現在、企業と顧客を結ぶ「チャネル」は非常に多岐にわたります。小売店舗、EC(電子商取引)サイト、PCやスマートフォンからの企業Webサイトへのアクセス、スマートフォンアプリ、SNS、メールマガジン、そしてテレビやラジオ、印刷物などのマスコミュニケーションチャネル等が挙げられます。
従来の企業活動ではこれらのチャネルは企業内の各組織がそれぞれ担当し、組織ごとに部分最適化を行ってきました。しかし、市場の成熟により競合との差別化が難しくなったり、人口が減少したりなどの影響を受け、企業収益の向上のためには既存顧客のロイヤリティ向上がより重要になってきました。
ECが登場し、顧客が店舗をショールーム的に利用する「ショールーミング」の問題が発生して以降、企業と顧客間のチャネルはクリック&モルタル、マルチチャネル、クロスチャネルと進化してきました。そして現在注目を集めているのが「オムニチャネル戦略」です。
※「そもそもオムニチャネル とは何か」「マルチチャネルやO2Oとの違いは何か」といった入門的内容について詳しく知りたい方は、下記の記事がおすすめです。
今さら聞けない「オムニチャネル」とは。成功の鍵はアプリ活用?
オムニチャネルでは、企業とユーザーの接点をシームレスに管理することで、顧客行動全体を通じて、ユーザー側から見たユーザー体験の最適化を目指します。こうしてよりよいユーザー体験を提供することで、顧客ロイヤリティアップを図り、収益向上につなげるという考え方です。
では、オムニチャネル戦略を実施しようとする場合に重要なポイントはどういった点があるのでしょうか?事例を交えて詳しくご紹介していきます。
目次
「オムニチャネル戦略」5つのポイント
オムニチャネルの導入は社内組織の改変まで伴うことのある大きなプロジェクトであるため、多くのケースにおいてトップダウンの強力なリーダーシップのもと進められます。
社内の体制を見直す
多くの組織ではEC部門と実店舗に関する部門は別部署が担当し、それぞれの部署ごとに最大の成果を生み出すよう動いています。部署間で売上を食い合うことへの警戒感はチャネル統合への障害となります。しかし、顧客側の意識としては、相手にするのは部署でなく企業(ブランド)なのですから、部署間の競争が顧客の不利益につながることがあってはいけません。
オムニチャネルではECと店舗のみならず、宣伝からサポートに至る全てのチャネルの統合を実現するために、CMO(Chief Marketing Officer=最高マーケティング責任者)以下、統合マーケティング部門がそれぞれの部署と協力し、一貫したユーザー体験の提供を目指します。
ロードマップを策定する
オムニチャネル導入に限らず大きなプロジェクトの実施では、ロードマップの策定が不可欠です。ゴールとして「オムニチャネルの導入により、何を実現するのか」「オムニチャネル化の範囲をどこまでとするのか」の目標の明確化と、マイルストーンとして「オムニチャネルの導入には、どんな項目をいつまでに実現するのか」を決める必要があります。
データを統合する
シームレスなユーザー体験の提供のためには、各部署でバラバラに存在していたデータの統合が必要です。
例えばECサイトで店舗在庫も確認できるようにして、顧客が店舗に訪れないと在庫状況がわからないといった状態をなくすことや、ダイレクトマーケティングに対する顧客の反応を店舗での接客に活用するなど、どのチャネルからのデータであっても全てのチャネルで利用できるようにする必要があります。
オムニチャネル導入の際に統合を目指すべきデータとしては、広告、在庫、受注、発注と顧客に関する各データ(購入履歴、接客履歴、ECサイトの行動履歴、ポイント)などがあります。
なお、オムニチャネルのデータ統合をより発展させた言葉として、ユニファイドコマースがあります。チャネルごとのデータを統合したOne to Oneマーケティングを実現した場合、それはユニファイドコマースに近づいていると言えるでしょう。
ユーザーを中心に考える
オムニチャネル以前にも、各チャネルのデータを相互に利用することで売上を向上させようという考え方は存在しており、これはクロスチャネルと呼ばれています。
クロスチャネルとオムニチャネルの違いは、視点が企業側からのものであるか、顧客側からのものであるかにあります。オムニチャネルでは、顧客の立場から見て、その企業との接触全てがシームレスにつながっていて、一貫したユーザー体験が提供されることが重要です。ネットで調べ、店舗でアドバイスを受け、オンラインの在庫を購入。支払いは店舗レジで行い、商品の受け取りは配送で、といった具合に、顧客が自由にチャネルを選択し、企業との関係を深めることを目指します。
よりよいユーザー体験を設計する
オムニチャネルでは、すべてのチャネルで顧客に一貫した体験を提供することを目指します。たとえ店舗での接客が優れていても、Webサイトが使いづらければ、ブランド全体としての体験の質は下がってしまいます。
そういったリスクを防ぎつつ顧客ロイヤリティを向上するためには、顧客にどんな体験を提供するべきなのかを検討し、それをすべてのチャネルで実現させていく必要があります。
カスタマージャーニーの策定などを通して、顧客がどのような形でブランドと接触しているのかを把握した上で、提供したいユーザー体験を設計していきましょう。
オムニチャネル戦略を導入するメリット
前述のとおり、オムニチャネル導入は企業内の組織にも影響を与えるため、非常にパワーのかかる大きなプロジェクトです。
では、オムニチャネルを実施することで、どのようなメリットがあるのでしょうか。
ユーザーの満足度向上
オムニチャネルの実現により、顧客は行動プロセスの各フェーズにおいて、自由にチャネルを選択、組み合わせることができるようになります。
例えばECサイト上で商品を閲覧し購入を決定したとき、ECでの購入だけでなく店舗の在庫確認や取り置きがすぐにできる仕組みになっていたり、実店舗でためたポイントを同社のECサイトでも利用できるようになっていたりと、同じブランドに対してチャネルに関わらず一貫した質の高い体験が提供されれば、ブランドへの総合的な評価は高まります。
これは、ブランドに対する満足度、および顧客ロイヤリティの向上に繋がります。
ユーザーを逃しにくい
各チャネルでの連携度が低く、部署がそれぞれ独立して部分最適化を行っている状態では、チャネルからチャネルへと顧客が移る段階で顧客情報の連携が行われず、機会損失を招いてしまったり、顧客に不便な体験をさせてしまう可能性があります。
オムニチャネルによるスムーズな情報連携が実現することで、顧客がチャネルをスイッチした場合でも、適切な顧客対応が継続され、機会損失の可能性を抑えられます。
ユーザーのデータを活用できる
企業は活用するチャネルを多様化していくことで、顧客についてより多くの種類の属性や行動情報を獲得できます。各チャネルに散在していたこれらの情報をオムニチャネルにより統合することができれば、企業はより顧客にマッチしたサービスを提供できるようになります。
例えば、ECサイトのおすすめ商品を抽出するためのデータとして、従来利用していたECサイト内の購買履歴、行動履歴だけでなく、店舗での購買履歴や販売員の把握している顧客の嗜好、ダイレクトマーケティングでの反応なども活用できるようになります。
よりパーソナライズされたサービスの提供は、単に売上の増加だけでなく、顧客ロイヤリティを向上させ、中長期的な企業収益にプラスに働きます。
オムニチャネル戦略の事例4選
続いて、様々な企業でのオムニチャネル戦略の実施事例をご紹介します。
なお、これまで述べてきたようなユーザーの変化を背景に、オムニチャネル戦略におけるスマートフォンアプリ活用の重要性が高まっています。以下では、オムニチャネル戦略にアプリを上手に組み込んでいる事例も合わせてご紹介します。
イオン
大手流通グループのイオンではECサイト「イオンドットコム」を中心としたオムニチャネル化を進めています。イオンドットコムによりイオングループのECサイトの統合を進めるほか、ECサイトとイオンの実店舗のそれぞれのポイントの相互利用も可能にしています。
店舗によってはさらに積極的なオムニチャネル戦略を実施しているところもあります。店内端末でその店舗では取り扱いのない商品を注文した上でレジにて支払い、配送により受け取るといった、顧客にチャネルの違いを意識させないサービスを展開しています。
無印良品
無印良品は、2013年5月に無料のスマートフォンアプリ「MUJI passport」をリリースしました。このアプリは、在庫検索やニュース配信など6つの機能を搭載しており、その中でも特徴的なのが「マイレージ型のポイントプログラム」です。レジにてスキャンするだけでマイルが貯まる仕組みのため、多くのユーザーを実店舗へ誘導することに成功しました。
また、店舗の600m以内に入ってアプリを操作するだけでマイルが貯まる「チェックイン」機能があり、チェックインした店舗や時間帯に応じてお得なクーポンや情報が届く仕組みになっています。
参考:PR TIMES「無料スマートフォンアプリ「MUJI passport」配布開始のお知らせ」
東急百貨店
東急百貨店は、2013年4月に無料のスマートフォンアプリ「東急百貨店アプリ」をリリースしました。このアプリは、フロアマップが確認できることに加えて、商品の購入やクーポン情報を受け取ることも可能です。また、FacebookやTwitterなどのSNSを通じたクーポン配布にも力を入れることによって、ソーシャルメディアとアプリを連携し、ダイレクトメールよりも高い顧客獲得率を実現しています。
参考:日本経済新聞「もう渋谷で迷わない 東急百、アプリで位置情報や優待券」
ワールドスポーツ
Webサイト「キャスティング」で釣用品の販売を手掛けている株式会社ワールドスポーツは、2017年に無料のスマートフォンアプリ「キャスティング公式アプリ」をリリースしました。このアプリは、商品のバーコードを読み込むことでネットショップの商品詳細ページにアクセスできる「バーコードリーダー機能」を搭載しています。
この機能によって、屋外で釣りを楽しんでいる途中に仕掛けなどがなくなってしまった際に、その場で即座に商品パッケージのバーコードを読み取って追加購入することができます。また、プッシュ通知の開封率はメールマガジンより圧倒的に上回っており、セールのお知らせやクーポンの配信がより効率的になりました。
参考:リアルとECを結びつけるアプリ – ワールドスポーツ/キャスティング | Yappli(ヤプリ)導入事例
これら以外にも、メガネスーパーの川添氏にインタビューした下記の記事も、事例としておすすめです。
顧客、店舗、ビジネス、すべての課題を解決するアプリ。メガネスーパー川添氏が見るオムニチャネルの未来とは
オムニチャネル戦略成功の秘訣はアプリの開発
オムニチャネルは企業の持つチャネルを多様化し、それら全てのチャネルでの顧客とのコンタクトを統合して活用する戦略ですが、やはりECを含むオンラインのコミュニケーションと実店舗での体験の統合運用が重要であると言えます。
現在、スマートフォンはPCを上回るオンライン時間を持つようになりました(総務省 平成29年版 情報通信白書など)。そして、スマートフォンは顧客のオフラインでの行動の際にも顧客の傍らにあります。このことから、スマートフォンは顧客のオンライン体験とオフライン体験を結びつける鍵を握るデバイスと考えられます。
スマートフォンからのオンライン情報の利用は、Webブラウザ経由とアプリ経由に大別されます。特にネイティブアプリはプッシュ通知や位置情報をフルに利用することで、顧客に対するパーソナライズされた体験を提供するのに向いています。スマートフォンのネイティブアプリはチャネル統合を必要とするオムニチャネルの実施において、非常に重要な役割を持っています。
しかしながら、スマートフォン向けのネイティブアプリ開発を考えた場合、ネックになるのが開発費用と開発期間です。アプリの開発をゼロから行うスクラッチ型の開発では、数千万円の費用と1年以上の開発期間が必要になることもしばしばです。iOSとAndroidの両OSが拮抗しているため、多くの場合両OS用のアプリを用意する必要がありますが、スクラッチ型の開発ではそれぞれを別個に開発する必要があり、これもコスト増大の要因です。
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