【MMU2019レポート】OWNDAYS田中氏とハヤカワ五味氏が語る、新時代のブランドコミュニケーション

モノ消費からコト消費へ―。マーケティングに携わる方なら一度は聞いたことがあるはずだ。
モノ消費は「モノを所有することに価値を置く消費行動」を、コト消費は「体験そのものに価値を置く消費行動」を意味する。
近年、ミレニアル世代を中心に「コト消費」に魅力を感じる消費者が増えている。

あらゆる市場が成熟し、多くの商品がコモディティ化した今、消費者はモノそのものではなく、モノを購入することでどのような体験を得られるのかを重視している。

コモディティ化した市場でモノではなくコトでアプローチする際、鍵となるのが「ブランド」だ。
ブランドを形成し、成功している事例として、例えばAppleが挙げられる。いわゆる「Apple信者」は、製品そのものよりも、Appleというブランドに対する信仰心が強い。
Appleの価値観を肯定し、共有する関係性が構築されているわけだ。

体験を重視する時代、企業はどのようにブランドを形成し、消費者とどう接していけばいいのか。

2019年4月12日、Yappli主催の「Mobile Marketing Update 2019」で、OWNDAYS代表の田中修治氏とウツワ代表のハヤカワ五味氏による「企業ブランドと顧客エンゲージメントのつくり方」をテーマにしたトークセッションが行われた。

今回は、両者がセッション内で語った「新時代のブランドコミュニケーション」を紹介する。

田中修治氏 プロフィール

株式会社OWNDAYS 代表取締役社長
10代の頃から起業家として活動。2008年に巨額の債務超過に陥り破綻していたメガネの製造販売を手がける株式会社OWNDAYSに対して、個人で52%の第三者割当増資引き受け同社の筆頭株主となり、同時に代表取締役社長に就任。2013年にはOWNDAYSシンガポール法人、2014年にはOWNDAYS台湾法人を設立し、同社代表取締役社長に就任。現在、12か国300店舗展開し、独自の経営手法により、事業拡大と成長を続けている。

ハヤカワ五味氏 プロフィール

株式会社ウツワ 代表取締役社長
1995生まれ東京出身、多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。課題解決型アパレルブランドを運営する株式会社ウツワ代表取締役社長。 高校1年生の頃からアクセサリー類の製作を始め、プリントタイツ類のデザイン、販売を受験の傍ら行う。大学入学直後にワンピースブランド《GOMI HAYAKAWA》、2014年8月には妹ブランドにあたるランジェリーブランド《feast》2017年10月にはワンピースブランド《ダブルチャカ》を立ち上げ、Eコマースを主として販売を続ける。複数回に渡るポップアップショップの後、2018年にはラフォーレ原宿に常設直営店舗《LAVISHOP》を出店。

ブランドは、企業側でコントロールするものではない

そもそもブランドとは何なのか。ハヤカワ氏は、時代背景を踏まえたうえで「ブランドは顧客にものの見方や価値観を提供する存在」だと語る。

ハヤカワ氏


情報量が多い今は、どのような視点で、どう評価をすればいいのかがわかりづらい。明確な判断基準が持てなくなってきていると思うんです。
その状況のなかで、購買体験を通じて顧客にものの見方を提供するのがブランドの機能なのかなと。

私自身、顧客にどのような価値観を提供したいのかを常に意識しています。

価値観が多様化した今、何を良いと感じるかは自由だ。一方で、自分の考えに自信が持てず迷ってしまう消費者も多い。彼らに対し、商品やサービスを通じて1つの価値観を提供するのがブランドの機能だということだ。
ただ、決して価値観の押しつけはしてはいけない。

ハヤカワ氏


今の時代は、消費者がブランドに意味付けするのが主流。そもそも、人って押し付けられるのが苦手ですよね。
企業は価値観を提供しますが、あくまで解釈するのはお客様だという前提を忘れてはいけません。

田中氏も、「発信した情報をどう受け取るかはコントロールできない」としたうえで、どのような受け止められ方をしても、最終的にブランドのコアバリューを感じてくれればいいと語る。


1つの事象は見る角度によって全く変わる。見る人によっていろんな見られ方をされるのを織り込んだうえでブランド設計していくべきです。
当社の場合は”安心”を主軸にしています。どんな見方をされても、最終的に安心につながればいいと思っています。

例えば、お客様にOWNDAYSの何が良いのかと聞いた時、「値段が安い」と言われたとします。それは、品質の良い眼鏡を安価で買える安心感が根底にあると解釈できます。
別のお客様から”おしゃれ”と評価されたら、OWNDAYSのメガネをかけていればダサくなることはないという安心につながっていると解釈できます。

田中氏

ブランド価値である「安心」は顧客だけでなく従業員にも感じてもらいたいという。


組織としての安心も重視しています。当社の従業員が、友人からOWNDAYSってどんな企業なのかと聞かれた時に、”給料が高い”と答えたとします。それは単純に給料が高いというより、しっかり報酬をもらえる仕組みがあるから安心して働けているという考えが根底にあるのかなと。

なので、全ての戦略は「どうすれば安心につながるのか」を考えて設計しています。

田中氏

人は欲しいものを言語化できているとは限らない


消費者とコミュニケーションするうえで、ハヤカワ氏は「言語化されていないニーズ」を汲み取ることが、これからの時代、より重要になると語った。

ハヤカワ氏


消費者が自覚できているニーズ、つまり言語化されたニーズに対するコミュニケーションはとても進んでいると思うんですよ。
例えば不動産のサイトを見たあと、不動産系のリタ―ゲティング広告がよく出てくるようになりますよね。
ただ、人は、自分が欲しいものを必ずしも言語化できているとは限らないはずなんです。

最近若い方たちと話していると、より言語化できていない傾向を感じます。検索できない子が増えているんですよね。

顧客視点を得るためにユーザーの声を聞く取り組みを実施する際には注意が必要だ。消費者自身が言語化できていない以上、彼らに直接話しを聞いてもインサイトを引き出せる可能性は低い。

ハヤカワ氏


これからは、言語化できていないユーザーのニーズを汲み取らなければいけない。
例えば、当社の「feast」も、言語化されていないニーズを汲み取って開発しました。「feast」は小さいサイズ専門の下着ブランドで、「シンデレラバスト」という、小さいサイズの胸をポジティブに受け取れる言葉を生み出しました。
feastのお客様は、小さいサイズの下着が欲しいのではなく、自分の身体性を否定されたくない、肯定してほしいという気持ちが根底にあります。
だから、ブランドが打ち出す価値観に共感してくれて購入していただけているのだと思います。でも、普通に話をしても言葉として出てくるのは「サイズがなくて悲しい」という表層的な部分だけ。

いかに言語化されていない分野にアプローチしていくかはこれからより重要になっていくと思います。

自分が払ったお金がどう使われ、どこに流れるのかまでを考えて消費するのが当たり前になる


今後日本の消費者が何を重視するようになるのか、田中氏はヨーロッパの状況を見て以下のように予見した。


2年前にヨーロッパに出店した際、消費者の考え方が日本とはかなり異なることに気付きました。ヨーロッパは日本より資本主義が成熟していて、皆大量生産・大量消費に飽きています。高くても良いものを購入して大事に使うし、何より自分が払ったお金が最終的にどこに流れるのかをすごく重視しているんです。
例えば、環境破壊につながるような事業の資金源になることをすごく嫌がります。そこが、商品選びの重要な基準になっている。

日本の資本主義社会はヨーロッパより少し遅れをとっているので、いずれ同様の価値観がスタンダードになるでしょう

田中氏

大量生産・大量消費の時代が終わると、消費者は1つの商品を買うにもそのバックグラウンドまで考慮する。「モノ」が持つ「コト」を見ようとしているわけだ。
そのような価値観が日本にも定着する前に、OWNDAYSはコーズマーケティング(自社商品の販売を通して社会貢献につなげる)を推進している。


日本盲導犬協会と一緒に「ONE VISION PROJECT」という取り組みを実施しています。盲導犬やその利用者に無料でハーネスなどの備品を提供し、そのかわりに提供した備品にはOWNDAYSのロゴを入れてもらっています。
また、イベントを当社が出店している館で行い、社会的な盲導犬の認知活動支援にも取り組んでいます。
偽善と捉える方もいるかもしれませんが、それも1つの見方です。偽善で嫌だと思う方は、無理にOWNDAYSのメガネを買っていただかなくてもいい。

シンプルに当社がお客様からいただいた収益が、CMを流すためのプロモーション費になるのか、それとも盲導犬育成のための費用になるのか、どちらか好きな方を選んでくださいという話です。

田中氏

まとめ

人口減少、情報過多、テクノロジーの進化など様々な要因が絡みあい、人々の価値観が急速に変化している今、唯一変わらないのは「顧客に真摯に向き合うことの大切さ」だろう。

田中氏の「顧客をコントロールすることなく、コアバリューを伝える」という考え方も、ハヤカワ氏の「表層の声ではなく、深層に隠れたインサイトを汲み取るべき」という指摘も、顧客に本気で向き合っているからこそ出てくる言葉だ。

グループインタビューやWebアンケートで顧客を理解した「つもり」になってはいないか、これを機に見直してみてもいいかもしれない。

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