「現場を解放するデータ」──H&Mに見るユニファイドCXの再定義

ヤプリ エグゼクティブ・スペシャリストの伴です。
今回は、スペイン・バルセロナで開催されたShoptalk Europe 2025から、H&Mのデジタル変革についてお届けします。

登壇したのはH&MグループのCDIO(Chief Digital & Information Officer)であるEllen van Saron氏。彼女の講演は、テクノロジーやAIの話でありながら、不思議なほど「人と現場」の温度感に満ちていました。

ファッションの民主化 × 精度の経済

Ellen氏は冒頭で、「H&Mの存在理由は「正しい商品を、正しいタイミングで、正しい場所に届けること”にある」と断言しました。そのために導入されたのが、RFIDタグとヒートマップデータ、さらには外部の天候・イベントデータまで組み込んだ、AIによる需要予測システムです。

ただし重要なのは、これは単なる効率化のためのDXではないという点。
むしろ「店頭の接客」や「スタッフの提案力」を引き出すための「“情報のレイヤーの装備」として、データが活用されているのです。

すべては、店舗スタッフが「気持ちよく働ける」環境づくりの為

最新設備を整えたニューヨークの店舗では、アプリで選んだ商品がナビで案内され、欠品時は近隣店舗から即時配送されるという、完全にシームレスなユーザー体験が描かれました。

一方で、VMD(ビジュアルマーチャンダイザー)が近隣店舗のデータを参照し、地域ごとの売れ筋に応じて店頭表現を最適化。つまりH&Mでは、「現場が自ら編集する=地域に合わせて自律的に設計する」仕組みを構築し機能させているのです。

これはもはや、店舗がリアルタイムで“仮説検証の場”としての役割をはたしている状態です。売り場は、従業員がデータを活用して創造する場になっているのです。

※店舗毎の売れ筋やトレンドを把握し活用している説明のスライド

「使いこなせる精度」の文化を育てる

H&Mのすぐれた点は、現場が「使いこなせる精度」の文化を育てる事にあります。

単なるアプリ刷新やチャネル統合ではありません。重要なのは、現場が“その場で意思決定できる”だけの精度あるデータを持ち、それを活かす文化とスキルを育てることです。

過去に「ファッションの民主化」にとりくんだH&Mは、「データとデジタルの民主化」によって、顧客体験および従業員体験を刷新しています。

「使いこなせる精度」のDXは、まさにヤプリが目指している所でもあり大きな刺激を受けました。