ワークライフバランスの取り組み事例〜企業・個人で出来る事は?〜

近年、ワークライフバランス向上への取り組みを始める企業が増えています。取り組みによって、従業員がより働きやすい職場へ昇華でき、企業イメージの向上や優秀な人材の獲得などさまざまなメリットを得られます。本記事では、ワークライフバランスへの取り組み方や事例などを解説します。

ワークライフバランス(仕事と生活の調和)とは

「ワークライフバランス」とは、仕事と生活のバランスがよい状態を指します。「仕事が忙しく、プライベートに割く時間がほとんどない」「私生活を充実させることに注力し、仕事があまりできていない」といった状態は、ワークライフバランスがよいとはいえません。 どちらかに偏るのではなく、仕事と生活それぞれが充実していることが大切です。仕事が忙しすぎると収入は増えるかもしれませんが、自由に使える時間は減ってしまいます。反対に、プライベートを重視しすぎると収入が少なくなるおそれがあります。 なお、ワークライフバランスは近年提唱され始めた考え方ではありません。以前から、仕事と生活のバランスをとることは大切であるとの考え方はありました。政府も、兼ねてからワークライフバランス社会の実現に向けた取り組みを進めており、2007年には「仕事と生活の調和推進のための行動指針」や「ワークライフバランス憲章」を策定しています。

ワークライフバランスはなぜ必要?

ワークライフバランスは大切である、重要であるといった話はよく耳にするものの、なぜ整える必要があるのかと疑問を感じている人も中にはいるかもしれません。
必要な理由としては、人口の減少、共働きの増加、働き方改革推進の3点が挙げられます。

人口の減少

日本の少子高齢化は大きな社会問題となっています。人口も年々減少しており、2022年10月時点で総人口は前年比約55万6,000人減少し、10年以上連続で人口が少なくなっている状態です。

少子高齢化に伴う人口の減少で、労働人口も少なくなりました。この先も人口の減少が続けば、労働人口はますます少なくなり、多くの企業が人材不足に陥ります。新たな人材もなかなか採用できないとなれば、既存の従業員で業務を遂行するしかありません。 労働力が不足した状態で、これまでと同等の業務量をこなすとなれば、個々の従業員に相当な負担がかかります。従業員が仕事に追われるようになってしまい、プライベートに割く時間がほとんどなくなる、といったことにもなりかねません。 また、個々の従業員に過度な負担が生じることで、心身に支障をきたしてしまうことも懸念されます。日々過酷な業務に追われることで、病気や怪我をしたり、メンタルヘルスに支障をきたしたりした結果、生産性が低下するおそれがあります。そうした事情により、従業員のワークライフバランスを重視する企業が増えました。

参照:総務省統計局 | 人口推計の概要

共働きの増加

かつて日本では、「男性が外で働き、女性が家庭を守る」といった考え方が主流でした。しかし、現在では女性の社会進出が進み、多くの女性が外へ働きに出かけています。 女性の地位向上と社会進出に伴い、共働きする世帯も増加しました。内閣府男女共同参画局が発表した「令和4年版男女共同参画白書」を見ると、共働き世帯が年々増加していることが分かります。1985年時点で約718万世帯だった共働き世帯は、2021には約1,177万世帯となっています。 共働きとなれば、子育ても困難です。働きながら育児をしなければならないため、仕事と生活の調和が求められるようになりました。

参照:内閣府男女共同参画局|男女共同参画白書

働き方改革

「働き方改革」とは、個々の労働者がその時々の事情や状況にあわせ、多様な働き方を選べる社会を実現するための取り組みです。現在では働き方改革に関連する法律も制定され、多くの企業が取り組みを始めました。 国が主導する働き方改革によって、労働者の意識改革も進んでいます。自身のキャリア観やライフステージを踏まえて働き方を決めたり、雇用形態に捉われず働こうとしたりする人も増えました。 多様な働き方ができれば、従業員のワークライフバランスは整います。
ただ、そのためには企業側が多様な働き方を可能とする環境や体制を整えなくてはなりません。時間外労働の削減やリモートワークの導入、幅広い人材が活躍できる職場環境の構築などを進めることが大切です。

企業のワークライフバランス施策の具体例

ワークライフバランス施策を始めたいと考えてはいるものの、具体的に何から着手すればよいのか分からない、といった企業も多いかもしれません。考えられる施策はいくつもあるため、簡単に取り組みやすいものから着手してみましょう。

テレワーク

テレワークの導入は、ワークライフバランス施策として有効です。テレワークを導入すれば、従業員は自宅で業務を遂行できるようになるため、小さな子どもをもつ人も安心して働けます。 テレワークの導入は国も推奨しています。働き方改革の一環としてだけでなく、近年猛威を振るった新型コロナウイルス対策として、テレワークが有効と判断されました。 テレワークで働けるようになれば、従業員はオフィスへ出社しなくてよいため、通勤や退勤の時間が不要です。これまで以上に時間を有意義に使えるようになるため、ワークライフバランスも整います。
企業にとっては、多様な人材を採用できる点がメリットです。テレワークを導入すれば、これまで家庭の事情などでオフィスへの出社が難しかった人や、遠方に住んでいる人も採用できます。人材の採用は今後どんどん難しくなると考えられるため、人材確保の観点でもテレワークの導入はおすすめです。

参照:厚生労働省|テレワーク普及促進関連事業

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フレックスタイム制

「フレックスタイム制」とは、従業員が始業と終業の時間を自由に決められる制度です。たとえば、「保育園に子どもを迎えに行きたいから、朝早く出社して15時には退社する」といったことが可能です。また、始業時間をずらすことで、通勤ラッシュも避けられます。 このように、フレックスタイム制を導入すれば、従業員は家庭環境やライフスタイルにあわせた働き方が可能です。自由度の高い働き方により従業員のワークライフバランスが整い、離職率が低下するメリットもあります。 フレックスタイム制を導入するうえでのデメリットは、個々の従業員が異なる時間に出退勤するため、勤務時間の管理が困難な点です。フレックスタイム制に対応できる勤怠管理システムの導入も検討してみましょう。また、制度の導入で従業員同士のコミュニケーション機会が減ったり、生産性が低下したりする懸念もあります。

短時間勤務制度

「短時間勤務制度」とは、労働時間を短縮できる制度です。育児や介護など、フルタイムで働けない人を対象とする企業が多く、勤務可能な曜日や時間などを従業員が設定します。 短時間勤務の導入で、従業員は仕事と家庭を両立しやすくなるのがメリットです。仕事をしてしっかりと収入を得つつ、育児や介護もできるためワークライフバランスが整います。
企業側のメリットとしては、従業員の離職防止につながる点が挙げられます。優秀な人材が外部へ流出してしまうのを防ぎ、新たな人材の採用や育成コストも削減できます。また、従業員が育児や介護をしやすい環境を整えている企業であるとアピールすることで、社会的な評価やイメージがアップする可能性もあります。

多様な休暇制度の整備、取得促進

多様な休暇制度を整備するのも、ワークライフバランス施策として有効です。たとえば、育児休暇や介護休暇などが考えられます。このような休暇制度を導入すれば、従業員は引け目を感じることなく休暇をとれるようになり、仕事と家庭の両立につながります。 ただ、多様な休暇制度を整備するだけでは不十分です。休暇制度を整備しても、従業員が使ってくれなければ意味がありません。そもそも、そのような休暇制度ができたことを知らなかった、といったことも起こり得るため、整備したあとはきちんと社内に周知することが大切です。
休暇制度の周知を徹底したあとは、取得促進にも注力しましょう。これまでなかった新しい休暇制度であるため、従業員は取得しづらいかもしれません。ほとんどの従業員が利用しない状態が続くと、いずれ制度自体が形骸化してしまうリスクもあります。組織の上層部が率先して休暇を利用するなど、従業員が取得しやすい環境を整備してあげましょう。

福利厚生の充実

福利厚生を充実させるのもひとつの手です。たとえば、資格取得の支援をするのもよいかもしれません。資格取得に要する費用の一部を補助する、試験の日に休むのは有休扱いにする、といった具合です。ほかにも、健康維持や増進のためスポーツジムへ通う費用を一部負担する、などの福利厚生も考えられます。 家賃補助や旅行、レジャーの優待、食事補助といった福利厚生も喜ばれるためおすすめです。
近年は、他社ではあまり見られないような、ユニークで独自性の高い福利厚生を導入する企業も増えています。 福利厚生が充実していれば、既存従業員のワークライフバランスが整うだけでなく、人材採用の面でも有利です。就職や転職活動において、どのような福利厚生が用意されているのか、福利厚生が充実しているかどうか、といった部分をチェックする人は少なくありません。ユニークな手当や補助が充実していれば、入社を希望する人材も増えると考えられます。

「個人で取り組める」ワークライフバランス施策の具体例

ワークライフバランスを整える施策は、個人でも取り組めます。たとえば、スキルアップを目指して勉強や資格取得に取り組んだり、日々の業務をより効率よく遂行できるよう見直してみたり、といったことが考えられます。

スキルアップ

スキルアップへの取り組みによって、さまざまなキャリアパスを描ける可能性があります。専門的な知識や技術を習得し、より多くの収入を得られる企業へ転職できるかもしれません。 スキルアップにより、独立できる可能性もあります。独立すれば自分のペースで働けるため、ワークライフバランスも整います。より自由な人生を求めるのであれば、独立開業も視野に入れてみるとよいかもしれません。 資格の取得もおすすめです。資格取得の過程で専門的な知識を得られ、これまで以上に幅広い業務に対応できる可能性があります。 個々の従業員がスキルアップや資格取得へ積極的になれるよう、企業はサポート体制を整えてあげましょう。たとえば、資格取得の費用を一部負担する補助制度を導入したり、社外セミナーを紹介したりするなどが考えられます。

生産性の向上

日々の業務を見直し、効率化を図ることでワークライフバランスが整う可能性があります。業務をより効率よく遂行できるようになれば、作業時間の短縮につながり、無駄な残業も減ります。心身にかかる負担を軽減できるのもメリットです。 具体的な取り組みとして、ITツールの導入が挙げられます。スピーディーな情報伝達と共有を実現できるビジネスチャットツールをはじめ、定型業務の自動化を図れるRPAツールや、時間や場所を問わず社内のファイルへアクセスできるクラウドストレージなどが有効です。 企業は従業員の業務プロセスなどを見直し、必要に応じてITツールやシステムなどの導入を検討してみましょう。
導入の際は、従業員のITリテラシーをチェックすることも大切です。また、ツールやシステムの導入以外にも、ショートカットキーを覚えてもらうのも業務効率化に有効です。

企業がワークライフバランスに取り組むメリット

現在、多くの企業が従業員のワークライフバランスを整える施策に注力しているのは、さまざまなメリットを得られるためにほかなりません。代表的なメリットとしては、労働生産性の向上、優秀な人材の獲得や人材の定着、企業としてのイメージアップなどが挙げられます。

労働生産性の向上

ワークライフバランスへの取り組みによって、労働生産性が向上するメリットを得られます。従業員のワークライフバランスを整えるには業務効率化が不可欠です。業務の見直しやITツール・システムの導入などによって業務効率化できれば、作業時間が短縮し、無駄な残業もなくなります。 業務を効率よく遂行できる環境が整備されれば、これまでと同じ作業時間で、今まで以上の成果が期待できます。つまり、生産性の向上です。無駄な残業がなくなれば人件費を削減でき、大幅なコストダウンも実現できます。

優秀な人材の獲得

少子高齢化に伴う労働人口の減少によって、企業はますます人材の獲得が難しくなっています。優秀な人材ほど、よりよい条件で働ける職場を求めるため、人材の流出に頭を悩ませる企業も少なくありません。 ワークライフバランス施策に注力している企業であれば、多様な働き方ができる企業と認識され、優秀な人材の応募が増加する可能性があります。たとえば、育児休暇やフレックスタイム制、時短勤務などを導入していれば、女性が働きやすい会社と認識してもらえ、優秀な女性の人材が集まる可能性があります。
ワークライフバランス施策への取り組みで、企業イメージがよくなるのもメリットです。「柔軟な働き方ができる、従業員を大切にしてくれる会社」といったイメージが広がれば、そこに惹かれて優秀な人材が応募してくると考えられます。

社員の定着

ただでさえ人材の確保が難しい時代であるため、従業員の離職は何としても食い止めたいと考える企業がほとんどでしょう。従業員が離職すると、新たな人材を採用しなくてはならず、採用コストや育成コストが発生します。 多様な働き方ができる環境や、従業員が無理なく働ける職場環境を構築すれば、離職防止につながります。魅力的な職場から離れようと考える人は少ないため、ワークライフバランス施策への注力は離職防止に有効です。 無理なく快適に働ける職場であれば、従業員は高いモチベーションを維持して働けます。情熱をもって意欲的に業務を遂行するため、作業スピードや作業品質の向上につながり、ひいては顧客満足度も高まると考えられます。

優良企業としてのイメージアップ

ワークライフバランス施策へ積極的に取り組んでいると、従業員のことを大切に考えている企業と認識してもらえます。「従業員のために快適に働ける環境を整備している」「ワークライフバランスを考慮して時短勤務やテレワークを導入している」と人々に認識してもらえ、優良企業としてのイメージが定着します。 人々から優良企業とみなされるようになれば、自社商品やサービスの売上アップにつながるのもメリットです。どうせ同じ商品やサービスを購入するのなら、多くの人は優良企業からの購入を希望すると考えられます。
企業イメージの向上は、ほかにもさまざまなメリットを企業にもたらします。たとえば、人材採用です。メディアでブラック企業などの問題が大々的に取り上げられるようになり、就職や転職活動を行っている人は応募先を慎重に見極めようとしています。「従業員を大切にしている」などのよいイメージの企業は、それだけで他社との差別化につながり、採用面でも優位に立てます。

個人がワークライフバランスに取り組むメリット

個人がワークライフバランスを整えるためにできることは多々あります。ワークライフバランスを整える取り組みによってプライベートが充実するほか、健康の維持につながるなどがメリットです。

健康の維持

連日過酷な仕事に追われていると、心身に支障をきたすおそれがあります。毎日夜遅くまで残業をしていたり、1ヶ月のあいだに休みがほとんどなかったりするような日々は、とても健康的な生活とはいえません。 さまざまな取り組みによりワークライフバランスを整えることで、健康の維持につながります。たとえば、業務のプロセスを見直して効率的に作業を進められるようになれば、無駄な残業を削減でき、しっかりと休息をとって体力も回復できます。 仕事に追われる日々は、メンタルヘルスの不調につながることもあるため注意が必要です。過度なストレスからメンタルヘルスに不調をきたし、うつ病などを発症してしまうかもしれません。その結果、これまで通りに働けなくなるおそれもあります。 仕事と生活の調和がとれていれば、このようなリスクを回避できます。過度なストレスに晒されることなく穏やかな生活を遅れるため、心身ともに健康的になれるのがメリットです。

プライベートが充実

ワークライフバランス施策に取り組むことで、仕事とプライベートの切り替えがしやすくなるメリットがあります。プライベートに仕事を持ち込むようなことが少なくなり、気持ちを切り替えてしっかりとリフレッシュできます。 内閣府が発表した「満足度・生活の質に関する調査報告書2022」を見てみましょう。同資料によれば、ワークライフバランスが整っている人ほど生活の満足度が高い、との結果が出ています。趣味や生きがいがある人の多くはストレスを受けておらず、生活満足度も高い傾向にあります。

参照:内閣府|満足度・生活の質に関する調査報告書2022

ワークライフバランスに取り組む際のポイント

行き当たりばったりでワークライフバランス施策に取り組むのはおすすめしません。時間とコストを無駄にしてしまうおそれがあるためです。本腰を入れて施策に取り組もうと考えているのなら、以下のポイントを踏まえたうえで進めていきましょう。

経営層の発信

従業員のワークライフバランスを整えるには、社内の体制や職場環境など、さまざまな部分を見直さなくてはなりません。そのため、一部の部署やグループで取り組みを進めるのではなく、経営層が率先してワークライフバランスの重要性やメリットなどを発信していく必要があります。 取り組みを始めるにしても、中には「なぜそのような取り組みが必要なのか」と疑問や不満を抱く従業員がいるかもしれません。このような従業員がいると、取り組みを進めようと思ってもスムーズには進まないと考えられます。経営層は、こうした非協力的な従業員が出てくることも想定したうえで、どうすれば納得してもらえるか、理解してもらえるかを考えなくてはなりません。
まずは、ワークライフバランス施策によって従業員がどのようなメリットを得られるのか、どう変化するのかなどを経営層が伝えましょう。一度メールで情報を発信するだけでは不十分です。従業員がワークライフバランスの重要性やメリットを正しく理解できるまで、根気強く情報発信を行いましょう。

積極的なコミュニケーション

ワークライフバランスに対する考え方は人によって異なります。仕事と生活を調和させるべき、といった考えが今では主流であるものの、中には「生活するには収入が大事なのだから仕事を優先すべき」といった価値観をもつ人もいるかもしれません。企業が取り組みを進めるうえで、このような価値観をもつ従業員が出てくる可能性は十分あります。 個人の性格や生まれ育った環境などにより、考え方や価値観は大きく異なります。これはある意味当然であるため、このような人が出てくることも折り込んだうえで活動を展開しなくてはなりません。
そのうえで、従業員同士がしっかりとコミュニケーションをとれる環境の整備に注力しましょう。取り組みの中で価値観の違いが明確になれば、そこから従業員同士の諍いに発展してしまうかもしれません。業務にも支障をきたすおそれがあるため、そのあたりは配慮してあげる必要があります。

担当者の配置

ワークライフバランス向上への取り組みは、経営層が率先して進めるのが基本です。ただ、企業の社長や幹部など、経営の中核をなす人物は多忙な日々を送っていることが多く、特定の取り組みにだけ注力することは難しいでしょう。そのため、経営層の手足となって取り組みを浸透させていく担当者の存在が必要不可欠です。 実際に取り組みを推進する部署や担当者を選定しましょう。担当者は、経営層のメッセージを従業員たちに分かりやすく伝えることが責務です。
また、取り組みに関する意見や感想などを従業員からヒアリングし、経営層に伝えるのも担当者の仕事です。 このように、取り組みの担当者は経営層と従業員のあいだに立ち、双方の関係をうまく取り持たなくてはなりません。そのため、担当者には高度なコミュニケーションスキルやリーダーシップも求められます。取り組みが浸透するかどうかも、担当者の手腕にかかっている部分が多いため、慎重に選定を進めましょう。

効果の可視化

取り組みの進捗状況や効果を可視化するのも大切なポイントです。ワークライフバランス向上の取り組みは一朝一夕にできるものではなく、ある程度の成果が見えるまでにはそれなりの時間がかかります。 そのため、取り組みを続けている過程において、従業員から「なぜ効果がほとんど出ていないのに、このような取り組みを続ける必要があるのか」といった不満の声が上がることも珍しくありません。このような状況が続けば、従業員のモチベーションが低下し、さらに取り組みが停滞してしまうおそれがあります。
このような事態を回避するために、取り組みの進捗状況や効果を可視化しましょう。進捗や効果の可視化によって、従業員は取り組みがどの程度進んでいるのかを客観的に把握できます。残業時間がどの程度削減されているのか、有給休暇の取得率はどう変化したのかなどを可視化することで、経営層も今後の具体的な対応策を考えられます。 また、取り組みで大きな成果を上げたものや、優れた事例をピックアップして表彰するのも良案です。施策の効果がきちんと現れていることを従業員に周知でき、モチベーションアップにもつながります。

行政からの支援制度

ワークライフバランス向上の取り組みをどのように進めればよいか分からない、といった企業も中にはあると考えられます。現在では、企業の取り組みをサポートする行政の支援制度も充実しているので、この機会に利用を検討してみましょう。

働き方・休み方改善コンサルタント

「働き方・休み方改善コンサルタント」は、企業における労働時間や休暇に関する課題の改善を目的とした制度です。中小企業を中心に相談を受け付けており、事業者は各自治体の労働局に在籍しているコンサルタントからアドバイスをもらうことができます。 その道の専門家であるコンサルタントが相談に対応しており、ワークライフバランス向上の取り組みに関する相談も可能です。ワークライフバランス施策に関することだけでなく、「労務管理についてアドバイスしてほしい」「他社の事例を紹介してほしい」といった相談もできます。 コンサルタントへの相談は無料なので、コスト面の心配はありません。
また、自治体によっては、出張相談やオフィスに招いての社内講習に対応しているところもあります。「従業員にワークライフバランス施策の重要性を周知させるために、社内でセミナーをしてほしい」といった要望にも応じてもらえる可能性があるので、気になる場合は一度問い合わせをしてみましょう。

テレワーク普及促進関連事業

厚生労働省では、テレワークの普及促進を目指したさまざまな事業を展開しています。たとえば「テレワーク総合ポータルサイト」は、テレワーク導入を検討している企業を対象に、さまざまな情報を発信している点が特徴です。テレワークをどのように導入すればよいのか、助成金や補助金はあるのか、といった情報が掲載されています。 「人材確保等支援助成金(テレワークコース)」の利用も検討してみましょう。一定の条件を満たすことで、テレワーク導入に伴う就業規則や労使協定の変更、テレワークに要する機器の導入や運用、労働者に対する研修などへの助成金を支給してもらえます。

働き方改革推進支援助成金

「働き方改革推進支援助成金」は、働き方改革に伴う労働時間の改善に努めている企業に助成金を支給する制度です。勤務間インターバル導入コースや団体推進コース、労働時間適性管理推進コース、適用猶予業種等対応コースなど、複数のコースが設けられています。
たとえば、勤務間インターバルコースであれば、勤務間インターバルを導入した企業が対象です。「勤務間インターバル」とは、勤務と勤務とのあいだに一定の休息時間を設けることをいいます。2019年から導入が努力義務化されたもので、従業員の過重労働や健康被害防止を目的に制度が誕生しました。 設定するインターバルの時間によって、支給される金額が変化します。たとえば、休息時間が9時間以上11時間未満であれば40~80万円、11時間以上であれば50~100万円となっています。それぞれのコースごとに申請や受給の条件、金額などが異なるため注意が必要です。

参照:厚生労働省|働き方改革推進支援助成金 

ワークライフバランスの取り組み事例

ワークライフバランス向上への取り組みを、自社でゼロから始めるのは時間も労力もかかります。おすすめなのは、すでに取り組みを始めている企業の事例を参考にすることです。どのような取り組みなのかチェックし、自社でも真似できそうなら取り入れてみましょう。

第一生命保険株式会社

「第一生命保険株式会社」では、従業員がいきいきと快適に働ける職場づくりを目指し、さまざまな取り組みを行っています。同社では、両立支援制度の充実と柔軟な働き方の推進を軸とした取り組みを展開しており、2022年からは男性社員の育児休業取得100%(累計1ヶ月上)を目標として掲げました。 取り組みの一環として、同社では社内の周知用のポスターを貼り出しています。「イクメン応援宣言」と銘打たれたポスターを配布し、男性育休の取得推進を図っています。
また、男性従業員が育児休業を取得する場合、最大20日間の有休を付与するなど、独自の取り組みを行っているのも特徴です。 このような取り組みの甲斐あってか、男性従業員の育休取得率は年々上がっています。2019年時点で79.8%だった取得率が、2021年には92.3%にまで上昇しました。

参照:第一生命保険株式会社|ダイバーシティ&インクルージョン

株式会社レオパレス21

家具家電付きの賃貸アパートを全国各地に展開している「株式会社レオパレス21」は、働き方改革へ積極的に取り組んできました。ダイバーシティ推進室を設置し、テレワークの導入やリフレッシュ休暇制度の設立など、従業員が働きやすい職場環境の構築に努めてきた実績があります。 さまざまな取り組みの結果、同社は時間外労働の削減を達成しました。1人あたりの時間外労働が2014年時点で27.8時間だったところ、2020年には11.4時間と大幅な減少に成功しています。
また、有給休暇の取得率も2014年では33%だったのに対し、2020年には90.5%と大きく上昇しています。 同社はほかにも、女性社員へのキャリア啓発研修や両立支援制度の導入など、多様な人材の活躍を目指した取り組みに注力している点が特徴です。

参照:株式会社レオパレス21|ダイバーシティ

佐川急便株式会社

国内における物流事業で大きなシェアを誇る「佐川急便株式会社」は、重要な経営戦略として女性活躍推進を掲げました。2011年から本格的に、女性が活躍しやすい環境の構築や整備に注力し、グループ全体で意欲的な取り組みを続けています。 さまざまな取り組みの結果、女性雇用比率は10%以上向上しました。取り組みを開始した当初の女性雇用比率は16.9%でしたが、2020年には27.8%と大きく伸びています。さらに女性管理職比率も、開始時は0.8%だったにもかかわらず、2020年には8.2%と割合が大きくアップしました。
また、同社ではワークライフバランスへの取り組みとして、両立支援制度を充実させています。子育て支援として育児休業や育児短時間勤務、出生休暇などを設立し、介護休業や介護短時間勤務、介護休暇など介護支援も導入しました。

参照:佐川急便株式会社|ダイバーシティ&インクルージョン

SCSK株式会社

長きにわたりさまざまな業界へITサービスを提供してきた「SCSK株式会社」は、2013年から「スマートワーク・チャレンジ20」という施策を始めました。全社・全部署を対象に始まったこの施策は、スマートに働き残業時間の削減と有給取得率向上を目指す取り組みです。 取り組みの一環として、一斉年休制度や残業代の還元、有給休暇全取得後のバックアップ休暇などの制度を整備し、ペーパーレスの立ち会議や直行直帰などの取り組みも進めました。
また、設定した目標を達成すればボーナス支給の対象となる一方、未達成では対象とならない制約を設けたことで、全社員が本気になって取り組んだとのことです。

参照:SCSK株式会社|SCSKの働き方改革

損害保険ジャパン株式会社

「損害保険ジャパン株式会社」は、働き方改革の一環としてシフト勤務制度を拡充しました。労働時間を柔軟に変えられる仕組みを採用し、従業員はこれまで以上に自由度の高い働き方が可能となっています。 同社のシフト勤務制度では、労働日ごとに働き方を変えられる点が大きな特徴です。たとえば、「明日と明後日は朝7時から15時までの勤務にする」といったことも可能で、最大22パターンの中からシフトを選択できます。これにより、育児や介護をしている従業員も、仕事と生活を両立させやすくなりました。

参照:損害保険ジャパン株式会社|取組事例

まとめ

テレワークやフレックスタイム制の導入、福利厚生の充実といったワークライフバランス向上への取り組みにより、優秀な人材の獲得や従業員の定着、企業イメージの向上などさまざまなメリットを得られます。他社の事例も参考にしつつ、取り組みを始めてみましょう。

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