実店舗もECも関係ない!アプリの成功には「シームレスな購買体験」が必要だ

「シームレスな購買体験」とはなにか?

オムニチャネルの進化にともない、昨今では「シームレスな購買体験の提供」という言葉が頻繁に議論されるようになってきた。

「シームレス(seamless)」という言葉は、英語の「縫い目がない」という意味に由来する。デジタルマーケティングの世界においては、リアル、Web、デバイスの分け隔てをなくし、スムーズな購買体験が行えるということを指す。

実はこの「シームレスな購買体験」の重要性は、数年前から積極的に議論されていたテーマだ。2013年4月のアクセンチュアによる小売業界の調査では、「49%の消費者が、リアル店舗、オンライン、そしてモバイルといった複数のショッピングチャネルを統合した店での購入を求めている」と発表している。同調査では、リアル店舗での「ウィンドウショッピング」だけでなく、Webで商品を閲覧して購入を検討する「ウェブルーミング」を行うという人も、88%におよぶという。

また、同年のZendeskの調査では、64%の消費者が、「ショッピングチャネルの隔たりなく、リアルタイムなカスタマーサービスを受けたい」と答えている。

このように、数年前から話題となってきた「購買体験のシームレス化」だが、スマートフォンの普及などにともない、昨今の日本のリテール業界でも非常に高い関心を集めている。

例えば、三井ショッピングパークが今年11月に立ち上げたECモール「&mall」では、アプリ、Web、実店舗の連携を強化し、実店舗でもECでも同様の購買体験ができる仕組みづくりに取り組んでいる。これまで三井ショッピングパークに出店していたファッションブランドなどの店舗では、カラー・サイズなどの欠品による機会損失に対する課題があった。しかし、「&mall」では、ECと実店舗の在庫連携システムを構築し、店頭のタブレット端末からECにアクセスして、欠品商品を注文することができるようになった。

このように、あらゆるチャネルで同じようなショッピング体験を提供することで、「商品を見ることができる」実店舗の良さと、「在庫を気にせず購入できる」ECの良さの両面を生かすことができる。

実例で見る、シームレス化に貢献しているアプリ3選

では、「購買体験のシームレス化」に貢献するアプリとは、どのような特徴があるだろうか。共通しているのは、「実店舗との連携」「最新情報の提供」そして、「購買体験の向上」という3つの機能が備わっている点だ。

ユニクロ
(画像は編集部によるキャプチャ)

まずは、ファッション業界のアプリ代表として、ユニクロのアプリを見てみよう。本アプリの主な機能は下記の通り。

・オンラインストア
・Webチラシ
・ニュース配信
・スタイルディクショナリ
・店舗検索
・商品バーコードスキャン
・UNIQLO LIFE TOOLS

非常に充実した内容のアプリだが、特徴となるのは「Webとリアルの融合」だ。本アプリでは、まず基本機能としてのEC利用だけでなく、GPSから近くにある店舗を検索することができる。そして、ユーザーは「商品バーコードスキャン」をすることで、その場でECで該当商品の情報を閲覧することができる。店舗で希望する商品のカラー&サイズがない場合にその場で注文ができるのはもちろん、その商品のレビューを閲覧することができる。もちろん、アプリ専用のクーポンやキャンペーン情報も配信されるなど、ECと連動しながら店頭での購入体験を向上させる機能が充実している。

ドミノ・ピザ
(画像は編集部によるキャプチャ)

ドミノ・ピザのアプリ導入の成功例は、日本だけでなく海外でもよく知られている。ドミノ・ピザは、業界でもっとも早くアプリ内でのクレジットカード決済を採用した企業とも言われ、最小限のクリックで注文ができるアプリを構築し、宅配ピザ業界のシェアを拡大した。インドのドミノ・ピザでは、2017年第一四半期のオンライン注文は44%となっており、そのうち69%の注文がモバイル注文だったと発表している。

一方、日本では2013年の時点ですでに、すべての注文のうち約50%がオンライン注文となったとの発表が出されている。

では、食品業界に風穴を開けた、ドミノ・ピザのアプリの特徴を見てみよう。主な機能は下記の通りだ。

・ピザの注文(デリバリー&テイクアウト)
・店舗検索
・クーポン配布
・商品情報
・ピザトラッカー

ドミノ・ピザでは、事前登録をしておくことでオンライン注文できるため、電話での注文が障壁となっていたユーザーにも、手軽にサービスを利用してもらうことができる。さらに、マイページではアレルギー表示の設定機能もあるなど、自分に合った仕様に変更することができる。決済ではクレジットカードの登録が可能で、利用者は玄関先でピザを受け取り、すぐに食卓に運ぶことができる。

また、自分の注文したピザが届くまであとどれくらいかかるかなどを通知する「ピザトラッカー」機能が付いている。注文の進捗がわかるほか、ゲーム機能も付いており、配達を待つというストレスを軽減することに一役買っている。

スターバックス
(画像は編集部によるキャプチャ)

スターバックスは、ドミノ・ピザと同じく飲食物を取り扱っているが、決済方法などで構造に違いがある。スターバックスはアメリカではデリバリーも行っているが、主に利用者が商品を店頭に取りに来ることをメインとしたビジネスモデルであり、その違いがアプリの機能にも反映されている。

スターバックスが提供するアプリの主な機能は、下記の通り。

・ニュース配信
・商品情報
・eTicketの配信
・スターバックスカードでの支払い
・店舗検索
・ギフトカードの購入・友人へのプレゼント

シームレス化という観点では、「スターバックスカード」の存在に注目したい。スターバックスカードは、アプリ内課金を活用したプリペイド式の電子決済。公式アプリに入金した金額分を使って、店頭での会計に利用することができる。支払いはアプリに表示されたバーコードで簡潔に行うことが可能で、入金情報はリアルタイムであらゆるチャネルでも確認することができる。

また、本アプリでも地図と連動した機能も見逃せない。店舗検索では、アプリ上で指定した店舗の営業時間を確認できるだけでなく、現在地からのルートが表示される。さらに、店舗画面に表示された「Check in」ボタンを押すことで、TwitterやFacebookでのCheck in投稿もシームレスに行うことができる。購入だけでなく、自社サービスをどのようにして楽しんでもらうかまでが計算された機能の一例と言える。

リアルとWebをつなげる、アプリの共通点

Signal社は、2016年6月の記事で「シームレス化」には下記の要素が必要だと論じている。

・ユーザー行動のデータ化&最適化
・各チャネルのデザイン&ブランディングの統一
・リアルタイム化
・パーソナライズ化
・デバイス最適化

今回取り上げたアプリも、リアルタイムに情報を更新しながら、オンライン/オフラインだけでなく、ブラウザやアプリなどのあらゆるチャネルで、ユーザーが手軽にサービスを利用できる構成となっている。

2016年の総務省の調査では、スマートフォンの利用率は72.0%となっており、PCの76.8%に迫っている。

スマートフォンのユーザーは、自宅でも外出中でも、スマートフォンを活用することで「シームレスな情報収集」を行うことが日常的になってきている。こうしたユーザーのライフスタイルにいち早く対応し、アプリ、Web、実店舗のシステムを構築できるかが、今後勝ち残っていく企業のあるべき姿だと言えるだろう。

参照:
https://newsroom.accenture.com/industries/retail/accenture-study-shows-us-consumers-want-a-seamless-shopping-experience-across-store-online-and-mobile-that-many-retailers-are-struggling-to-deliver.htm
http://d16cvnquvjw7pr.cloudfront.net/resources/whitepapers/Omnichannel-Customer-Service-Gap.pdf
https://mitsui-shopping-park.com/ec/
http://www.uniqlo.com/jp/app/
https://pizza.dominos.jp/ja/dominos-app
https://www.fool.com/investing/2017/07/31/dominos-success-shows-that-convenience-really-matt.aspx
https://www.medianama.com/2017/08/223-jubilant-foodworks-dominos-earnings-june-2017/
http://www.starbucks.co.jp/mobile-app/step/
https://www.signal.co/blog/seamless-customer-experience/
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h28/html/nc252110.html