
スマホアプリの黎明期に「MUJI passport」をリリースし、そのロイヤルティプログラムとしてマイル制度を導入した良品計画。その後、アプリ上でECを可能にするなど機能追加や改修を重ね、満を持して2025年9月にリニューアルされたのが「MUJI アプリ」です。「感じ良い暮らしと社会」の実現を目指す良品計画は、MUJI アプリで顧客との “良い関係” をどのように築こうとしているのでしょうか。マーケティング部 部長 山内智裕さんのお話から、これまでの道のり、そして時を超えて貫かれる「無印良品らしさ」を紐といていきます。
MUJI passport誕生から10数年、浮き彫りになった3つの課題
―― MUJI passportからMUJI アプリへとリニューアルされた、背景をお聞かせください。
2013年5月にMUJI passportを立ち上げた当時は、そもそも自社アプリを提供する企業が少なく、ポイントやマイルといった形でロイヤルティプログラムの仕組みがあることも珍しかったと聞いています。2014年8月には、アプリ上でも買い物ができるようEC機能を追加。デジタルとリアルの境界をなくして顧客体験を一体化するOMOもいち早く実現しました。国内の年間アクティブユーザー数は1,750万*1にまで成長し、アプリを通じてお客様とつながり、ものづくりにも反映するといった一定の目標は達成しましたが、時間が経ち、ユーザーが増えるにつれて、3つの課題が顕在化していったのです。
*1 2025年8月期
―― どのような課題が明らかになったのでしょう。
まずは、2万マイルたまると買い物で使える200ポイントに交換できるという仕組みが「複雑でわかりにくい」といった声が年々増えてきました。次に、「アプリとECサイトのIDが別々に管理」されていたこと。そして2021年の第二創業時から「感じ良い暮らしと社会」の実現を目指すなかで、「地域とのつながりや、ESG経営を表現した内容になっていない」ことが課題でした。そのため、アプリをリニューアルすることは何度も議題に上がりましたが、第二創業における改革はものづくり、店づくりを主軸に進めてきたので、実際にプロジェクトがスタートしたのは、2023年11月。それから本格的に議論を進め、2025年9月にMUJI アプリへ全面リニューアル、同時に新しい会員プログラム「MUJI GOOD PROGRAM」も開始しました。

熱狂的なファン化は、無印良品の目指すロイヤルティの姿ではない
―― MUJI アプリおよびMUJI GOOD PROGRAMの特徴を教えてください。
主な特徴は3つあります。1つは100円使ったら1ポイントがたまるという「シンプルなポイント制度」。お客様からは「わかりやすい」、店舗スタッフからも「説明しやすい」と好評です。2つ目は「買い物以外でもポイント付与」されること。資源回収やごみ削減の取り組みへの参加といった行動に加えて、記事を読んだりレビューを書いたりしてもポイントが付与されるようになりました。そして3つ目が「ポイントで社会貢献ができる」仕組みを構築したこと。レジ前にある募金箱のようなイメージで、気軽に誰かのための寄付ができます。
こうした内容を事前に経営層や店長会議などで説明すると、「感じ良い暮らしと社会が体現できている」「わかりやすい」と反応は上々で、自信を持ってリリースの日を迎えました。一方で、大変だったのはIDの一本化です。アプリとECサイト、どちらもメールアドレスで登録することに一時的に負荷はかかりましたが、統合によって一貫した体験を提供できるようになりました。また、MUJI passport時代のロイヤルティプログラムを見直し、購入金額によってダイヤモンド、プラチナ、ゴールド、シルバー、ベーシックと区切る「ランク制度を廃止」したことも大きな変更点だったと思います。
―― 多くのBtoC企業が “顧客のファン化” を目指すなかで、なぜランク制度を廃止したのでしょう。
熱狂的なファンを作ることが、無印良品の目指すロイヤルティの姿ではないからです。たくさん購入してもらうことが目的ではなく、できるだけ長く、より深くお客様とつながることが大事。そうしたつながりは購入金額で計れるものではなく、ましてや囲い込みをするようなものでもない。どのお客様も平等に扱うことにしようと、ランク制度をなくすことにしたのです。
「売るためのマーケティングはしない」長年貫かれる組織文化
―― 無印良品では、ロイヤルティをどのように定義していますか?
実は、明確な定義はなく、顧客との関係性は時代とともに変化するものだと考えています。いまは「どのようにつながっているか」を捉えようと、定量的にはRecency(最終購入日)・Frequency(購入頻度)・Monetary(購入金額)という3つの指標を使ったRFM分析を、定性的には年に1〜2回アンケートを実施して、どんな向き合い方をされているかを把握しながらマーケティングを進めています。とかく定量的な指標では購入金額を見てしまいがちですが、無印良品では購入単価を無理やり上げようとしない。強いて重要視するポイントを挙げるとすれば、継続率ということになります。
―― 意外なことに、マーケティング部という部署は最近できたそうですね。
そうなんです。昔から「売るためのマーケティングはしない」という組織文化があり、ターゲットやペルソナという言葉も使いません。無印良品にとってマーケティングとは、あくまでお客様を知るためのもの。つまり、社内全員が取り組むべきことなので、専門部署は設けませんでした。しかし時代は変わり、商品構成の変化や地方出店の増加など、新商品や無印良品の認知を広げる必要が出てきたことから、2025年8月にマーケティング部が新設されました。
現在、マーケティング部には、商品/店舗マーケティング、デジタルマーケティング、クリエイティブという3つの領域があり、私はデジタルマーケティングを担当しています。無印良品の商品は、特定の年齢や性別を前提とした区分にとらわれず、お客様それぞれの暮らしや使い方に合わせて、自由に選んでいただけるものづくりを心がけています。そうした考えが先進的なのか、あるいは周回遅れなのか、受け止め方は人によるかと思いますが、最先端のものから意図的に引き算しているところはあるかもしれません。

決まったプロセスはなし。すべては会話から始まる
―― ターゲットやペルソナを設定しないで、どのように商品開発や店舗運営などを進めているのでしょうか。
ものづくりにしろ、店づくりにしろ、クリエイティブの制作においても決まったプロセスはなく、すべては会話から始まります。「無印良品として、どうありたいか」「どんな商品をお客様に提供したいか」を議論したうえで、それを売り場で表現するとこうなる、するとこれくらいの数字がついてくる。そうした会話を重ねてあらゆることを決めています。この方法は時間がかかるので大変ですが、何事も会話を通して進めるからこそ、時代が変わっても一貫して誠実な「無印良品らしさ」を伝えることができるのだと思います。
また広告展開も、「売るための広告はしない」という方針のもと、企業姿勢を伝え、認知を広げることに徹します。SNSでも煽るような表現は一切しませんが、インプレッション数は4〜5年前から約8倍に伸びているので、この方法が間違っていないのだと実感しているところです。
―― 最後に、MUJI アプリを通して、これから実現したいことをお聞かせください。
第二創業以降、力を入れているヘルス&ビューティ領域では、「発酵導入美容液」や「肌の天然水」のプロモーションを、店舗の売り場確保やPOP設置、マーケティングメンバーはさまざまな角度からどう伝えるかを考えて展開してきたことで、売上も順調に推移しています。このような社内連携を強みに、より一層オフラインとオンラインの垣根を越えたOMO強化を進めていこうと考えていますが、そのためにはMUJI アプリが “究極のカタログ”になることが、ゴールのひとつ。加えて、お客様に暮らしの気づきをもたらすことを目的とした緩かなパーソナライズへと進化させ、社会や地域につながる機会をもっと増やしていきたい。MUJI アプリをお客様自身にも、ほかの誰かにも、そして社会にもいいことが実現できるプラットフォームへと大きく育てていきたいと思います。

(プロフィール)
山内智裕(やまうち・ともひろ)/株式会社良品計画 マーケティング部 部長。日本国内1,000店舗規模の小売店でECやアプリなどのデジタル事業の責任者を経て、2021年4月に入社。EC・デジタルサービス部 部長として、ECや店舗アプリ(MUJI passport)などの集客・CRMなどのマーケティング領域を担当し、2025年8月より現職。
