厚生労働省によってストレスチェックという制度が設けられていることを企業経営者や担当者であれば、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。企業規模によっては、ストレスチェックの実施は義務化されています。本記事では、ストレスチェック制度の対象となる企業、実施する方法やポイント、罰則の有無などについて解説します。
目次
ストレスチェック制度とは
ストレスチェック制度は、従業員がどの程度のストレスを抱えているのかを定期的にチェックし、従業員のメンタルヘルスに関する不調の低減・防止や職場環境の改善のために設けられたものです。労働安全衛生法の改正にともない、2015年12月から事業所の規模によってすべての従業員が実施することが義務付けられています。
ストレスに起因する問題は多々あります。過度なストレスを受け続けると、頭痛や高血圧、高血糖・糖尿病などの心身症を発症したり、うつ状態に陥ったりする可能性があります。ストレスを解消しようと飲酒やギャンブルに走り、アルコール依存やギャンブル依存になってしまったり、イライラして暴力を振るってしまったりといったこともめずらしくありません。 従業員が過度なストレスに晒され続けると、上述したような問題が発生することがあり、業務にも悪影響を及ぼす可能性があります。定期的にストレスチェックを実施して、従業員の心身や職場環境の問題を改善していくことが企業には求められています。
参照:厚生労働省|ストレスチェック等の職場におけるメンタルヘルス対策・過重労働対策等
ストレスチェック制度の義務化とは
2014年6月に改正された労働安全衛生法によって、ストレスチェック制度は義務化されています。対象となる事業者は年に1回以上、ストレスチェックを実施しなくてはなりません。
ストレスチェック制度義務化の目的
ストレスチェックを実施する目的は、
(1)従業員のメンタルヘルス不調の回避すること、(2)職場環境を改善すること
の二つです。
過大なストレスを受けていたとしても、それは周囲からはわかりづらく、どの程度のストレスを受けているのかは自分でもなかなか判断できません。 定期的にストレスチェックを受検することによって、従業員は自分が受けているストレスの度合いを把握できるようになります。自身のストレスの状態を把握でき、医師や保健師などの実施者から適切なアドバイスが受けられるため、メンタルヘルスの不調の回避できるようになります。 ストレスチェックでは数多くの従業員からの回答が得られます。結果を分析することよって、従来は気づくことができなかった職場の課題を抽出でき、職場環境を改善するための施策につなげられます。
ストレスチェック制度義務化の背景
近年、メンタルヘルスの不調が原因で働けなくなる従業員が増えています。厚生労働省が令和3年(2021年)に実施した「労働安全衛生調査(実態調査)」によれば、メンタルヘルスの不調によって過去1年間に連続1か月以上仕事を休職したか、または退職した従業員がいたと回答した事業所は、調査対象全体の10.1%にも上っています。
さらに、現在の仕事や職業生活において強い不安やストレスを感じていると回答した従業員は、全体の53.3%もいました。半数以上の従業員が仕事や職業生活に強いストレスを感じていると答えたことは衝撃的です。 同調査によれば、強いストレスの原因として仕事の量を挙げる人が多くを占めていました。正社員が回答した強いストレスの原因は、1位が仕事の量で45.6%、2位が仕事の失敗、責任の発生等で33.7%、3位は仕事の質で33.6%でした。
調査結果から、多くの従業員が強いストレスを感じながら業務をこなしていることは明らかです。従業員がストレスで休職・離職などしないよう、また企業は従業員のメンタルヘルスを守れる環境や体制を構築できるよう、ストレスチェックを定期的に行うことが重要であり、事業者には実施が義務付けられました。
参照:厚生労働省|令和3年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況
ストレスチェック制度義務化の要件
ストレスチェック制度の義務化は、常時50人以上の従業員が働いている事業所が対象です。従業員が50人未満の企業の場合、現状では努力目標とされています。 ストレスチェックの実施対象は正規雇用の従業員だけではありません。事業所が雇用しているアルバイトやパートタイマー、契約社員なども対象です。ただし非正規雇用の場合は、(1)契約期間が1年以上、(2)1週間の労働時間が正社員の3/4以上、の両条件に該当する従業員が実施対象となります。派遣社員の場合は、一般的に派遣元企業でストレスチェックが実施されるため、受け入れ先の企業で実施しなくても問題はありません。
ストレスチェック制度義務化の頻度
ストレスチェックは1年に1回以上、実施することが義務付けられています。毎年、継続的にストレスチェックを実施することで、従業員のストレス状態や経過などを正確に把握できるようになります。実施する月は特に決められていませんが、前回の実施日から1年以内に行います。ただし、毎年同じ月に実施した方が経年変化のチェックが容易です。
ストレスチェックを実施しなかった際の罰則
ストレスチェックの実施は義務化されていますが、実施しなかった場合の直接的な罰則はありません。 ただし、実施の義務化対象企業は、ストレスチェックや面接指導の実施状況などを労働基準監督署に報告しなければなりません。報告は、厚生労働省のサイトに掲載されている規定のフォーマットを用いて行います。報告を怠った事業者には50万円以下の罰金が科せられます。
ストレスチェックの対象外になる従業員
ストレスチェックは、企業組織に属するすべての者を対象に実施することが義務付けられているわけではありません。事業者が常時使用している従業員がチェックの対象であり、使用者側である役員は対象に含まれません。ただし、これは労働安全衛生法の定める規定であり、役員もストレスチェックを実施することが望ましいと考えられています。
またストレスチェックの実施時点で、職場にいない人は対象外です。例えば、病気やケガで会社を休職している従業員や、高齢の両親を介護するために長期休職している従業員などです。そのほか、入社が内定しているものの、労働を開始していない雇用予定者や、海外の現地法人が採用している従業員もストレスチェックの実施義務対象外です。
ストレスチェックの実施者
従業員がどの程度のストレスを抱えているのか、どにような心理状態にあるのか、といったことは専門家でなければ把握できません。ストレスチェックの実施者となれるのは、医師(産業医)、保健師または厚生労働大臣の定める研修を受けた看護師および精神保健福祉士だと規定されています。 多くの企業では、産業医がストレスチェックの実施者となっています。50名以上の従業員を常時使用する企業には、産業医の選任が労働安全衛生法で義務付けされているからです。
ただし近年では、産業医ではなく、ストレスチェックを実施している外部のメンタルヘルス事業者などに委託するケースも増えています。 ストレスチェックを外部専門事業者に委託するメリットは、これらの事業者が豊富なノウハウを蓄積していることにあります。ストレスのトレンドなども把握しており、専門的な知識とノウハウを駆使したチェックが期待できます。
ストレスチェックを行うメリット
ストレスチェックの実施は、従業員と企業との双方にメリットをもたらします。従業員は自身のストレス度合いを把握して適切な対処ができ、企業は優秀な人材を失うリスクを低減したり、職場環境を改善したりできるようになります。
自身のストレスの度合いがわかる
職場や仕事によってどの程度のストレスを受けているのかは、自分自身でもなかなかわかりません。知らず知らずにストレスをため続け、メンタルヘルスに大きな支障をきたすことも考えられます。ストレスチェックを受検し、結果を確認することで、自身の受けているストレスがどの程度なのか、高ストレスなのかそうではないのかといったことがわかります。 通知された結果からストレスの原因も探れます。ストレスの原因が明確になれば、それを取り除くために取るべき行動もわかります。
ストレスに対処できる
ストレスチェックでは、高ストレスと判定された従業員は、医師に面接指導を受けることが推奨されています。医師と面談することで、ストレスを解消する具体的な方法や、日々の生活で気をつけるべき点などのアドバイスを受けられます。 ストレスがたまっているという自覚がある従業員のなかには、自分で何とかしようとしていた人もいます。ただし、自己流のセルフケアではなかなか思ったような結果は得られません。ストレスチェックを受検し、医師や専門家と面談する機会を得れば、ストレスの解消法や向き合い方などの指導を受けられます。
従業員のメンタルヘルス不調に気づける
従業員のメンタルヘルスの不調に早い段階で気づけることは、事業者にとってもメリットがあります。企業にとって、人材は利益に直結する重要なリソースです。少子高齢化にともなう労働人口の減少によって、企業はますます人材の獲得が難しくなっています。メンタルヘルスの不調で優秀な人材を失えば、組織としては大きな損失です。新たな人材の採用や育成にはコストがかかります。このような状況だからこそ、企業は従業員の心身の不調に対して、いち早く対応する必要があります。 ストレスチェックを実施することによって、従業員がどの程度のストレスを抱えているのか、業務に支障をきたすレベルなのかどうか、といったこともわかります。状況に応じて、医師に相談するよう勧めたり、働きやすくなるように職場環境を改善したりなど、適切な対応を取れるようになります。
50人未満の事業所でもストレスチェックを実施する効果
従業員50人未満の事業所には、ストレスチェックの実施は義務付けられていません。しかし、従業員が50人未満であってもストレスチェックの実施が推奨されています。 小規模事業所の多くは、少数精鋭で業務に取り組んでいます。貴重な戦力である従業員のメンタルヘルスの不調に気づけず、休職されたり、離職されたりしてしまうと、業務に大きな影響が出てしまいます。
現在は小規模ながら成長途上にある事業所であれば今後、従業員が増えることが予想され、将来的にストレスチェック実施の義務化対象になります。対象外の状況から実施しておけば、従業員が増えて義務化対象となってもスムーズに運用できます。ただし企業によっては、実施に必要なリソースを確保できない場合があるかもしれません。無理に運用しようとすれば、適切なチェックを行えなかったり、コストが負担になったりするおそれがあります。実施する際には十分な検討が必要です。
ストレスチェックを実施する手順
ストレスチェックはしっかりと事前準備をしたうえで実施し、必要に応じて従業員に就業上の措置を施したり、職場環境改善のための取り組みを進めたりします。
導入前の準備
まず、事業所の衛生委員会などでストレスチェックの実施方法などを検討します。チェックの実施者を誰にするのか、どのタイミングで実施するのか、質問表に記載する内容をどうするのか、高ストレスと判定する基準はどうするのか、といったことを話し合って決定します。
実施内容が決まったら、その旨を従業員に周知します。企業にとって新たな取り組みであり、従業員のなかには「チェックの実施者は信用できるのか」「チェックの結果がほかの従業員に知られてしまうのではないか」などの不安を感じる人がいるかもしれません。こうした不安を解消するためにも、受検者である従業員にはきちんと説明しておくことが重要です。
また、この段階でチェックの実施者に加え、質問票を回収したり、データ入力を行ったりして、実施者を補佐する実施事務従事者も決定しておきます。
ストレスチェックの実施
ストレスチェックは選択解答式の質問票を使って行います。
質問票の内容には特に指定はありませんが、
(1)ストレスの原因に関する質問
(2)ストレスからくる心身の自覚症状に関する質問
(3)従業員に対する周囲のサポートに関する質問
が含まれている必要があります。
どのような質問をすればよいのかわからない場合には「国が推奨する57項目の質問票(職業性ストレス簡易調査票(57項目))」を使用しましょう(厚生労働省のサイトからダウンロードできます)。
質問票は従業員に配布して回答してもらいます。回答済みの質問票は実施事務従事者が回収します。結果は実施者から従業員本人に対して直接、通知され、衛生委員会などの審議にもとづいて実施者または実施事務従事者が厳重なセキュリティ管理のうえで保存します。事業者には結果は通知されませんが、従業員本人の同意があれば入手できます。
参照:厚生労働省|職業性ストレス簡易調査票(57項目)
面接指導の実施と就業上の措置
ストレスチェックの結果、医師による面接指導が必要であると判定され、従業員からの申し出があった場合には、事業者は面接の機会を設けなければなりません。面接を担当した医師に、就業上の措置が必要かどうかを判断してもらい、必要であれば、労働時間の短縮や従業員の増員など、適切な対処を行います。 面接指導の結果は5年間保存しておくことが厚生労働省の省令によって定めされています。実施年月日と従業員の氏名、面接した医師の氏名、従業員の勤務やストレス状況、就業上の措置における医師の意見などが記載されていることが要件で、医師の作成した報告書が要件を満たしていれば、そのまま保存できます。
職場分析と職場環境の改善
努力義務ですが、職場環境の改善を図るために、部署やグループなどの一定の集団単位でチェックの結果を実施者に分析してもらい、分析結果の提供を受けることが推奨されています。集団単位での比較などを行うことにより、各集団特有のストレス状況が抽出できる場合があります。その結果により、労働時間を短縮したり、新たな設備を導入したり、人員を増やしたりといった対応を行えます。 ただし、集団規模が10人未満の場合、職場分析結果の提供を受けるには当該集団に属する従業員全員の同意が必要です。集団規模が小さいと、個人を特定されるおそれがあるためです。職場分析は原則として10人以上の集団のチェック結果を対象に行います。
ストレスチェックを実施するうえでのポイント
ストレスチェックを実施する際には、従業員のプライバシーを侵害しないよう配慮する必要があります。また、ストレスチェックによって、特定の従業員が不利益を被るように扱うことは禁止されています。
プライバシーの保護
ストレスチェックの結果や医師との面接時に取得された情報は、外部に漏らしてはいけない個人情報です。これらの情報を知り得る立場にいる実施者や実施事務従事者、医師には労働安全衛生法によって守秘義務が課せられています。違反した場合には、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。
ストレスチェックの結果は通常、医師などの実施者(または実施事務従事者)が、また医師との面接指導の結果は事業所が保管します。チェック結果を事業所内で保管することも可能ですが、その際には第三者が閲覧したり、持ち出したりできないよう厳重に管理する必要があります。書類で保管する場合には鍵付きのキャビネットなどを使用し、サーバー内にファイルで保存する場合には暗号化などを行います。事業者がこれらの情報を不正に入手することはもちろん認められていません。やむを得ない事情で情報を社内で共有しなければならない場合でも、共有範囲は最小限にとどめなければいけません。
不利益取扱いの防止
ストレスチェック制度に関しては、従業員から医師への面接指導の申し出に対して事業者が不利益な取扱いをしすることは労働安全衛生法で禁止されています。さらに、
・ストレスチェックを受検しないこと
・ストレスチェック結果の提供に同意しないこと
・高ストレスと判定された従業員が医師の面接指導を申し出ないこと
を理由に、従業員に対して不利益な取扱いをすることは禁止されるべきであるとされています。そのほかにも、面接指導の結果によって従業員を解雇したり、雇用契約を更新しなかったり、退職勧奨を行ったり、面接指導を担当した医師との見解とは著しく異なる措置を取ったりするすることも、事業者として禁止されるべき行為です。
ストレスの解消法
過度なストレスに晒されながら日々の生活を送っていると、心身にさまざまな悪影響を及ぼすおそれがあります。ここではストレスを解消・発散する方法をいくつか紹介します。
ストレス発散方法を試す
ひとつめの方法はストレスコーピングです。ストレスコーピングとは、さまざまな行動・対処を取ることによって、ストレスを軽減・緩和することです。例えば、旅行や入浴をしたり、趣味に没頭したり、散歩やヨガなどをしたりといったことが該当します。そのほかにも、子どもと思いっきり遊んでみたり、気心の知れた人と話をしてみたり、早起きして日の出を眺めてみたりといったこともストレスの軽減・緩和効果が期待できます。
信頼できる人や専門家に相談する
自分ひとりでストレスをためこんでしまっては、いずれ爆発してしまうかもしれません。ストレスコーピングを試してみてもうまく解消できない場合には、信頼できる人や専門家に相談してみましょう。信頼できる家族や友人などへ相談すれば、すべてを解決することはできなくとも、話を聞いてもらうだけで気持ちが楽になることはあります。話すことで自分の思え方が整理され、解決までの時間が短縮されるかもしれません。
ストレスによる不安や心配が強い場合には、心療内科などメンタルヘルスの専門家に相談することをおすすめします。心療内科では、不安や悩みなどをマンツーマンでしっかりと聞いてもらうことができ、ストレスの原因を解明するためのヒントをもらえたり、適切な対処方法をアドバイスしてくれたりします。 万が一、医師との相性がよくない場合には、余計にストレスを受けてしまうかもしれません。何回か受診したうえでどうしてもストレスを感じてしまうようであれば、医師や心療内科を変更することもひとつの方法です。
参照:時事メディカル 時事通信の医療ニュースサイト |医師との相性が悪い!と思ったらやるべき3つの対策|教えて!けいゆう先生
上司や管理者、産業保健スタッフに相談する
職場環境や人間関係などのストレスが大きい場合には、事情をよく知る上司や管理者などに相談することをおすすめします。相談する際には、具体的にどのようなストレスを感じているのかをわかりやすく伝えます。話が曖昧だったり、要領を得なかったりすると、適切なアドバイスを受けることができません。
職場でのストレスを軽減させるために、情報共有ツールを導入する方法もあります。例えばビジネスチャットツールを導入すれば、いつでも上司や管理者に相談ができます。Web会議システムのようなツールなら、オンラインで対面相談ができて安心です。 現在ではさまざまな情報共有ツールが提供されており、機能や特徴などもそれぞれ異なります。有料・無料で公開されているアプリを使用するだけでなく、必要に応じて事業所内で必要な機能を組み込んだアプリを開発してもよいかもしれません。
株式会社ヤプリが提供している「Yappli」は、ノーコードで自社アプリの開発・運用を可能にするサービスです。Yappliを利用して、社内ポータルアプリを作成すれば、社内や部署間でのコミュニケーションが取りやすくなるほか、業務上に必要となるさまざまな情報を一元化して従業員に周知したり、アプリを通じて従業員の業務を支援したりと行ったことが可能になります。従業員のストレス軽減に役立つアプリをYappliで開発してみてはいかがでしょうか。
参考:株式会社ヤプリ
まとめ
ストレスチェック制度は2015年12月から年に1回以上実施することが義務付けられました。チェックを実施することで、従業員の心身の不調をいち早く察知でき、モチベーション低下の防止や離職の回避につながります。実施する際のポイントや注意点を踏まえたうえで、従業員のストレスを低減し、働きやすい職場環境を整えましょう。
この記事をご覧の方におすすめの無料 eBook!
社員のストレス軽減を目的として様々な制度を導入しているけれど社員に浸透していないという企業の方へ。
無料 eBookをプレゼントします。
社員向けスマホアプリを作れば、社内制度、福利厚生など簡単に情報を届ける・見ることが可能となります。社員が気になった時に能動的に確認するのも、企業側から新たな情報を伝えたい時も、これまでのメールやウェブサイトと比べて大幅に情報の浸透率がアップします。
詳細は以下よりチェックしていただけると幸いです。