ヤプリ エグゼクティブ・スペシャリストの伴です。
今回は6月3〜5日にスペインのバルセロナで開催されたSHOPTALK Europeのリポートをお届けします。
SHOPTALKでは色々なテーマにそってトークが繰り広げられますが、
その中の一つ『次世代型需要創出(next-generation demand creation)』について書きます。
印象的なのは、デジタルマーケティングの要だった「検索」を回避していく議論でした。
カスタマージャーニーにおいて「検索」は利便性が高く重要なポイントです。
しかしブランドにとってはカスタマージャーニーに「検索」が挟まれる事により「比較」や「検討」が発生し、競合商品や代替え商品へスイッチする可能性が発生しています。
一方でショッパブルメディアやAIによって、商品やサービスの発見から成約までを直接つなぐ事が可能となってきました。「Visual contents is King」(ビジュアルコンテンツが最強である)という言葉が議論の中でも飛び交っていた様に、動画や画像での発見からそのまま購入する理由や仕組みの導入と戦略的活用が進んでいます。
そしてこの取り組みにはプロダクトとデジタルマーケティングの両輪が必要となってきます。
プロダクトとしては、期間や数量限定の商品やコラボ商品などによる『FOMO(見逃すことの恐怖”Fear of Missing Out”』の創出で、デジタルマーケティングとしてショッパブルメディアやインフルエンサーコンテンツが必要です。
これらを戦略的に活用した老舗水筒メーカーのスタンレーは、2019年から23年の4年間で売上を7000万ドル(約112億円)から7億5000万ドル(約1200億円)に成長させています。
スタンレーは従来のターゲットだったアウトドアや労働者ではなく、若い女性や主婦に注目しパステルカラーの水筒やコラボ商品などをSNSのコンテンツと合わせて展開しました。
そしてランニング、ヨガ&ジムなどのワークアウト、職場でのコーヒー、マッサージやスパなど、水筒が使用できるあらゆるシーンに合わせて様々なモデルやカラーを展開することで「水分補給の水筒」を女性にとっての「ライフスタイルアクセサリー」へと昇華させたのです。
この結果、多くのユーザーが複数のカラーやサイズを保有し様々なシーンやファッションで使い分けている。またオークションサイト「eBay(イーベイ)では定価の10倍以上で取引される商品も出るなど、コラボや限定商品の価値も高まっているのです。
ブランドは、いまや「“地球上にいるクリエイターたち“と協力しなければならなくなった」とスタンレーのマルティンス氏は述べています。
その際に必要となるのは、ブランドが「本物である」と認めてもらうことだ。ブランドと一緒に育ってこなかった世代に対しても「本物である」と理解されることが重要です。
スタンレーがSNSを通じて多くのユーザーとコミュニケーションを取っていたからこそ、奇跡的な投稿が生まれました。
一人の女性が実際に起きた車事故の直後に炎上し黒焦げになった車内からスタンレーのカップを引き上げ横に振るとカラカラと氷の音がするという動画です。
https://www.tiktok.com/@danimarielettering/video/7301724587488759070
このスタンレーの耐久性と保冷性を証明した「本物」の投稿は瞬く間に広がり、現時点で4億7千万回の再生となっています。
なお、後日スタンレーは投稿した女性に新しい車をプレゼントしたそうです。
SNSを通じたビジュアルコンテンツが注目を浴び、ブランディングの仕方そのものの変化も必要となっている、広告でブランドや商品の認知を広く取って、検索や小売の棚で選ばれるのを待っているだけでは駄目なのです。
「次世代型需要創出」をしていく事がこれからますます重要となっていくでしょう。