脱クッキー時代に、アプリマーケティングが重要性を増す理由

Writer 清水 沙矢香
2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。

 

2023年後半に予定されている「サードパーティークッキー」の廃止まで、あと1年ほどになりました。

IT各社が個人情報保護の動きを加速させるなか、特定のネットユーザーを「追いかける」形でのマーケティングは難しくなっています。

そこで、スマートフォンアプリを利用して顧客情報や人気商品の傾向を探る「アプリマーケティング」の重要性はさらに高まっています。

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スマホでも広がる利用者保護の動き

ブラウザの動きから個人の興味や趣味を特定し、関連する広告を表示させ続ける「サードパーティークッキー」でのマーケティングは、すでに難しいものとなっています。

ブラウザ各社は相次いでサードパーティークッキーの廃止や機能制限に乗り出しています。Appleの「Safari」、Mozillaの「Firefox」ではすでに対策が済んでいる他、トップシェアを占めるGoogleが「Chrome」で2023年後半にサードパーティークッキーを廃止するとしています。

また、Appleはデジタルマーケティング業界にとっては「鬼」とも呼ばれるほどに厳しいユーザー保護に乗り出しています。

「プライベートリレー」と呼ばれる機能で、AppleはiOS15、iPadOS15のほか、macOS Montereyではベータ版をiCloud+のサブスクリプションサービスとして導入しています(図1)。

図1 プライベートリレー設定画面 出所:「iCloud プライベートリレーについて(https://support.apple.com/ja-jp/HT212614)」Apple

プライベートリレーでは、ユーザーがサイトを閲覧する過程で生じる個人情報を以下のように保護します。

通常は、Web を閲覧すると、Web トラフィックに含まれている情報 (DNS レコードや IP アドレスなど) をネットワークのプロバイダや、閲覧した Web サイトに知られてしまいます。この情報を基に、閲覧者の本人確認が実施されたり、時間経過に伴う位置情報や閲覧履歴を蓄積してプロフィールが作成されたりする場合があります。iCloud プライベートリレーは、Safari で Web を閲覧する際に、あなたが誰で、どのサイトを訪れているのか、Apple も含め誰一人としてわからないよう徹底し、プライバシーを守るしくみになっています。

引用:「プライベートリレーについて」Apple

さらにAppleは、メールアプリにもIPアドレスをマスキングする機能を導入する予定で、その徹底ぶりがうかがえます*1。

 

動きや心理を可視化するアプリマーケティング

これら個人情報保護への取り組みは、マーケティングを実施したい企業からすれば「一方的なアプローチ」ができなくなる、ということもできます。

そこで、スマホアプリを使い、顧客とのコミュニケーションとマーケティングを同時に実施する事例が出てきています。

来店客の動線が見える〜「POCKET PARCO」

アパレル商業施設のパルコが導入しているアプリ「POCKET PARCO」は、来店客にポイント付与というメリットをもたらしつつ、その動きを情報として得られるよう、多彩な機能を搭載しています(図2)。

機能名 概要 情報収集可能な消費者行動
CLIP アプリ内のショップブログ記事を閲覧する際、お気に入りの記事を登録するとポイント付与される。 【来店前】

来店きっかけとなった可能性のある情報が把握できる。

CHECK IN 来店時にアプリを操作することで、チェックインと見なされポイントが付与される。 【来店中】

来店したタイミング(時間、店舗)が把握できる。

WALKING スマートフォンの歩数計測機能とアプリをユーザーが連携許可することで、来店中の一定歩数分ポイントが付与される。 【来店中】

来店中の消費者行動(一定歩数)が把握できる。

CONVERSION アプリへ事前に登録したクレジットカードで買い物をすることで、ポイントが付与される。 【来店中】

来店中の消費者行動(購入)が把握できる。

STAR RATING 来店後の顧客に対して、プッシュ通知にてアンケート評価(5段階)を依頼され、回答することでポイントが付与される。 【来店後】

来店後の消費者意識(来店した店舗への評価)が把握できる。

図2 パルコ「POCKET PARCO」の機能概要より (出所:「O2O及びOMOの現状に関する調査研究報告書」総務省資料 p.14)

 

顧客の来店時間帯、テナントの人気度合い、滞在時間などの「動線」を可視化できます。

「WALKING」機能には他の魅力もあります。健康意識の高まりにもマッチしそうな「歩くほどにポイントが貯まる」というシステムですが、同時に店内を多く歩いてもらうことで当初の目当てのショップ以外にも立ち寄ってもらえるチャンスが生まれるのです。

可視化しにくかった顧客行動を捉える〜ディノス・セシール

また、アプリの刷新で、これまで見えなかった顧客心理を「見える化」したのがカタログショッピングのディノス・セシールです。

ディノス・セシールは2020年10月にスマホアプリを刷新し「カタログスキャン」機能を追加しました*2。

紙のカタログを開いてスマホのカメラをかざすと、画面上に商品在庫数、4段階の会員ランクに応じた実売価格、クーポン利用時の割引価格などが表示されるというもので、画像認識技術を用いています。

顧客にとってはECサイトで商品検索したりコールセンターに問い合わせしなければならなかったり、という手間がかからなくなるという意味ではUX向上に役立っていますが、ディノス・セシールの狙いは他にあります。

アプリで取得するカタログのスキャンデータ、ECサイトのアクセスデータ、そして購買データを組み合わせることで、カスタマージャーニーの理解が一歩進むというわけです。

カタログを開いたかどうか、何時ごろなのか。

これまでは見えなかった顧客の行動が、アプリの存在によって把握しやすくなるのです。

また、カタログをスキャンしたのにECサイトへのアクセスがなかったのはなぜかについて検証するきっかけができます。

カタログ通販という「見えない部分」が多かった商習慣であっても、アプリを介在させることでマーケティングの一助になるのです。

 

アプリから得られるのは「ゼロパーティーデータ」

サードパーティークッキー廃止にともなって、いま「ゼロパーティーデータ」の存在が注目されています。顧客が承知した上で提供する自分の情報です。

ブラウザの動きを勝手に追跡するサードパーティーの手法よりも、顧客が自ら提供するデータにはメリットがあります。

まずは個人情報保護の流れに沿っているということです。そして、顧客が自ら提供するデータには高い「信頼性」があり、精度も高いと言えます。

また、アプリという比較的親しみやすい存在は、自分の情報を提供するハードルも下がりやすいという可能性もあるでしょう。ここにクーポンやオリジナルコンテンツの発信などを交えることにより、ブランドへの信頼や親しみも向上します。

「データは宝」となっていく時代です。

顧客の不快感や負担を最小限にしながらデータマーケティングを実施しなければならないというこれからの新しい時代には、顧客が設定を選べるツールであるアプリによるマーケティングは、存在感を増していくことでしょう。

 

*1「最新 マーケティングの教科書 2022」日経クロストレンド p131

*2「ディノスが脱クッキーでデータ戦略推進 カタログとアプリを融合」日経クロストレンド
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00421/00005/

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