スーパーアプリ入門。Wechat、AliPay、GoJekが提供するプラットフォームの新しい形とは

2019年末に発表されたヤフー・LINEの経営統合を皮切りに、じわじわと世間の注目を集めつつある「スーパーアプリ」。2020年1月現在、日本国内ではまだそれほどポピュラーではないものの、米国では2018年頃から徐々に関心が高まりつつあるキーワードです。

この記事では「スーパーアプリ」とは何かを分かりやすく説明した上で、スーパーアプリがもたらすメリットや各国の代表的なスーパーアプリをご紹介します。

そもそもスーパーアプリとは?

スーパーアプリとは、用途の異なる様々なアプリを一つのメインアプリ上で統合し、シームレスに使えるようにしたものです。基盤となるメインアプリはプラットフォームアプリ、プラットフォームアプリ上に統合されるアプリはミニアプリと呼ばれますが、プラットフォームアプリを「Ambarella(傘)アプリ」、ミニアプリを「ミニプログラム」などと呼ぶこともあるようです。

スーパーアプリの構成についても、現時点では厳密な定義があるわけではありません。ただ、チャットアプリや決済アプリといった日常的によく使われる定番アプリがプラットフォームアプリとなり、その上に様々なミニアプリを統合していくパターンが多いといえるでしょう。

前述のヤフーとLINEの経営統合の背景にも、PayPayをプラットフォームアプリとし、その上に様々なミニアプリを統合してスーパーアプリ化させ、LINEが持つ膨大なユーザに対して展開していく意図があると言われています。

なぜ今スーパーアプリなのか?

近年になってスマートフォンの普及が進み、いまや私たちの生活を取り巻くあらゆるシーンでスマートフォン・アプリが使われるようになりました。これに伴い、私たちのスマホには数多くのアプリがインストールされるようになりましたが、アプリを提供するブランド側からすると、多くのアプリの中から自社のアプリを立ち上げて利用してもらうことが徐々に難しくなってきています。

インストールしてはみたものの使わずに放置しているアプリがたくさんある、必要な時に必要なアプリがなかなか見つけられない……といった経験は誰にでもあるのではないでしょうか。

私たち利用者にとっても、様々なアプリのインストールや会員登録、利用時のログインといった作業を行うのは、それなりに手間がかかります。ネットショッピングのように決済を前提としたサービスを提供するアプリの場合、住所、氏名などの個人情報やクレジットカード情報の登録といった煩雑な作業も発生します。

スーパーアプリの大きな特徴は、プラットフォームとなるアプリから、連携するミニアプリをシームレスに呼び出せるという点にあるといえるでしょう。つまり、従来のようにいちいちアプリを探して立ち上げる必要はなく、必要なサービスに手軽かつスピーディにアクセスできるようになるのです。

ここで、一つ簡単な例を挙げてみましょう。私たちは、FacebookのようなSNSアプリを立ち上げて友人の投稿を閲覧します。投稿中で紹介されている映画が面白そうだなと思ったら、SafariなどのWebブラウザを立ち上げて情報を収集し、その後にチケット予約サービスのアプリを起動してチケットを取ったりします。

この一連の作業を行うのに、従来であればSNS、Webブラウザ、チケット予約サービスと、3つのアプリを起動する必要がありました。スーパーアプリ構想のもとでこれらのアプリ(サービス)が統合されれば、プラットフォームアプリ上から、あたかも一つの統合されたサービスであるかのように、これらのアプリを呼び出して使えるようになるのです。また、スーパーアプリ全体で決済サービスを統一しておけば、前述のように何度も個人情報やクレジットカード情報を登録する必要もなくなります。

世界各国のスーパーアプリ事例を紹介

さて、日本では2019年末に発表されたヤフー(PayPay)・LINEの経営統合がスーパーアプリ黎明期の幕を開けた感がありますが、グローバルに視野を向けると、既にスーパーアプリの活用があちこちで進みつつあります。

ここでは、各国の代表的なスーパーアプリをいくつかご紹介しておきましょう。

■WeChat(中国)

WeChatは、中国版のLINEともいうべきメッセージングサービスで、中国ではメッセージングアプリのデファクトスタンダードとなっています。

WeChat上から使える小さなアプリは「ミニプログラム」と呼ばれていますが、これは本稿で説明しているミニアプリと同じ位置づけにあると考えてよいでしょう。

WeChatから使えるミニプログラムは、2019年の時点で100万個を超えていると言われています。レストランの予約、タクシーの配車、各種決済サービスなど、様々な機能を持つミニアプリが提供されています。

■AliPay(中国)

AliPayは中国のB2Bトレーディングプラットフォーム「アリババ」が提供するスマホ向けの決済サービスです。AliPayもWeChat同様にスーパーアプリ戦略を進めていて、タクシーの呼び出しや飛行機の予約、医療・保険関連といった様々なミニアプリ(ミニプログラム)が統合されています。

■GoJek(インドネシア)

GoJekはインドネシア・ジャカルタに本社をおくベンチャー企業が提供するアプリです。

もともとは、同国の名物であるバイクタクシーの配車アプリでしたが、現在はライドシェア(相乗り)やバイク便などの物流系サービスをはじめ、映画のチケット購入、ハウスキーパーの手配などを行う様々なミニアプリを統合したスーパーアプリとなっています。

■LINE(日本)

明示的に「スーパーアプリ」という概念を打ち出してはいないものの、LINEもWeChatやAliPayなどと同様、「プラットフォーム上からミニアプリ(ミニプログラム)を呼び出して使う」という構造を既に有しています。LINEアプリ上からLINEウォレット(決済)や送金、クーポン、家計簿といったミニアプリを立ち上げて使ったことのある方も少なくないのではないでしょうか?

なお、冒頭で述べたように、2019年にLINEとヤフーの経営統合が発表され、その中でPayPayをプラットフォームアプリとしたスーパーアプリ構想が発表されました。PayPay側からは、既に2019年11月末にミニアプリ提供開始のニュースリリースが出ています。

この流れの中で、今後、LINEとLINEの既存ミニアプリ群がどのような位置づけとなっていくのかは興味深いところですね。

スーパーアプリの今後に注目!

以上、この記事では、今まさにトレンドとなりつつある「スーパーアプリ」について、概要と事例をご紹介しました。

先駆者が定番アプリをスーパーアプリ化し、自社のアプリでスマホユーザを囲い込んでしまうと、スーパーアプリに乗らない一般のアプリは勝負の土俵にも登れなくなってしまうのではないか……といった危惧を抱く方もあるかもしれません。しかし、そうした中でもなにがしかの棲み分けが行われ、利用者にとってよりよいサービスの形が出来上がっていくのではないかと想像します。

これまでのように自前でアプリを開発してリリースするという流れと、PayPayのようなスーパーアプリベンダーが提供するサービスに乗る形でミニアプリを提供する、という流れ。更に、WeChatやGoJek、PayPayといった母体となるサービスありきで発展するスーパーアプリだけでなく、純粋なスーパーアプリ・プラットフォームとしてのサービスが誕生する可能性もないとは言えません。

ちなみに、スーパーアプリはこれまでのところ、欧米よりもアジア圏での事例が多く見られます。今回ご紹介したWeChatやAliPay、GoJekはいずれもアジア圏で誕生したサービスです。数多くのITイノベーションが欧米から生み出されてきたこれまでの歴史を考えると、これは注目に値する動きだと言えるでしょう。米国のUber社も、GoJekに倣ってスーパーアプリ戦略に乗り出そうとしているといいます。

今後、ますます面白くなりそうなスーパーアプリから目が離せませんね。