マーケティング戦略を講じる際、「ファネル分析」という言葉を耳にすることがあります。ファネル分析の具体的な意味や正しい活用方法について、理解しておきたいと感じている人もいるのではないでしょうか。
今回は、ファネル分析の定義や実践するメリットを紹介。ファネル分析の実践例や、分析結果の活用方法についても併せて解説します。本記事を読めば、ファネル分析をマーケティングで活用する具体的なイメージをつかめるはずです。
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消費者の購買行動のプロセスを図式化するファネル分析
初めに、マーケティングにおけるファネルの定義を解説します。ファネル分析は下記に紹介する、基本的な知識を押さえた上で行うことが望ましいです。
マーケティングにおけるファネルの定義
ファネルは元々、「漏斗(ろうと)」という意味を表す言葉です。これは、調理などで使用する、注ぎ口が広くなっており、液体を注ぎやすくするために用いる器具のこと。マーケティング分野でファネルという言葉が使われるのは、ある商品を認知してから購入に至る消費者の購買行動を、漏斗の形に例えているからです。
例えば、ある商品の存在を知った人が100人いるとします。このうち、全員が購入を検討するとは限りません。実際に購入を検討し、購入にまで至る人は10人だったり、5人だったりするでしょう。
購買行動のプロセスで見込み顧客が絞り込まれていき、最終的に残った人が購入する様子を漏斗の形に例えているのです。このように、マーケティングにおいては消費者の購買行動のプロセスを図式化したものを、ファネルと定義しています。
ファネル分析の目的
ファネル分析とは、消費者の購買行動プロセスを段階ごとに分解し、各段階の成果ポイントや購買離脱の原因を探るための手法です。前述のとおり、ある商品を認知した人のうち全員が購入を検討するとは限りません。ただし、購入を検討する人があまりにも少ないようであれば商品の訴求が広く届いていないなど、何らかの原因があると考えられます。その際は、より多くの人に購入を検討してもらうための施策を講じる必要があります。
このようにファネル分析の目的は、消費者の購買行動をプロセスごとに分析して購入を阻んでいる原因を探ったり、原因に対する改善策を講じたりすることにあります。分析すること自体を目的と捉えるのではなく、「原因の特定と改善」までを見通しておくことが大切です。
ファネル分析の種類
ファネル分析にはさまざまな手法があります。ここでは、マーケティングでよく用いられる5種類のファネル分析について見ていきましょう。
パーチェスファネル
パーチェスファネルとは、逆三角形の漏斗型で図式化されるファネル分析のモデルのことです。最もよく知られているファネル分析のため、単にファネル分析という場合にはパーチェスファネルを指していると考えて差し支えありません。
パーチェスファネルは、消費者の購買行動プロセスを表すAIDMA(アイドマ)をベースとする分析手法です。AIDMAは、下記にあるように複数の単語の頭文字で構成されている概念です。
<AIDMA>
・Attention:認知
・Interest:興味・関心
・Desire:欲求
・Memory:記憶
・Action:行動
AIDMAはマーケティング手法として広く知られているオーソドックスな概念であり、消費者の購買行動を分析するための基本的な考え方といえます。ただし、現代においては消費者の行動様式が多様化しており、必ずしもパーチェスファネルやAIDMAで分析できるケースばかりとは限りません。そのため、ファネル分析にもさまざまな手法が用いられるようになったのです。
インフルエンスファネル
インフルエンスファネルとは、消費者が商品やサービスを購入した後の行動を図式化したものです。下図のように、ピラミッド型の図で示されます。
固有の商品やサービスは、購入に至ることで消費者のその後の購買行動が途絶えるわけではありません。実際に商品やサービスを利用し、使用感や利便性についてさまざまな感想を持つはずです。こうした感想をSNSやECサイトの商品レビューに投稿することで、潜在顧客に影響(インフルエンス)を与える可能性があります。
自社の商品についてどのような感想を持ってもらい、発信・紹介につなげていくかをデザインするのがインフルエンスファネルの基本的な考え方です。好意的なレビューや口コミを戦略的に増やしていき、新たな見込み顧客を呼び込むための施策に用いられるのがインフルエンスファネルと捉えてください。
ダブルファネル
パーチェスファネルとインフルエンスファネルを組み合わせたのがダブルファネルです。消費者が商品を初めて認知してから、好意的な口コミをみずから発信するロイヤルカスタマーとなるまでの戦略を講じるために用いられます。
実際のところ、消費者の購買行動と購入後の行動を完全に分けて考えるのは現実的ではありません。興味・関心を持った時点から商品・サービスに対する期待値が積み上がっていき、期待値を上回る利用体験が得られることで継続・紹介へとつながっていくと考えるのが自然の流れです。近年では、アフターサービスや好意的な口コミの醸成までを見通して、マーケティング施策を講じるケースが少なくないのです。
ルーピングファネル
ルーピングファネルとは、消費者の購買行動が紆余曲折を経ていることを図式化する分析方法です。
ここまでに紹介した3つのファネル分析では、消費者の購買行動を上から下方向へと直線的に流れていくものとして捉えています。しかし、オンラインでの購買が日常的になっている現代において、消費者の購買行動は複雑化しており、直線的なモデルでは表現しきれない状況となっているのです。
消費者はある商品を認知した後、さまざまなメディアを通じて商品情報にふれていきます。検索サイトを活用して比較・検討することもあれば、レビューサイトやSNSで実際に商品を購入した人の感想を知ることもあるでしょう。さらに、購入を決断後は、どのECサイトやリアル店舗で購入手続きをするべきかを判断することになります。
こうした複雑化する消費者の購買行動をより現実に即した形で表現しているのが、ルーピングファネルと捉えてください。
マイクロモーメンツファネル
マイクロモーメンツファネルとは、瞬間的な欲求や願望が行動に結びつくことを想定した分析方法です。スマートフォンが浸透した現代においては、消費者は日常的に大量の情報にふれています。偶然目にした広告に強く惹かれ、その場で購入に至るというケースも十分に想定できるのです。
こうした消費者の行動は、従来のファネル分析では分析が難しいことも少なくありません。そこで、これまでのファネル分析に加えて、マイクロモーメンツファネルを加えることで、より実態に合った戦略や施策を講じやすくなるでしょう。
ファネル分析を行うメリット
ファネル分析を行うと、具体的にどのようなメリットを得られるのでしょうか。特に重要な3つのメリットについて解説します。
ユーザーの離脱ポイントを特定しやすくなる
ファネル分析を行うと、ユーザーがどの段階で離脱したのか、なぜ離脱したのかが特定しやすくなります。最も離脱率の高いプロセスに着目して原因を分析すると、改善すべきポイントの優先順位も明確になるでしょう。
例えば、CVR(コンバージョン率)改善のために競合商品にはない自社商品の強みを打ち出したとします。しかし、もし多くの消費者がその商品を認知すらしていないとすれば、その施策は成果につながらない可能性が高いかもしれません。なぜなら、そこで注力すべきは商品の認知度を高めるための施策であり、比較検討してもらうための施策は、認知の後の段階に位置づけられるからです。
このように、ユーザーの離脱ポイントを的確に見極め、成果を阻んでいるプロセスを効果的に改善しやすくなることがファネル分析を行う重要なメリットのひとつです。
ペルソナを設定しやすくなる
ファネル分析を掘り下げていくと、商品のペルソナを設定しやすくなります。ファネル分析を通じて消費者の心理がどのように移り変わっていくのかがより詳細に把握できるため、ニーズのある層も特定しやすくなるでしょう。
消費者ニーズの細分化が進んだ現代においては、不特定多数に向けたマスマーケティングは効力を失いつつあります。商品を求めている人にアプローチするには、顧客像をできる限り具体化しておかなくてはなりません。ペルソナを絞り込み、より現実に即した施策を講じられることもファネル分析のメリットといえます。
CVRの向上に寄与する
消費者がどの段階で離脱しているのかを見極め、実態に合った改善策を講じていくと、CVRの向上が実現する可能性が高まります。成果を阻んでいる原因の解消にリソースを集中しやすくなるため、自ずと成果が出やすくなるからです。
CVRを改善するためにリソースを投じても、施策そのものが的外れであれば成果にはつながりません。現状、最も優先度の高い改善点を絞り込むという意味でも、ファネル分析は有効です。課題の特定と改善を繰り返し、結果的にCVRの改善につながりやすくなることは、ファネル分析を実践するメリットといえるでしょう。
ファネル分析の実践例
ここでは、ファネル分析を効果的に活用し、施策の改善につなげるための実践例をご紹介します。ファネル分析がどのように施策の改善に結びつくのか、実践例を通してイメージを深めていってください。
ECサイトにおける購買行動の分析
下記の分析例を見ると、商品詳細ページを確認した段階で離脱した人が75%、商品をカートやお気に入りリストに入れた人の中で購入に至らなかった人は50%いたことがわかります。
■購買行動のプロセスと想定される顧客の行動
購買行動のプロセス | 顧客数 | 想定される顧客の行動 |
認知 | 100 | 商品一覧の中から商品を発見する |
興味・関心 | 80 | 商品詳細ページを確認する |
比較・検討 | 20 | 商品をカートまたは「お気に入り商品」リストに入れる |
購入 | 10 | 購入手続きをする |
この結果から、下記の改善策が浮かび上がってくるはずです。
<優先度の高い改善策>
・商品詳細ページに掲載している商品画像や商品説明をより魅力的なものにする
・カゴ落ちを防ぐために、ストレスなく購入できる操作画面に改善する
ECサイトでは、商品の実物を確認した上で購入するわけではないため、商品説明や画面の操作性が不十分だと消費者は不安を抱くことがあります。
しかし、各プロセスで離脱した顧客の割合を分析すれば、上記のとおり改善すべきポイントがより明確になるでしょう。
BtoBマーケティングにおける見込み顧客の取り込み
BtoBマーケティングにおいても、見込み顧客を次のステップへと遷移させる上でファネル分析が活用できます。
例えば、見込み顧客が商品に関心を抱いていない状況で、具体的な商品説明をしても効果は薄いでしょう。まずは興味・関心を寄せる見込み顧客を一定数確保するために、オンライン・オフラインで商品の告知をする機会を増やしていく必要があります。
■見込み顧客の状態と想定される施策例
見込み顧客の状態 | 想定される施策例 |
認知 | オウンドメディア、SNS、イベント開催、ウェビナー、広告 |
興味・関心 | メルマガ、公式LINE、自社アプリ、ホワイトペーパー、セミナー |
比較・検討 | サービス資料、LP、導入事例、口コミ |
契約・申込 | 無料トライアル |
一方、すでに比較・検討の段階に入っている見込み顧客に対しては、商品のメリットが具体的に伝わる情報を提供することが重要です。
このように、見込み顧客がどの段階にあるのかを見極め、相手の状態に合わせて施策を使い分けていく際にファネル分析は有効です。
<小見出し>
顧客アンケートにおける質問項目
ファネル分析の考え方は、顧客アンケートでも活用できます。顧客のどういった心理を調査したいのかを明確にし、目的に応じた質問項目を設定しやすくなるからです。
■調査したい項目と質問項目例
調査したい項目 | 質問項目例 |
認知 | ・商品名を知っていましたか?
・商品を知ったきっかけを教えてください |
興味・関心 | ・商品をどのようなシーンで利用しますか?
・商品に対してどのようなイメージを持っていますか? |
比較・検討 | ・どのような他社商品と比較しましたか?
・他社商品より優れている、劣っていると感じる点を教えてください |
リピート購入意思 | ・この商品をもう一度購入したいと思いますか?
・2回以上購入したことがある商品はどれですか? |
例えば、幅広い潜在顧客に対して実施するアンケートであれば、認知や興味・関心について質問するほうが効果的でしょう。反対に既存顧客に対して質問する場合は、リピート購入意思を中心に聞き取ることで、今後の施策に活かせる回答を得られるはずです。
段階別・ファネル分析結果の活用方法
ファネル分析結果を施策に反映させる際には、ボトルネックが生じている段階に合った施策を見極めることが重要です。ファネル分析結果は、下記に挙げる3つの段階に分けて、上手に活用しましょう。
トップオブファネル:まずは商品の認知度向上を図る
トップオブファネルとは、ファネルの初期段階です。パーチェスファネルであれば「認知」や「興味関心」の段階に相当します。ここがボトルネックになっている場合、まずは認知度を高めることが最優先です。
SEOやSNSでの発信、マス広告、動画コンテンツの投入、インフルエンサーマーケティングといった施策に注力して商品の認知度向上を図りましょう。
ミドルオブファネル:見込み顧客に対して、個別性を重視した対応を行う
ミドルオブファネルとは、ファネルの中期段階です。パーチェスファネルであれば「比較・検討」の段階に相当します。ファネルの中期段階にいる見込み顧客はすでに商品を認知していることに加え、商品に興味を持ち始めている人も一定数いることになります。
SEOを講じるのであればパーソナライズした施策に注力したり、SNSを通じた見込み顧客との交流を図ったりと、より個別性を重視した対応を行うのがおすすめです。また、イベントを開催して検討中の見込み顧客へ直接アプローチするといった施策も効果的が期待できます。見込み顧客をできるだけ多く取り込み、購入・申込へとつなげていきましょう。
ボトムオブファネル:最終段階である商品購入の決め手を作る
ボトルオブファネルとは、ファネルの最終段階です。パーチェスファネルであれば「購入・申込」の段階に相当します。
ここがボトルネックになっているということは、商品が購入する決め手に欠けていると捉えるべきでしょう。無料トライアルや期間限定セール・割引クーポンといった企画を打ち出し、「試しに使ってみよう」と思ってもらうことが大切です。