多様化する生活者のメディア環境。クリエイターや企業はどう対応するべきか

YouTubeを始めとしたSNSプラットフォームが台頭したことで、個人が自身の作品を広めるチャンスが格段に増えた。誰もがクリエイティブ領域に飛び込むチャンスを持てる今、クリエイターの多様化が進み、あり方そのものが変化してきているようだ。

特に変化が著しいのが動画クリエイターではないだろうか。
2019年10月11日にヤプリが開催した「Yappli Summit2019」の基調講演では、人気動画クリエイターの関根りさ氏とUUUM株式会社取締役市川義典氏が登壇。

生活者のメディア環境の変化、そして、クリエイターや企業がどう変わるべきなのかが語られた。

クリエイター・視聴者ともに多様化が進む

冒頭、市川氏は、動画領域のクリエイターがどのように変化してきているのか、調査データを参照しながら解説した。

これまで、動画プラットフォームではゲーム、美容カテゴリへのニーズが高かった。特にゲーム領域は強く、UUUMの企業タイアップ案件のかなりの割合を専有してきた。

2年前くらいからは非ゲームアプリや玩具、食品・飲料などゲーム以外の企業案件が急増している。

背景には、クリエイター、視聴者双方の多様化がある。

UUUM所属のYouTubeチャンネルは8,000ch以上。ゲーム、美容、料理、ライフスタイル、DIYなど、カテゴリは多岐に渡る。

視聴者が普段視聴するカテゴリも様々だ。
UUUMとインテージは、ユーザー向けに動画クリエイター評価調査を実施。「普段動画プラットフォームで調べることは」という質問に対し、ゲーム、美容、音楽、ダンス、育児など多様な回答が寄せられた。

市川氏

企業タイアップの内容も、クリエイターの個性を重視するために多様化しています。以前の企業タイアップは商品レビューを依頼される場合が多かったのですが、現在はタイアップ用のドラマを制作するなど、従来の枠組みにはまらないクリエイティブが増えていますね。

8年間最前線で活躍し続けるトップクリエイターだからこそ感じる変化とは

市川氏による解説の後、関根氏が登場。2012年から動画投稿を始め、今や登録者数約131万人、総再生回数4.6億回の人気クリエイターとなった関根氏は、クリエイターや、クリエイターを取り巻く環境がどのように変遷していると感じているのか。市川氏が聞き手となり、最前線で活躍するトップクリエイターが実感している変化が披露された。

市川氏

まず、YouTubeを始めたきっかけを教えてください。

私はもともと看護師をやっていたんです。クリニックと家を往復するだけの日々に疲れて、趣味としてなにか始めてみようかなと思ったのがきっかけですね。飽きたらやめようと思っていたのですが、気付いたら8年も続けていました。あくまで趣味として始めたので、仕事にするつもりは全くなかったです。なので、看護師の仕事も去年まで続けていました。

関根氏

市川氏

なぜ、ここまで続けられたのでしょうか。

ファンの方からの応援があったからですね。はじめてファンレターをいただいたときのことは今でもよく覚えているし、リアルのイベントで実際にファンの方とお会いしたとき、感動したんです。私のような一般人でも、応援してくれる人がいるんだなって。それなら、動画投稿、頑張って続けてみようかなと思えたんですよね。

関根氏

市川氏

関根さんはじめ、ファンとの交流を重視するクリエイターは多いですよね。今でこそSNSでファンと繋がるのは当たり前になってきていますが、動画投稿を始めた当初、知らない人たちと交流する怖さはなかったのでしょうか?

あまりなかったですね。自分自身、一般人と認識していたので、ファンと有名人という枠組みではなくて、あくまでいちSNSユーザーとして普通に接していた感覚です。当時は、ここまで規模が大きくなるとは正直思っていませんでしたしね。

関根氏

市川氏

2012年頃と今で、大きく変わったと感じるポイントは?

1つは、女性ユーザーがものすごく増えたところですね。2012年当時、女性でYouTube投稿している人はほとんどいませんでしたが、今は幅広い年代の方が美容、料理、音楽など様々なジャンルで活躍されていますよね。

あとは、美容系の動画でいうと、海外のYouTuberの撮り方をみんな真似していましたね。トークは入れず、かっこいいBGMを流すなど暗黙のルールがあったのですが、今はルールに囚われることなく自由な形式が増えていると思います。

関根氏

市川氏

ちなみに、今はファンと交流する際はどのプラットフォームを使われていますか?

InstagramとTwitterがメインですね。Instagramは一方通行感があるので、綺麗に撮れた写真を披露する場として使っています。
Twitterは双方向性が高いので、ファンの方とカジュアルに交流する場として活用していますね。

関根氏

YouTuberが認知されたことで、企業の依頼内容に変化が

トップクリエイターとして、自身の動画投稿と並行して多数の企業案件もこなしてきた関根氏は、環境の変化に伴い、企業タイアップのあり方も大きく変わってきているという。
ポイントは、企業がクリエイターが持つクリエイティビティを尊重するようになってきた点だ。

市川氏

これまで多くの企業タイアップ案件をこなされてきたと思いますが、タイアップ案件にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。

まず、デメリットはかなり減りましたね。社会的にYouTuberが職業として認められてきたので、タイアップ案件=嘘、ステマという世間的な印象はかなり薄れてきているかなと思います。あとは、企業からの依頼内容もかなり柔軟になってきました。

関根氏

市川氏

以前は、使ったことのない商品のレビュー動画を依頼されることもありましたが、そのような案件は本当に減っていますね。

なかでも、クラシエさんのタイアップ案件が印象的でした。担当者さんが関根さんをしっかり理解されて、かなり自由度の高い状態で動画を制作できましたよね。

クラシエと、UUUMの人気クリエイターである関根りさ氏、東海オンエアがコラボした恋愛ドラマ仕立てのタイアップ動画。200万再生を超える人気動画に。

普通、タイアップ動画なら、7割ぐらいは商品を映して欲しいと思うんです。でも、商品ばかり見せていても視聴者は飽きてしまう。レビュー形式がほとんどだったなかで、ドラマ形式の広告クリエイティブはかなり斬新だったと思います。

関根氏

市川氏

ドラマ形式の他にも、女性向けの除毛クリームを、男性クリエイターの脇脱毛に使ってみるなど、おもしろさ重視の企画も受け入れられましたよね。
動画公開後、紹介した商品がアマゾンで売上ランキング1位になったことも。やはり、企業とクリエイターが協力し、互いの良さを引き出せるようなクリエイティブを制作すれば相乗効果が生まれやすいのかなと思います。

インターネットとテレビの融合が進んだ先にあるのは?

動画プラットフォームの成長は著しく、テレビの影響力に肉薄し始めている。今年2月に電通が発表した「2018年 日本の広告費」によると、2018年のインターネット広告費は前年比116.5%成長の1兆7,589億円、地上波テレビ広告費は前年比98.2%の1兆7,848億円。かなり拮抗してきているようだ。

インターネットがテレビが対等となった今、両者が急速に融合し始めている。YouTubeをメインに活躍する関根氏も、その流れは肌で感じているという。

市川氏

最近、関根さんのコラボ相手の幅がかなり広がっていますよね。

そうですね。先日は、テレビタレントでもあるヴァニラさんとコラボしました。ここ1~2年で、テレビで活躍されている芸能人の方がYouTubeチャンネルを開設する流れが起こっているのもあり、テレビとYouTubeの垣根がなくなってきているんじゃないかと感じていますね。

あと、最近感じるのがライブ配信の強さ。あれって、インターネット上でテレビショッピングやっているようなものですよね。

アパレルブランドがインスタライブを配信するケースが増えているし、私自身すごく見ちゃうしその場で買っちゃうんですよ。ライブでは、スタッフさんが実際に洋服を着てくれるので、着用感がわかりやすい。

私は身長が低いので、同じぐらいの身長のモデルさんが実際に着てくれるのは本当に助かるんですよね。ライブだと、これ着てくださいとか、回ってみてくださいとか言えて、ディティールも確認できる。

関根氏

市川氏

やはり、ライブ配信はヒトとモノが動きやすいんですね。

テレビショッピングを見ていると、なんとなくテンションが上って、その場の勢いで買っちゃうことがありますよね。ライブ配信もまさしく同じ仕組みだと感じています。

関根氏

市川氏

では最後の質問を。関根さんが今後チャレンジしたいのはどのような領域でしょうか?

自分の化粧品ブランドを作りたいなと思っています。大量の化粧品を試している私だからこそ作れるものがあると思っていて。ファンの方たちとの距離も近いから、皆さんの声を拾いやすいし、この環境を活かした商品開発ができたらいいですね。

関根氏

まとめ

デジタルメディアの浸透により、生活者、クリエイター、企業の距離が縮まっている。これから広告主となる企業は、どんなコミュニケーションをプランすべきか。
クリエイターを理解し、彼らの個性を活かした広告クリエイティブの制作もコミュニケーション手法の重要な打ち手になるだろう。

「ただ商品を紹介するだけでは飽きられてしまう」――ファンとのコミュニケーションを重視し、何が求められているのかを深く理解している関根氏のこの言葉は、特に広告主サイドはしっかり受け止めるべきだろう。