ココカラファイン、店舗を活かし「おもてなしNo.1」を目指すデジタル戦略

郡司さんのご経歴について教えてください。

薬剤師の国家資格を持っており、20代で株式会社を作ってセイジョー(ココカラファイン前身の一社)とFC契約してドラッグストアを経営していました。その後調剤実務やシステム設計して、また自分で店やってからセイジョーに戻りました。

戻ってまずは、大幅に成長する調剤事業でマネジメントをしました。その後は事業管理部門に移りまして、途中ホールディングス本社に転籍して販社間を繋ぐ仕事をやってきました。なので、店舗の床材から何からの選定、購買システム導入から、システム系、販社社長会の運営まで広く関わってきました。

基幹システム、マニュアルはもちろん物流プロジェクトまで多くのプロジェクトに入っていましたね。この時期に会社全体の流れを把握することになり、後の全体最適思考に結びついたと思います。

12年秋にEC事業の分社化をトップが決断しました。EC自体は06年からやっていましたが、売上げが増えると赤字が増える赤字事業でした。一方、EC市場は拡大を始めており、EC事業の可能性を追求するという意味と損益をはっきりさせて、経営判断スピードを上げるための事業黒字化を目的とした分社化でした。

私は事業計画を作るのが好きなので、ココカラファインのアセットを使って、ECをやるならこういうことができるよねと夜中に事業計画書を書いて出したら、コンペで選抜されました。

EC事業会社の社長へ

13年の4月に社長に就任し、黒字化のための色々なコントロールをやりました。サイトの使い勝手、出荷管理、ささげを含めた商品掲載、コールセンター、限界利益管理など一通り改善をやって結果としては3年目で黒字化しました。

EC事業をやってわかったのですが、医薬品はECではあまり売れないです。どのくらい売れないかというと、OTC医薬品といわれる市販薬市場が1兆2,000億円くらいあるうちのEC売上は200億円しかない。EC化率1.7%弱です。5年ほど前に新聞等があれほど「ネットで医薬品販売の時代になる」と騒いでいたのに。

でも当たり前の話で、風邪引いたら熱で苦しい今薬飲みたいのですよ。だったら5万軒以上ある近所の薬局・薬店で買いますよね。だからといってドラッグストアに通販で売れる商品がないわけでもなくて、日用雑貨や化粧品などはECでも売れます。でもドラッグストアはもちろんGMSでもどこでも買えます、ネットの世界ならなおさらです。そうすると価格勝負になってしまう。価格勝負になった場合、経費の最適化が重要です。ECを本格的に取り組むなら出荷コストを下げる物流投資は必ず必要です。しかしながら大規模投資は難しい。

黒字化するというミッションがあったので黒字化しましたが、EC事業が10倍・100倍の利益になることは難しい。

EC事業を通じてデジタルマーケティングに出会う

EC事業を黒字化させるため、売上を伸ばすため様々な知識を付けました。ECに関連するデジタルのサービスだけでも本当に色々なものがあって、ブランド力を上げる、認知を上げる、アクセス数を伸ばすものなど勉強していくうちに、店舗にお越し頂くお客さまに最適な情報配信ができると思いました。例えば、店頭ではPOPで商品の説明をしますが、スペースには限りがあります。商品のより詳細な情報を知りたい人は、インターネットで調べます。その際、ココカラファインのウェブで情報をしっかり整理してあげて、動画などで使い方を紹介したらお客さまにとって有益な情報になると考えました。

ドラッグストアの市場は6兆円で、上位10社が70%の売上を占めています。そうすると同業他社の動きばかりみるようになります。アプリやLINEでクーポン配信すると「全品5%OFF」みたいなクーポンばかりなのです。

どうしてそうなるのかというとお客様一人ひとりを観ることができていないからなのです。

ファッションブランドのメルマガ登録されている方って、そのブランドのことが好きな人じゃないですか、だからメルマガがくると嬉しい。でもドラッグストアはそうじゃない。性別、年齢層などによってもニーズは全然違うし、同じ人でもシーンによってニーズは異なる。男性にファンデーションを訴求しても買わないですよね。ドラッグストアへのニーズは人それぞれ違うから1to1でマーケティングしなくちゃワークしないのです。

テクノロジーの進歩で現実的なコストで実現可能になっているのがEC業界にいることによって気付くことができました。

スマートフォンの登場でオムニチャネル化したお客さまが店頭にいらっしゃいます。当然、お客さまがそうなるのであれば、私たちもどんどんオムニチャネル化していかなくてはなりません。経営戦略の中に「いつでも、どこでも、どなたでもココカラファイン」というオムニチャネル戦略を入れてもらい、マーケティング部署だけではなく、グループ全社で取り組んでいくことになりました。

同時期にECも黒字化したので、お客さまがオムニ化したのにECと店頭が別会社というのもおかしいので、会社を統合しました。

お話をお伺いすると入手の容易な商品のECってとても難しそうですね

マーケティングするには最初に現状(環境・消費者・競合)把握のためにリサーチします。マーケティングって何かというと自社のカスタマー、すなわち顧客がどう思っているのかを知って、必要とする情報を届けて、顧客がそれを必要なときに必要なだけ手にすることができるようにすることです。リサーチすることによって、色んなことが見えてくるのですが、1つにドラッグストアは差別化できていないということがわかりました。先ほど上位に集約されてきたとお話しましたが、お客さまから見てそれぞれの会社に個性があるかというとそうではない。多くのお客さまは近いか遠いかで選んでいる。

リサーチでもう一つ大きな発見がユニバーサルニーズでした。「友達以上、医者未満」という考え方で、ちょっと調子悪いときに医者に行くほどでもないけど、医療・健康の素人である家族や友達の意見では心配というときに相談に乗って欲しいというニーズです。ココカラファインがそのニーズに応えますということをお伝えするために色んなタッチポイントを統合して情報をお伝えしていきましょうという考え方につながりました。情報で差別化を図ろうと。

なぜアプリをはじめたのですか?

アプリを開発するきっかけは、けして他社がリリースしたからはじめたわけではありません。様々なタッチポイントを作る理由は、最終的にお客さま、それぞれのニーズに対応できるよう1to1マーケティングをするためです。その接点としてアプリが必要だったからです。そして、アプリとウェブサイトが同じIDで紐付いている必要があります。(これがとても重要なことです)

オウンドメディアでどのような記事を読んでいるのか、店頭でどのような商品を購入しているのか、などの行動履歴をすべてプライベートDMPに入れています。それを分析して、お客さま一人一人に最適な情報の出し先としてアプリが必要という考えです。

また、当社にはココカラクラブカードというVISAのプリペイドカードがあり、年間のアクティブ会員が700万人、月間アクティブ会員も350万人ほど利用されるカードがあります。しかし、VISAのロゴが入っているだけでクレジットカードというイメージが強く、カードを作って頂けないお客さまも多くいらっしゃいます。そのような当社のライトユーザーの方にもアプリで手軽に会員証として利用して頂きたいと考え、当初アプリは会員証の機能を軸にして開発しました。

まずアプリのファーストビューで会員のバーコードを表示できるようにしています。こだわったポイントとしては、通信できない状態でもバーコードが表示されるようにしている点です。もちろん不正防止の機能などもしっかり入れて、顧客体験が悪くならないよう気をつけています。

また、アプリ内通貨「ファイン」をいれました。無印良品さんのMUJI Passportなどもそうですが、インセンティブツールとしてアプリ内通貨は重要だよね、という議論があって導入しました。デイリーチェックインという機能があって、1日1回プレゼントがもらえます。それで良かったのは、ドラッグストアって月に平均すると2〜3回くらいの来店なのですが、店舗に来ない日でもココカラファインのことを思い出してもらえる、それって友達以上医者未満の相談相手になるためには、とても重要だと思っています。少しゲーム性のあるスクラッチなども入れているので、空いた時間に少しでも楽しみを感じてもらえればと思っています。

バージョンアップも常に行っています。最初のバージョンアップでは、マイ店舗登録ができるようにしました。その名の通り、自分の行っているお店を登録できる機能です。そうすると、その店舗のチラシがありますとか、キャンペーンをやっていますと届くようになります。それによって得られた効果としては、郊外型店舗の来店頻度が伸びました。郊外型店舗は基本的にチラシで集客をしています。でもチラシを見逃していることももちろんありますし、プッシュ通知を見ることで、今日はココカラファインも買い物ルートに入れておくか、みたいな行動が起こせたと思っています。新聞の発行部数が減って行く中で、そのような配信ツールとしても役立つと実感しています。

アプリを楽しんで使って欲しいし、パーソナライズされたクーポンも届くし、なおかつクラブカードのチャージも使って頂くことで釣り銭のない便利な買い物体験をして欲しいと思っています。アプリもカードもどちらも使ってくれるユーザーが我々の大事なお客さまだよねと思っています。

数字としてもそれは出ていて一番ライトユーザーはアプリだけのユーザーです。カードにチャージをしているユーザーは月間の購入金額も高くなっています。でも同じ人物でもカードユーザーがアプリをインストールすることによって、さらに購入金額が高くなるというデータが出ています。なので、いろんなタッチポイントを組み合わせて使って頂くことが重要です。

ECと実店舗の関係でいうと、もちろんどちらのチャネルも使っているユーザーの客単価が高くなっています。これはどの企業でも共通かも知れませんね。

ウェブとアプリの違いについてはいかがですか。

ウェブにはウェブの、アプリにはアプリの良さがあるということです。ウェブには、ビジターというか、ただ調べているユーザーもいます。「友達以上、医者未満」になるためにオウンドメディアでは健康コンテンツををたくさん用意しています。それが1つのタッチポイントになるわけです。

最近のアプリ施策でいうと、欠かせないのが店舗評価機能です。

店舗で購入されたお客さまに購入後、購入店舗の評価をお願いしています。アプリのファーストビューに購入後だけ現れる動線を用意しています。

5段階だと中央値に寄るので4段階評価にしています。星をつけるだけで良いのですが、もし言いたいことがあればフリーテキストでコメントできるようにしています。

これまでは社長室行きのハガキで行っていましたが、それだと凄いお褒めになられる方か、凄く怒られた方しか書かないのですよね。これをアプリ化することによって、まずは数が圧倒的に増えました。どれくらい増えたかというと1週間でハガキ1年間分以上の数が集まりました。非常に貴重な定性データです。

コメントを書いて頂けなくても、4段階評価で各店舗の評価が定量データとして集めることができるので、そのお店が良くなっているのか、悪くなっているのかを見ることができます。急に評価が悪くなったら、お店に何か問題が行っていないかの気づきになります。また、良くなっている店舗の発見にも繋がりますので今後活用して「おもてなし」に繋げてくれればと思います。

今後のアプリ戦略についてどうお考えですか。

アプリに限りませんが、お客さまの求めている方向と合わせて行ければと思っています。先ほどの店舗評価機能を導入したことによって、店舗の評価だけではなくアプリなどにも意見を頂けるようになりました。

その中で採用しようと考えているのが、買い物メモ機能です。ウェブでいうところのブックマークですが、デジタル慣れしていない方にも伝わる言葉にしたいです。お買い物のときに便利に使ってもらえる機能になればと思っています。アプリを開発する当初から考えていたバーコードスキャンの機能などと組み合わせて提供したいですね。バーコードをスキャンすると詳細な商品情報が閲覧できて、そのまま買い物メモにも追加できるイメージです。

私たちは、全国に1,300店舗以上持っていますから、そこを活用したいですね。コーポレートスローガンとして「おもてなしNo.1」を目指しています。目に見えるおもてなしとして天然水ウォーターサーバーを全店に置いて、お店ですぐに薬を飲めて、喉が渇いたときにも飲んで頂けるようにしています。

現在開発しているのがお客さまご注文品への対応です。異業種含め他社よりも圧倒的に使いやすいものにしたいと考えています。我々は1,300店舗のお店の形や大きさが異なります。当然、地域でのニーズも異なるため、例えばお客さまが引越しをされて違う街に生活拠点を移した場合、今まで近所にあった店舗で扱っていた商品が、その地域では扱われていないということもよくあります。お客さまとしては、今まで使い続けていた商品を変わらず使いたいとニーズもあるのです。それを少しでも簡単にアクセス出来る形で提供出来ればと思っています。

お客さまの気に入っている商品が、棚割りが変わってお店では扱わなくなった、引越しをされていつもの商品を買えなくなった、それを補完できると、店頭で扱っている約2万SKUの商品以外でもお客さまが期待している商品の供給ができる。実質的に売場が広がるわけです。

特別新しい商品を探してもらうというよりは、今まで使っていた商品をスムーズに買えるようにできれば、私たちとしても売上が上がって嬉しいですし、なによりお客さまに満足して頂けると思います。

私たちは全国に店舗という資産を持っています。それを活かして、お客さまが便利で使いやすいサービスを提供していきたいと考えています。


株式会社ココカラファインヘルスケア 販促部 マーケティングチーム マネジャー(取材時)
郡司 昇

薬剤師。ココカラファイン誕生時から販社を繋ぐ事業管理担当で内部統制からファシリティマネジメント、営業マニュアル策定まで推進。2013年黒字化を目的としたEC事業分社化に伴い株式会社ココカラファインOEC代表取締役就任。第3期に経常黒字達成し、1,300店舗が所属する株式会社ココカラファインヘルスケアに統合。マーケティングとEC事業の責任者。(取材時)

ココカラクラブ(公式サイト):https://www.cocokarafine.co.jp
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