百貨店のアプリマーケティング事例に見る三越伊勢丹と高島屋の戦略の違い

不況とも言われる百貨店業界で、新たな販売戦略のひとつとしてECなどオムニチャネルに取り組むところが出てきている。特にアプリを使って積極的に取り組んでいる百貨店が、三越伊勢丹と高島屋だ。

それぞれの事例を詳しく見ると、同じ百貨店でも大きくアプリの機能や方向性が違うことがわかる。小売やECに関わる人にとっては、競合他社とどう戦略を変えていくべきか悩む人も多いのではないだろうか。三越伊勢丹と高島屋、それぞれのアプリマーケティング戦略の違いをチェックすると参考になる点も多いかもしれない。

・接客サービスにアプリを活用する、三越伊勢丹のアプリマーケティング戦略

店舗の接客サービスにアプリを活用し、オムニチャネル戦略を進めているのが三越伊勢丹。ここでは、店舗接客サービスをアプリで予約できるというサービスを20189月に発表した。このサービスではアプリから読み取った顧客データを売場で共有。ユーザーの好みにあわせた接客が可能になると言う。

また百貨店としては珍しく、三越伊勢丹はシェアリングサービスにも参入。このシェアリングサービスでも、アプリ活用が目立つ。シェアリングサービスの場合、ユーザーが店頭でレンタルしたい商品のQRコードをアプリでスキャンすると、レンタルやお気に入り登録ができる。さらにアプリのチャット機能により、スタイリングの相談も可能だと言う。

こうしたアプリ活用を見ると、三越伊勢丹ではアプリで販売に直結させるというより、アプリを使って「接客のクオリティを向上する」という明確な目標があることがうかがえる。

・イベント連動アプリで来店促進につなげる高島屋のアプリマーケティング戦略

一方、同じ百貨店でも高島屋はアプリマーケティングの方向性が大きく異なる。高島屋では、イベントなどに連動したアプリを多く提供しているのが特徴だ。2018年には高崎店において周辺商業施設と合同のハロウィンスタンプラリーを実施し、アプリも使っている。京都店でも京都市とコラボレーションした健康イベントを開催。アプリで参加できるようにした。

高島屋の公式アプリでも2017年のリニューアルでイベントカレンダー機能を搭載。イベントを重視していることがわかる。アプリをきっかけにイベントに参加してもらう、つまりアプリで来店促進を狙っているという戦略がうかがえる。

・アプリマーケティングには全体的な戦略が不可欠

ともに老舗百貨店としてのブランドがあり、ライバル関係とも言われる三越伊勢丹と高島屋。アプリマーケティングを見ると、戦略の違いがはっきり出ている。

三越伊勢丹の接客クオリティ向上を重視するスタンスは、主に富裕層をターゲットと捉え「接客力の向上で客単価を上げる」という狙いがありそうだ。しかし高島屋はより幅広い客層の顧客を広げることを重視。さまざまなイベントを通じて「アプリを使って集客につなげる」という狙いが感じられる。

つまりこの事例を見ると競合に追随するのではなく、自社のターゲットや戦略にあわせたアプリ活用が重要であることがよくわかる。

アプリの豊富な機能を搭載できるという点は、大きなメリットだ。とはいえ、あまりに機能を盛り込みすぎてしまうということもありがちだ。機能が多すぎると百貨店など実店舗を展開している場合、店頭のオペレーションが複雑になってしまうなどの問題もある。

三越伊勢丹と高島屋の事例を見ると、全体戦略や競合との差別化も踏まえつつ「アプリの機能や方向性を絞る」ということがアプリマーケティングで重要なポイントと言えそうだ。