企業のマーケティングに携わる方々の多くが特に最近、注目を集めているのが「ファンづくり」、「ファンマーケティング」というキーワード。人々のライフスタイルが多様化し、従来からのマスマーケティング的な手法では狙った効果がいまいち出にくくなっている中で、新規顧客を獲得すること以上に、既存顧客に目を向け、顧客一人ひとりのLTV(Life Time Value)を高めた方が効果が出やすいということで関心が寄せられています。
この背景にはコロナの影響も大いにあり、外出が制限されていた頃は特に、実店舗を持つブランドなど、“リアルな場”を主な顧客接点としていた企業にとって、新規顧客を獲得することは非常に難しくなりました。これは付け焼き刃的な施策でどうにかできる話ではなく、顧客とのコミュニケーションのあり方や、商品やサービスの訴求方法そのものを根本的に見直さなければならないレベル。今回ご紹介するサンリオピューロランドも例外ではなく、2020年2月22日からおよそ5ヶ月にもわたり、臨時休館を余儀なくされるほどの大打撃を受けました。
しかしサンリオピューロランドは、臨時休館の最中でコミュニケーションのあり方そのものを見直し、これまで以上に顧客に愛され続けてもらえるようなものへと進化させることに成功。未だにコロナショックによる影響から立ち直れない企業も少なくないにもかかわらず、その勢いはとどまることを知りません。
このセミナーレポートでは、そんなサンリオピューロランドのデジタル&リアルコミュニケーションの全貌を明らかに!コロナ禍を境目に自社のマーケティング施策のあり方やチャネルの活用法などに悩む方は必見です。記事の最後では、セミナー本編を聞いてヤプリスタッフが抱いた質問に対して志賀さんにお答えいただいたアフタートークも公開していますので、セミナーをご視聴いただいた方もぜひご覧になってみてください。
この記事は、本メディアを運営する株式会社ヤプリが2022年12月2日に実施したオンラインセミナー「サンリオピューロランドから学ぶ、お客さまに愛され続けるためのデジタル&リアルコミュニケーション」の内容を元に構成・執筆しています。
<GUEST PROFILE>
志賀 優子 氏 株式会社サンリオ グローバル・デジタル・マーケティング本部 データサイエンス部 ゼネラルマネージャー
デザインプロダクションでディレクター経験を積み、2007年にWebインテグレーターの会社に転職。企業のデジタルプランニング、ディレクションに従事。16年からサンリオエンターテイメントのマーケティング課において広報マーケティング、プロモーショングループを統括。18年4月からサンリオのマーケティング本部に転籍し、兼務でピューロランドのマーケティングを担当している。
目次
コロナで休館中の間に、マーケティングの原点に立ち返った
−志賀さん「最初は1ヶ月くらいかなと思っていたのですが、結果的に5ヶ月も続いてしまって、どうしようかなという感じでした」。
志賀さんにはまず最初に、コロナの影響で2020年の2月に臨時休館を余儀なくされた時のことを振り返っていただきました。
−志賀さん「この頃は特に世の中の関心事もコロナ一色で、私もそうですし世界中の誰もが戸惑っていました。テレビのニュースやSNSでシェアされる情報も何が正しいのかわからず、政府などの発言や取り決めも目まぐるしく変わっていく中で、サンリオピューロランドの運営スタッフたちはかなり大変だったと思います。しかし、ある時にふと気づいたことがあって、今は世の中の人々のほとんどが同じ気持ちなんじゃないかなと思ったんです。気軽に外へ出れない、ドラマや映画も新作の制作が滞り、過去の総集編のようなものしか見れない、という状況なので、誰しもが不安や悲しみ、イライラを募らせているのではないかと。これだけ人々の価値観やライフスタイルが多様化しているにもかかわらず、同じタイミングで多くの人々が同じ気持ちを抱いているのは非常に珍しいのではないかと思い、その気づきをきっかけに、改めてピューロランドのお客さまたちのインサイトについて見つめ直そうとなったんです」。
インサイトを見つめ直し、それに合わせたコミュニケーションのあり方も必要に応じて変えていこうとなったところ、これまでのコミュニケーションは販促的なニュアンスがやや強過ぎていたことに気づいたのだとか。
−志賀さん「これまでのコミュニケーションは“売らんかな精神”が強かったと思い至りまして、ここで一度、マーケティングの原点に立ち返ろうとなったんです。つまり、お客さまの気持ちをベースに、その先にあるニーズなどに応えようということで、そのための準備をしていきました。サンリオピューロランドはそもそも、“みんな仲良く” 、“思いやり”を体現できるテーマパークとして、ショーやパレードを上演したり、サンリオキャラクターとのふれあいを大切にしていました。そんなサンリオピューロランドが、多くの人々が不安や悲しみを抱いている中でできることは何だろうと悩んだ末に、サンリオキャラクターたちの姿やメッセージを通じて、安らぎや癒し、楽しい気持ちをご提供できるのではと思ったのです」。
マーケティングのあり方を見直してから約1週間後というスピード感で、具体的な施策に向けて動き始めました。施策を考えるにあたってまず行ったのは、SNSを通じてサンリオピューロランドに対するお客さまの声をキャッチアップすること。そこで例えば、「休館中でもパレードを観たい」という声が多かったので、ライブ配信サービスを使って無観客でパレードを上演したり、「サンリオピューロランドのグッズをオンラインで販売すればぜひ買いたい」という声もあったので、ECサイトを開設するなど、できることから一つずつ取り組んでいったのだそうです。
お客さまが求めていることをベースに、リアル&デジタル体験を強化
その後、ようやくサンリオピューロランドが再開するにあたって、お客さまのインサイトに基づいて取り組んだことは、コロナによって変わった入場時のルールを分かりやすく、そして親しみやすく伝えることでした。
−志賀さん「入場時はマスク着用をお願いしていることや、検温を実施していることなどをお伝えしなければならなかったのですが、例えばサンリオピューロランドの運営スタッフなどが出てきて普通にアナウンスするのはちょっとこわいと言うか、お客さまからすると圧を感じてしまうと思ったんです。そこで、キャラクターにアナウンスしてもらうことにしました。そうすることによってお客さまとより同じ目線に立ち、私たちも一緒だよというメッセージも込められるかなと」。
このように、一つひとつのコミュニケーションをお客さま目線に立ってつくりつつ、コロナをきっかけに人々のライフスタイルもよりデジタルシフトしてきた世の中の流れも踏まえ、アトラクションの整理券をこれまでは紙だったものを電子化するなど、リアルとデジタルを融合することで顧客体験価値を高める取り組みも進めています。
−志賀さん「これまでサンリオピューロランドとしては“リアルでの体験価値”というものを重視してきましたが、コロナ禍により人々のライフスタイルや価値が変わった結果、リアルでの体験価値はこれまで以上に貴重なものになったように思います。先日、サンリオピューロランドやサンリオキャラクターに対する市場調査や満足度調査を実施したのですが、その結果、お客さまたちは主に“癒し”や“非日常”を求めていらっしゃることがわかったんです。このあたりの価値をご提供することは私たちもずっと意識していたところだったのですが、癒しと非日常を求めていらっしゃることはデータとしてもかなり如実に浮かび出てきたので、改めてこの価値づくりをより意識してコミュニケーションを設計すべきだなと思いました」。
サンリオピューロランドに限らず、人々がテーマパークを利用する頻度はおよそ年に1〜2回程度と決して多くはありません。マーケティングやセールス視点で言えば、できるだけこの頻度を増やしていきたいところ。ですが、志賀さんとしては、頻度を増やすことは現実的には難しい部分があるため、その1〜2回の体験をいかに充実させられるか、つまり客単価を上げていくことを意識しているのだそうです。お客さまの1回1回の体験をより良いものにするためにも、お客さまのインサイトに向き合い、求めているものをしっかり理解することが大切だということですね。
積極的に新しい施策にトライするサンリオピューロランドにとっての、SNSやアプリの価値
サンリオピューロランドは、YoutubeやSNSを使った施策を積極的に行ったり、30周年のタイミングでクラウドファンディングを実施するなど、デジタルを駆使した新しい取り組みに次々とトライしていることも大きな特徴。2021年にはVR空間上にアバターとしてログインし、アバター同士でコミュニケーションできたり、VR空間上で実施されるイベントなどを楽しめるソーシャルプラットフォーム「VRChat」の中で“バーチャルサンリオピューロランド”を期間限定でオープンしました。
また、リアルのサンリオピューロランドとバーチャルサンリオピューロランドにて、同タイミングでショーを開催し、それぞれの内容をリンクさせる“Nakayoku Connect”を実施し、バーチャルサンリオピューロランドには数万人規模の来場を記録したのだとか。
−志賀さん「バーチャルサンリオピューロランドの構想自体はコロナよりも前からあったのですが、コロナによってプロジェクトの進行がグッと進みました。新しいことに次々とチャレンジしている理由は、やはり私たちはエンターテイメントを提供する会社なので、新しい体験や新しい価値を生み出すことが大切だと思っているからです。社内でもチャレンジしやすい文化は醸成されており、“小さく始めて大きくしていこう”は多くの社員の口ぐせになっているかもしれません」。
最初から大量のリソースを割くのではなく、まずはできるところから取り組む姿勢があるからこそ、多くのトライ&エラーができ、結果としてファンを生み出す魅力的なアウトプットを数多く世の中に発表できていると志賀さんは言います。そして、その様々なアウトプットを、それぞれのSNSの特性や、利用する人々のインサイトに合わせて細かく丁寧につくり分けており、それがファン増加に繋がっています。
−志賀さん「TwitterとInstagramでは文化もノリも異なるので、発信するコンテンツやコミュニケーションのスタイルは変えています。Twitterだとおもしろ系と言いますか、例えばサンリオのキャラクターがサンリオピューロランドの休館日に館内で遊んでいる様子をお届けするコンテンツ、“#おあそびピューロ”が人気だったりします。一方で、Instagramではビジュアル要素が強いので、ターゲットを女性に絞り切って、サンリオピューロランドの世界観をお伝えするような発信を重視しています。このように、各プラットフォームでサンリオピューロランドへの興味関心を持っていただける方を増やし、来館へと繋げられればと思っています」。
−志賀さん「ファンづくりという観点では、SNSによる施策に加えて、スマートフォンアプリの存在も重要だと思っています。コロナの影響もあってサンリオピューロランドへお越しいただく際は来場予約が必須となり、そのために会員登録をしていただくことが必要になりました。そういった背景から、これまで以上にアプリを使っていただく機会が増えるがゆえに、より一層使いやすいアプリにするため2020年11月にヤプリさんの力をお借りしてリニューアルを実施。以前よりも予約やスケジュール確認がしやすくなり、お客さまがアプリを開く頻度やアプリ内での滞在時間が増加しました。今後強化していきたいのが、アプリならではのコミュニケーション。例えば、アプリをダウンロードしていただいた方に会員登録を促す際に、好きなキャラクターをお聞きする項目がありまして。もしマイメロディが好きな方には、マイメロディの新しいグッズ情報をプッシュ通知でお伝えするようなことは以前実施し、反応も上々でした。ただ、そればかりだとちょっと販売促進的なニュアンスが強すぎるので、今後はコンテンツの幅を広げ、アプリで常時ファンと繋がれる状態にしたいと思っています」。
セミナー中にいただいた質問とその答え
ここからは、セミナー時に視聴者の方々からいただいた質問と志賀さんの回答をご紹介します。
Q.SNSやアプリは何人で運営しているのですか?
A.SNS担当が2.5名、アプリ担当が1名で運営しています。2.5名というのは実質3名なのですが、うち1名はSNS広告を主に担当しており、たまにSNSそのものの運営も手伝っています。SNS担当もアプリ担当も専任ではなく、公式ホームページなどのWeb周りも担当しており、決して大人数なチームでやっているわけではありません。なお、LINEの運用は外部の協力会社さんの力もお借りしています。
Q.SNS運営をしたいもののリソースが足らず、どううまく運営しているのですか?
A.先ほどお伝えしたように、大人数で運営しているわけではないのですが、その分早く意思決定ができ、動画などの撮影もフットワーク軽くできるのはあると思います。担当者は元々TwitterやInstagramに対する知見があり、かつ、サンリオピューロランドのターゲット層ともかぶっているので、基本的に担当者の裁量に任せています。
Q.小さく始めて大きくするという考え方が社内で浸透しているとのことですが、始める際には具体的にどういった点を意識しているのですか?
A.金額と社内体制、及び関わるメンバーがどのくらいの時間をかけるのかというところですね。社内体制に関して、最初はもう私とサポートメンバー1名の計2名でやりますと言うこともあります。小さく始めてから大きくしていくためには、当然ですが無理なく長く運営できなくてはなりません。その点で意識しているのは、なるべく属人化しないこと。特定の人物しかできない、わからないということになると、その人の負担が増えてしまうので、ある作業に対してメンバー一人だけでなく、サポートメンバーもつけるなど、プロジェクトに関わるメンバーならある程度誰でもできるようなマネージメントをすることが大切かなと思います。
さらにここからは、セミナー終了後にヤプリスタッフが聞いてみた質問と、それに対する志賀さんの回答をご紹介します。
Q.コロナ以前のコミュニケーションは“売らんかな精神”が強く、マーケティングの原点に立ち返ろうとなったとのことですが、会社としてそう決断することはとてもハードなことだったと思います。なぜその決断を出来たのですか?
A.サンリオピューロランドを臨時休館し、結局再開まで5ヶ月もかかってしまい、その期間で本来得られたはずの売り上げをカバーするのはまず無理だろうと。また、再開したとはいえ、またいつ休館せざるを得なくなるかもわからない不安定な状況下で、従来のようにただサンリオピューロランドにきてくださいと言ってもなかなかこれないよねという話は社内でよく展開されていました。なのでもう、しばらくは耐える期間だと腹をくくり、いつかまた気軽に来館していただけるようになるまでできることを続けていこうとなり、次第に原点に立ち返っていった感じですね。もし仮に臨時休館の期間がもっと短かったら、ここまでの深い議論は社内で生まれていなかったかもしれないと思うと、もちろんコロナ禍そのものはネガティブな出来事ですが、捉え方も様々なのかなとも思いますね。
Q.サンリオピューロランドさんのように、SNSで多種多様なコンテンツを発信したいと思いつつ、企業やブランドのブランドイメージにそぐわないと社内で反対意見が出て、結局無難なものしか発信出来ないというケースも少なくないと思います。なぜサンリオピューロランドさんは柔軟な姿勢でコンテンツづくりができているのですか?
A.実は私たちも、最初からプラットフォームごとにコンテンツをつくり分けてはいなかったんです。ただ、それでは思ったような効果がなかなか出ず、外部のパートナーさんに相談をして、他社さんの成功事例などを教えていただいたおかげで、現在のスタイルに発展させることが出来ました。特にSNSは運営もコンテンツづくりもなるべく内製しようとする企業も多いかもしれませんが、第三者からの意見をいただく機会をつくることも有効だと思います。
Q.もし社内のメンバーから、志賀さんの理解を超えるような企画があがってきたらどうしますか?
A.ものすごく発想が独創的なメンバーもいるので、最初は何言ってるのか全然わからないということもよくあります(笑)。ですが、それを否定するのではなく、そのアイデアの面白い部分をどうすれば伝わりやすくなるのかを翻訳するような考え方をすることが多いかもしれません。私たちはエンターテイメントをお届けする企業と言うこともあるので、出来るだけコンテンツの幅は広げて、お客さまを飽きさせることなく、楽しみ続けていただきたいと思っています。
セミナーを終えて:ファンマーケティングで重要なことは
コロナによって売り上げが大幅に落ちてしまい、その売り上げをカバーするために、より販売促進の色合いが強い施策を打ち出す企業も多い中で、マーケティングの原点に立ち返り、お客さまの気持ちに寄り添った施策づくりを強化することができたサンリオピューロランド。冒頭で触れたように、「ファンマーケティング」というトピックが近年は頻繁に取り上げられていますが、ともすると手法論としての話に終始してしまいがち。しかし、志賀さんのお話をお聞きすると、ファンマーケティングにおいて重要なのはまさにこのマーケティングの原点の部分である、お客さまの気持ちを深く理解しようとする姿勢なのかもしれないと思いました。
また、ファンとのコミュニケーションを活性化するためにアプリを活用していることも印象的で、SNSやオーガニック検索などで訪れた方々に対し、アプリでよりコアなファンになっていただく考え方は業界問わず参考に出来るのではないでしょうか。
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