていきます。 これまで主流であった新卒での一律採用から脱却し、ギャップイヤーによる国内外での自己研鑽を経た学生の入社を容易にしたり、高度な専門性を持ったプロフェッショナルな人材を積極的に採用したりするのも一案です。

2. 知・経験のダイバーシティ&インクルージョンに繋がる環境

目まぐるしく変化する市場において、従来の慣習や方法に固執していては時代遅れになりかねません。当然、中長期的な経営戦略を実現し成長することは困難です。斬新な切り口で物事を考えイノベーションを生み出し続けてこそ、他社との差別化を図り、企業価値を高められると考えられます。
社内に新しい風を取り込むためには、多様な人材を掛け合わせることがポイントです。多様な知識や経験を持つ人材をキャリア採用したり、外国人材も積極的に取り込んだりすることも効果的な方法です。また、管理職同士がマネジメントの方針を互いに共有し、工夫と改善を積み重ねれば、よりスムーズに組織運営が可能になります。 近年は「ダイバーシティ&インクルージョン」といったスローガンを掲げ、取り組んでいる企業も少なくありません。これは性別や人種、個々の違いを尊重し、人材を活かすことを意味しています。企業も時代に即した新しい取り組みを積極的に推進することで、持続的な成長へとつなげられます。

3. スキルギャップを埋めるためのリスキル・学び直し

経営戦略を実現するために環境が大きく変わると、そこで働く社員自身も、新しい知識を得る「リスキル(学び直し)」が必要です。そこで企業側は、社員が希望するキャリアを形成できるよう支援する枠組みとして、必要な知識やスキルの学習機会を設けることが求められます。 ただ、学び直しといっても無理強いするのでは意味がありません。社員自身が自律的に進められるように、企業側は次のようなステップで支援していくようにします。
まず、部門や部署、担当など組織でどのようなスキルが不足しているのかを把握します。そのスキルを習得することでどのようなメリットがあるのかも、各社員へ丁寧に説明することが必要です。 その後、スキル習得を主導できる人材を社内外から集め、支援を行います。習得がうまくいかなかった場合でも、自主的に取り組んだ行動を評価できる仕組みを作れば、学び直しの重要性を企業文化として根付かせられるはずです。 留学といった社外での学びや社内ベンチャーの活動などについてもサポートし、多様な人材を育成するほか新たな挑戦を後押しする取り組みを行っている企業もあります。

4. 従業員エンゲージメントの向上

「従業員エンゲージメント」を向上させるために、これまで培ってきた能力やスキルを伸ばす環境を提供することも、経営戦略実現のために重要な要素です。 従業員エンゲージメントの向上は、一人ひとりの社員がやりがいを持って働けることで、仕事に対するモチベーションや生産性によい影響を与えられることから重視する企業は少なくありません。 実際にエンゲージメントを高めるためには、次のような取り組みが考えられます。
まず、自社にとって大切にしたいエンゲージメント項目を検討、作成し、定期的に社員へエンゲージメントレベルを測ります。エンゲージメントレベルが高い社員に対しては、会社側のニーズと併せてより高いエンゲージメントをめざしていくのもひとつです。一方、レベルが低い場合は、社員がどのようなキャリアを望んでいるのかを確認した上で、より適した任務に配属させて満足度を上げることが大切です。 ほかにも異動先を公募制にすることでチャレンジ精神を養ったり、副業や兼業といった多様な働き方も「人材の幅を広げるもの」と認めたりすることが挙げられます。経済産業省が推進する「健康経営」からWell-beingへの取り組みも積極的に進め、パフォーマンス向上につなげていくことも有効です。

【関連記事】アプリの学校 |エンゲージメントとは?重要性や成功事例をご紹介。

5. 時間や場所にとらわれない働き方の推進

新型コロナウイルス感染症の流行によって、多くの企業にリモートワーク制度が導入されました。また社員自身の仕事に対する考え方や価値観も変化し、いきいきと働くために多様な働き方が認められる動きが活発化しています。 リモートワークは、万一の災害やパンデミックなど、通常の事業継続が困難になった際の手段としても効果的です。そのため各企業ではより円滑かつセキュアにリモートワークができるよう、さらにデジタル化を進める必要があります。ただ、リモートワーク一辺倒ではコミュニケーション上の課題などが指摘されがちで、改善策を模索している企業もよく見られます。 大切なのは、リモートワークと出社することのそれぞれメリット、デメリットを再考することです。そして最適なバランスで選択できるように制度や環境を設計するのも一案です。

人的資本経営の実践事例

「人材版伊藤レポート2.0」では、より具体的に企業が人的資本経営をイメージできるように、実践事例集もまとめています。ここではその中から、人的資本経営を実践し成功している4社の事例を解説します。自社での取り組みを検討する際には、ぜひ参考にしてみてください。 ※なお、このレポート内では「人材」は財産であるといった観点から「人財」と表記されているため、それに合わせた形で紹介します。

旭化成株式会社|創造的な人事による人材確保・エンゲージメント向上

化学製品製造業として1922年に創業した旭化成株式会社では、現在マテリアルや住宅、ヘルスケア領域の製造・販売業など幅広く事業展開しています。 同社が人的資本経営を推進する上で柱としたポイントは以下のとおりです。
まず、自社の経営戦略から人財ポートフォリオ計画を策定し、必要な人財の量と質を洗い出しました。採用でまかないきれない人財については、社外からもM&Aなどで積極的に充足させました。また、独自のエンゲージメント調査を実施し、社員と組織双方の成長を促しています。さらにDXなど高度な専門性を持つ人財を具体的に定義し、育成目標の人数も設定。目標に対する進捗確認を定期的に実施し、2021年度は目標達成を果たしています。
これらの取り組みは、まさに人を「財産」だと定義したことで生まれたものと考えられます。自立的な成長を促す仕組みもあり、多様な人財が活躍できる基盤づくりを進められている、よい事例です。

キリンホールディングス株式会社|既存の人材における強みと多様性の活用

キリンホールディングス株式会社も老舗大手メーカーであり、飲料や医薬品、健康に関連する商品などを取り扱っています。 当初事業展開していた飲料や医薬品の領域で培った強みを活かし、経営戦略としてヘルスサイエンス領域にも参入を決定したことが大きな転機となりました。それにともない、キャリア採用によって新たな領域に必要な専門人財を確保しています。
同グループは経営理念として「CSV(Creating Shared Value)経営」を貫いているのも特徴です。CSVとは、「企業価値を高めるには社会の課題を解決することが大切だ」と考える経営手法です。こうした理念は現場の社員にも浸透しており、エンゲージメントと報酬が連動する仕組みも取り入れています。 ほかにもイノベーションを創出するため、女性リーダーの育成に取り組んだり、若手社員による企業内大学を立ち上げたりして、自律的な学びや成長につなげています。

ソニーグループ株式会社|事業・地域における多様な「個」を軸とした戦略の実行

ソニーグループは、元々の電気機器業から今やゲームやネットワーク、音楽、映画、金融など多様な事業を手がけています。 同社は人事戦略として「個を求む」「個を伸ばす」「個を活かす」といった3つの軸を掲げているのが特徴です。グループ全体が持続的に成長していくためには、個の多様性が不可欠であるといった考え方です。
また、事業ごとの特性に違いが大きいことから、各事業のCHROに人事上の責任権限を持たせています。これにより、事業単位で何らかの課題が生まれた際にも迅速な人事運営が可能です。 さらに自社のパーパス(存在意義)を定義した上で、CEOやCHRO自身が社員と対話する機会を創出するなど、経営陣と社員が一丸となって人事戦略を実行していくことをめざしています。全社員へ年1回実施するエンゲージメント調査の結果を、経営陣の報酬を決めるKPIに反映させ、経営戦略と人事戦略とを連動させていることも注目すべきポイントです。

ロート製薬株式会社|会社・個人が共に成長するWell-beingに向けた実践

医薬品や化粧品、機能性食品などを取り扱っているロート製薬株式会社は、1899年の創業当時から社会の健康ニーズに応えるために、新規事業への参入を積極的に進めてきました。近年はとくに「健康経営」といったワードが注目されていることからも分かるように、Well-beingに向けた取り組みはますます社会全体の課題として重視されています。
そこで同社では、人財の採用や育成において人財マネジメントを体系化し、実践してきました。パーパスも定義し、社員との共有を図るために対話も欠かさず実施しています。 人財マネジメントツールを導入して、一人ひとりの社員の経歴、活かせる強み、将来のキャリアビジョン管理の効率化も実現。本人の希望と企業側のニーズをすり合わせ、より強みを活かした業務へ配属させることで最適配置を行っています。
また既存の社員に閉じた話ではなく、新卒採用の場でもパーパスを確認し、マッチングを重視しているのも特徴です。中途採用でも応募者個人のパーパスをチェックした上で業務内容を説明するなど、「個」を大切にして活躍させる工夫が見られます。 新規事業推進のために、多種多様なチャネルから高度な専門人財や外国籍のR&D分野人財などを確保して体制強化を図っています。 さらに社員自らの自律的な学びや挑戦をサポートする仕組み、プラットフォームも用意しており、画一的な人事戦略から脱却できている点も注目したいところです。

人的資本経営の進め方

人的資本経営の概念に立ち返ると、人材に関する捉え方が大きく転換しています。一人ひとりの社員に向き合い、企業の重要な資本として価値を向上させることが、やがて企業の持続的成長につながるといった考え方は、人的資本経営の根幹をなすものです。 ここでは、「経済産業省『人材版伊藤レポート』に見る、人的資本経営の重要ポイント」の内容を踏まえながら、進め方の大まかな流れについて解説します。

企業理念や存在意義(パーパス)の明確化

新型コロナウイルス感染症の流行から、リモートワークなどの働き方を含め人材戦略の見直しが求められています。もちろん、これまでも指摘されてきている、少子高齢化や産業構造の変化への対応などもしかりです。企業がこうしたさまざまな課題をクリアするためには、経営戦略とともに人材戦略もスピーディに実施していかなければなりません。
しかし、対策だけ講じても効果は現れません。一度企業理念まで立ち戻り、人材戦略を経営戦略と連動させているかどうか、見直すことが重要です。 そこで自社が社会の中でどう存在したいのか、どう貢献していきたいのかを明らかにすることが求められています。 企業理念を見直す際には、
・持続的な企業価値向上につながるものか
・変化の激しい時代において、想定外の出来事に対しても柔軟に対応できる体制が整っているかどうか
などを確認することが大事です。

経営戦略と連動した人材戦略の策定・実行

人材戦略は経営戦略と連動させることなくして、人的資本経営は成り立ちません。経営的な視点から人材戦略を検討できれば、社内における理想と現実のギャップ、つまり「As is-To beギャップ」を埋められるものかどうかもチェックしていく必要があります。 策定した戦略をいざ実行する場合は、各事業部門における長であるCHROが大きな役割を果たします。さらに経営トップ5C(CEO、CSO(Chief Strategy Officer)、CHRO、CFO、CDO(Chief Digital Officer))との連携も重要なポイントです。 戦略を実施した後は、どのような効果が生まれたのかなど検証を忘れずに行い、改善点があれば対処していきます。このようにPDCAを継続的に回していくことで、クオリティの高い人的資本経営を実現できるようなるはずです。

従業員・投資家に向けた発信と情報開示

人的資本経営は人を大切にする手法のため、社員にとってメリットの方が大きいと考えられます。ただ、定期的にエンゲージメント調査を行ったりサーベイの結果を見たりして、人的資本に関する情報を可視化しましょう。必要に応じて逐次、人的資本経営に関する情報発信も欠かせません。 また目先の利益にとらわれず、中長期的な視点で経営戦略を実行している企業だと分かれば、投資家の印象もよくなります。冒頭付近で解説したように人的資本に関する情報を開示することも重要です。
ただ、ここで注意しておきたいこととして、情報開示はあくまで手段であり、目的ではありません。それらを通じて企業価値を向上させ、持続的に業績を向上させていくために、踏むべきステップのひとつと考えましょう。

人的資本経営におけるKPI設定

ここからは、人的資本経営でよく用いられるKPI設定について解説します。 そもそもKPI(Key Performance Indicator)とは、企業や組織が何らかの目標を達成させるために日々行動する指標のことで、「重要業績評価指標」とも呼ばれます。 人材面での課題をクリアする際にも、経営陣がアクションやKPIを設定し進捗確認を行うことはよくあることです。たとえば、従業員エンゲージメントのスコアによって報酬が変動する仕組みを取り入れている企業は少なくありません。
しかしここで大切なことは、設定するだけではなく、KPIを設定した意図や定期的な進捗、達成状況を社内外へぬかりなく説明することです。なぜなら、人材資本経営を進めることに対して説得力を持たせられ、さらに行動変容への期待感も高められるからです。 また、ESG経営などと併せて投資家へも強力にアピールできるようになります。企業イメージが上がればおのずと企業価値も向上するため、目的の達成も近づくはずです。
たとえば旭化成株式会社では、DXを進めるにあたって高度な専門性を持った人材を明確に定義した上でその人数をKPI化し、育成目標としています。 そのほか、伊藤忠商事では、「同社にとっての人的資本の重要性」とともに拡充施策、労働生産性、能力開発に係る時間や費用といった測定すべきKPIを常に一覧明示している取り組みが特徴的です。

参照: 経済産業省|人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~人材版伊藤レポート2.0~ 9ページ目(旭化成) 17ページ目(伊藤忠商事))

人的資本経営の課題点

ここまで紹介したように、激しい現代において人的資本経営は経営戦略を実現させるための対策として注目を集めてきました。しかし、実施するには注意すべき点もあります。
クラウド型人事労務システム「ジンジャー」を提供するjinjer株式会社は、2022年10月に「人的資本経営」に関する実態調査を行いました。 この調査の対象となった、人的資本経営を進めている大企業(従業員数1,000名以上)人事106名のうち、実にその8割がなんらかの課題を抱えていることは、結果の通りです。内訳を見ると「散財している人事データの統合に関するもの」が約5割を占めており、ツールやシステムを使った情報管理へ意欲が高い傾向にあると見てとれます。

参照:jinjer株式会社|【人的資本経営に関して、大企業人事のホンネは?】

まとめ

人的資本経営は、人材を資本としてとらえ、人材戦略をうまく組み合わせ経営戦略を実現しようとする手法の一種で、投資家からも熱い注目を集めています。「人材版伊藤レポート」に挙げられた「3P・5Fモデル」といった重要なポイントを確認しながら、自社で人的資本経営を取り込む際のステップや取り組み内容を検討してみてください。

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