【NRF2020で見えた最新トレンド】小売・アパレル業界の未来を理解するための4つのキーワード

2020年1月11日〜14日にニューヨークで開催された、「NRF 2020 Retail’s Big Show」。このイベントは、世界最大の小売業界団体である「全米小売協会」主催で毎年開催されており、過去には「オムニチャネル」という概念を初めて生み出した場としても有名です。

この記事では、NRF2020での議論をもとに、小売業界や、アパレル業界でいまもっとも注目されている4つのキーワードについて解説。現地を訪問し、各ブランドのショップも実際に体験した伴 大二郎氏(株式会社オプト エグゼクティブ・スペシャリストパートナー オムニチャネルイノベーションセンターセンター長)、奥谷 孝司氏(オイシックス・ラ・大地株式会社 執行役員 Chief Omni-Channel Officer)、公文 紫都氏(フリーライター)のお三方の発言とともに紹介します。

※本記事は、株式会社シンクロ・トレジャーデータ株式会社・株式会社ヤプリの共催で2020年2月3日に行われたトークイベント世界最大テックイベント CESとNRFからみる 2020年 EC業界のトレンド」のセッション内容をもとにMMU編集部が制作しました。登壇者は上記の3名、モデレーターを西井 敏恭氏(オイシックス・ラ・大地 執行役員 CMT 株式会社シンクロ 代表取締役)が務めました。

「シグネチャーストーリー」〜顧客の心を動かし、よりよい関係を築くために

一つ目のキーワードは「シグネチャーストーリー」。「ストーリーテリング」と呼ばれることもありますが、いずれもNRF2020で頻出した単語のひとつです。ここでは、シグネチャーストーリーを上手に伝え、顧客との関係を構築しているブランドを三つ紹介します。

Allbirds

Allbirdsは、元サッカー・ニュージーランド代表のティム・ブラウン氏とバイオテクノロジーの専門家であるジョーイ・ズウィリンガー氏の二人が、サンフランシスコで2016年に設立した、スニーカーのスタートアップ。洗濯機で丸洗いできることやロゴのないシンプルなデザインで人気を集めています。

「世界一履き心地のいい靴」「サトウキビでできている」「洗濯機で丸洗いできる」などがAllbirdsのシグネチャー。モノについてのしっかりとしたストーリーがあり、それをはっきりと受け取った上で購入している人が多いブランドです。

シグネチャーストーリーを伝えるために、パッケージ自体で説明するのはもちろん、店舗でも原材料について詳しく説明している。また、購入後には、ブランドの理解を促すために定期的にメールマガジンが届きます。

オフライン/オンラインのチャネルを活用することで、ユーザーが「Allbirdsの靴を履く理由」をちゃんと伝えることができています。伴氏)

Reformation

ReformationはLA発のサスティナブル・ファッションブランド。もともと、下取りした服を修繕して販売するビジネスを行っていましたが、サスティナブルなモノを販売したいという創業者の想いからリローンチしました。

先ほどのAllbirdsもそうですが、「サスティナブル」をシグネチャーストーリーにするケースが、いまの消費者の共感を得やすいということもあり増えています。そして、「情報開示」もReformationのシグネチャー。製造工程での二酸化炭素の排出量や、水の消費量を商品説明欄に記載しているのです。

日本でもサスティナビリティへの配慮を打ち出すべく情報開示が増えていますが、一部の商品に留まっているのが現状。Reformationは、全ての商品で例外なくこれを行なっているのが特徴です。ブランドパーパス(ブランドの存在目的)とストーリーが合致していますね。伴氏)

EVERLANE

EVERLANEはサンフランシスコで2010年に創業したアパレルブランド。製造・販売する全ての商品で原価や人件費、輸送費などを公表しています。

EVERLANEも、「サスティナブル」「原価開示」で有名なブランドです。僕の買ったニットは$38なのですが、マテリアルが$6で、裁縫はいくらで、諸々含むと原価は$15。一般的には$75くらいで売られている、ということを全部公開しています。サスティナブルである上に、コストパフォーマンスも良いことが伝わってきますね。

また、工場についての情報を開示しているのもEVERLANEの特徴です。アパレル製品のなかには、発展途上国の劣悪な労働環境のもとでつくられているというネガティブな報道も出ていますが、このブランドは「ベトナムの工場で、こんな人が働いてます」という情報を積極的に載せているんです。企業や製品が信頼できる、というのが選ばれる理由になってきているので、こういった情報の開示は今後もトレンドになると思います。(伴氏)

「デジタルと人の関わり」〜店舗でのデジタル活用の目的は「人」にある

二つ目のキーワードは「デジタルと人の関わり」。NRF2020では、「従業員に力を」というスローガンが多くのセッションで掲げられていました。店舗のデジタル活用を促進することで効率をあげ、従業員が本来の力を発揮できる環境を作ることが、より良い顧客体験につながるという議論です。ここでは、デジタルと人との関わりに着目した、有名ブランドの事例を二つご紹介します。

NIKE

NIKEの店舗では、レジに並んだり、在庫確認を待ったり、といった顧客にとってのストレスを減らすことに注力しています。スマートフォンを持って店舗に入ると、NIKEのアプリが自動で「店舗モード」に切り替わります。そして、欲しい商品の場所や在庫の有無を調べて決済するところまで、すべて接客なしで済ませることができます。一方で、スタイリングの相談をしたい場合は、予約ゾーンから店員を呼び出すことも可能です。自分が望む体験を顧客が選べるように、デジタルを活用した事例です。(伴氏)

NORDSTROM

NORDSTORMは、最近ニューヨークに旗艦店ができて話題を呼んでいます。エリア出店戦略も面白くて、「rack」と呼ばれるアウトレットのような店舗と、「Local」という、ECで購入した商品の受け取りや、お直し専用の店舗も旗艦店の近くにあるんです。旗艦店では接客や体験に特化して、値段が安いrackはセルフサービスでというように、様々な体験を組み合わせています。日本では、デパートでもアウトレットでも同じような接客が求められますが、サービスにチップという対価がきちんとあり、サービスが受けられないなら安く買うことができるという線引きができているのがアメリカならではだと感じました。(伴氏)

NORDSTORMの旗艦店は、靴売り場の中にバーカウンター「Shoe Bar」があるのが面白いですね。「靴を買う」「お酒を飲む」という、同じように時間がかかる行為を組み合わせることで、ゆっくりと楽しい買い物体験を提供している。旦那さんがワインを飲みながら、奥さんの買い物を待つこともできるのです。また、旗艦店内どこに居ても、併設されているレストランから食事を持ってきてくれるサービスもあります。とにかくNORDSTORMの店外に出さない、という発想が徹底しています。(公文氏)

「キュレーションメディア型店舗」〜メディア化する小売は何を売るのか?

リテールの新しい形として話題を集める「キュレーションメディア型店舗」が三つ目のキーワード。店舗が単にモノを売る場所から、メディアのような機能を持つような潮流が生まれつつあります。近しい概念として、小売のサービス化を意味する「RaaS」もよく話題にあがっています。これまでにない顧客体験の提供と、あらたなビジネスモデルの構築を目指すブランド事例を三つ取り上げます。

b8ta

b8taはアパレルからデジタルガジェットまでを取り扱う小売店。製品の販売をするだけでなく、製品のベータテストも店内で行います。2020年夏には、日本にも初出店する予定。

b8taはガジェットなど、最先端のアイテムを集めている小売店です。店内には店員が少なく、商品説明や、使い方などは隣に置かれたタブレットで客が自ら確認します。「ウェブ広告を出しても売れないけど、b8taに出品すると売れる」というメーカーの声もあるようです。そして何よりユニークなのが、b8taはモノを売っているというよりは、情報を売っているという点です。タブレットや店内のカメラで、ユーザーがどのくらい商品説明を読んだか、どのような行動をとったかをトラッキングしてデータ化、メーカーに共有しています。従来のリテールとは異なるビジネスモデルですね。(伴氏)

SHOWFIELDS

SHOWFIELDSは2018年12月にオープンした、D2Cブランドの展示・販売を行っている小売店。”The Most Interesting Store in the World”(世界で最もおもしろいお店)というキャッチフレーズでおなじみ。アートが飾られていたり、ショーが楽しめたりするなど、新たな体験顧客を提供している。

SHOWFIELDSでは、店員が商品説明をまるで演劇のようにユーモアたっぷりに説明してくれます。例えば、科学者役を演じる店員が「この商品、私が開発したの。使ってみて」と言いながら商品を試させてくれるんです。SHOWFIELDSの店員は、現役の俳優を雇っているケースもあるようです。とにかく楽しい価値を顧客に提供するという点がSHOWFIELDSの特徴で、店舗内に滑り台があることも有名ですね。(公文氏)

Neighborhood Goods

Neighborhood Goodsはテキサス発のD2Cブランドを中心とするデパートメントストア。アパレルから生活雑貨まで、ライフスタイルに関わる幅広い商品を取り扱う。

Neighborhood Goodsは、インスタグラムで人気になった商品を集めて、それらをリアルな場で見ることができる、というコンセプトで店舗を設計しています。店舗空間は非常にかっこいいのですが、実はデジタルの活用も先進的。アプリで、店員に自分の居場所を伝えて接客を受けられるというサービスもあります。(伴氏)

「Branded Re-Commerce」〜製品を売ったあとの時間まで考える

最後のキーワードは「Branded Re-Commerce」。フリマアプリの普及によりCtoCが活発化し、長く所有せずにリセールすることを前提としてファッションを楽しむスタイルが増えている現在、アパレルメーカー側は、自社製品を売った先のことまで考える必要があります。ここでは、消費者の「購買後の行動」を戦略的にデザインしている二つの取り組みを紹介します。

patagonia

patagoniaは登山用品、サーフィン用品、スキー用品などのアウトドア衣料品を取り扱うアメリカのメーカー。環境配慮の取り組みに力を入れていることで有名。

patagoniaは、自社製品を売ったあと、自分たちの手で回収し修繕して、再び付加価値をつけて売るということをやっています。これにより、自社経済圏を広めていくと同時に、ブランド毀損も防止できているんですよね。メーカーは、製品を販売するまで、さまざまなタイミングで顧客とコミュニケーションを取ろうと努力していますが、売ったあとの時間まで見るようになったのがこのpatagoniaの事例ではないかと思います。別の言い方をすれば、一つの商品で、複数の人の顧客時間に入り込んでいるということです。(奥谷氏)

Loop

Loopは、食品や化粧品などの容器を再利用するプラットフォーム。消費者の自宅から使用済みの容器を収集し、洗浄、補充(リフィル)した上で再利用する試みで、P&Gやユニリーバ、ネスレなどが参画している。

売ったら終わりではなく、販売した後の体験を重視した取り組みとして、Loopにも注目しています。これは、実施したことにより儲かる、儲からない、という話とは別軸で考える必要があります。消費者の意識の高まりに呼応する形で、ブランド側に環境への配慮が求められている時代だからです。「Holistic Experience」と呼ばれる、検討段階から、購入、使用、その先まで考えるアプローチがこれからますます増えていくと考えられます。(奥谷氏)

 

以上4つのキーワードをご紹介しました。「オムニチャネル」という概念が提唱されたのは約10年前。いまでは「オムニチャネル」を目指すことは当たり前となり、さらには「OMO」という概念も登場しています。デジタルを軸に、より良い顧客体験をもたらすべく、様々な実験が行われているアメリカの小売、アパレル業界のトレンドから、「次の当たり前」が見えてくるかもしれませんね。