AI×アプリが逆転させた、店舗規模の常識

ヤプリ エグゼクティブ・スペシャリストの伴です。

今開催中の Shoptalk Fall 2025、シカゴのマーコーミックセンターから現地レポートをお届けします。

今回取り上げるのは、米国を代表するホームセンター Home Depot(ホームデポ) と、地域密着型のフランチャイズチェーン Ace Hardware(エース・ハードウェア)。

近年のデジタル投資は「大手=リテールメディア」「小規模=顧客密着」という構図で語られることが多いですが、今回のセッションで浮かび上がったのは、その“常識の逆転”でした。

Home Depot:PROとDIYを分け、CRM精度で勝負 

写真:HomedepoのSenior Executive Vice PresidentのAnn-Marie Campbell氏

2,300店舗・年間約1,600億ドルの売上を誇る世界最大のホームセンターHome Depotは、顧客戦略を大きく「PRO(建設業者・職人など)」と「DIY(一般消費者)」に分けています。

PROには外商を含めた専任対応を、DIYには「次に自宅をどう変えるか」という個別プロジェクトごとの対応を最適化しています。

そのために、外商営業担当には移動中にAI生成のポッドキャストを配信し、顧客の購買履歴や提案すべき商材を即確認できる仕組みを。店舗スタッフには在庫可視化ツールを持たせ、棚の状況をリアルタイムに把握し、欠品時でも代替案を即提示できる仕組みを導入しています。

Senior Executive Vice PresidentのAnn-Marie氏が「顧客の80%は来店前に必ずオンラインで検索しています。」と語ったように、この検索データはCRMの重要な資源です。購買履歴と組み合わせることで、庭・ペイント・電動工具といったプロジェクト別にアプリ経由でCRMキャンペーンを最適化し、営業・販売員が体験を支える構造を作り上げています。巨大規模を「利便性」や「効率化」にとどめず、顧客が目的を達成するための支援に進化させているのです。

Ace Hardware:20分の1の規模でも、リテールメディアで“発見体験”へ

写真:Ace HardwareのCMOKim Lefko氏

一方のAce Hardwareは、年間売上約220億ドルとHome Depotの1/10規模ながら、フランチャイズ展開で米国内に5,100店舗と、Home Depotの倍以上を抱えます。つまり1店舗あたりの売上は約300万ドルで、大手の20分の1にすぎません。

通常であれば「地域密着」に特化するところですが、Aceはそれだけでは勝てないと判断。7,300万人のAce Rewards会員を基盤に、リテールメディア「RedVest Media」を立ち上げました。75–80%の米世帯が店舗から15分圏内にあるという“近さ”を武器に、店内×アプリ×RMNを連動させ、需要創造につながる発見体験を設計しているのです。

CMOのKim Lefko氏は「ベンダーにとって価値があり、かつ顧客体験を損なわない広告にしたい」と語り、DIY動画、BBQレシピ、季節ごとの塗装ガイドなど、“学び”や“体験”と結びつけた広告に注力。その結果「アプリ利用顧客は来店頻度・購買額ともに50%増」という成果を生み出しています。広告を“ノイズ”から“生活に役立つ発見”へと転換することに成功しているのです。

常識の逆転が示す未来
この2社の戦略は、「大手=リテールメディア」「小規模=接客&CRM」という従来の常識を逆転させました。
大手はCRM精度を極め、小規模は近接性をリテールメディアで発見体験に変える。

そして、そのどちらにも共通しているのが、顧客体験のハブとして機能するアプリの存在です。