【MMU2019レポート】ファンマーケティングを実践する3社に聞く、ファンとの距離の縮め方

現在日本は、人口減少、商品・サービスのコモディティ化など、様々な要因が絡み合い、新規顧客の獲得が非常に難しい時代に突入している。
それでも、ビジネスを行っている以上新規を獲得していかなければ企業は衰退する。そのなか、企業が生き残っていくための戦略として近年注目されているのが、ファンとのつながりを強化する「ファンマーケティング」だ。
いきなり新規を獲得しにいくのではなく、まずは既存ファンのエンゲージメントを向上し、間接的に新規獲得につなげていく手法は、時代に適した合理的な戦略と言える。

とはいえ、「ファンと交流すること」が売上につながるイメージを持てない方も多いはずだ。エンゲージメントを高めたその先にどれだけの成果が上がるのか。

2019年4月12日、Yappli主催の「Mobile Marketing Update 2019」で、ヤッホーブルーイング田氏、プロントコーポレーション矢野氏、H&M田原氏と、各社ファンマーケティング担当者による「ファンマーケティングの実践」をテーマにしたトークセッションが行われた。

ファンマーケティングの重要性にいち早く気づき、実践している企業は、実際どのようにファンと交流し、マーケティング戦略につなげているのか。3社の事例を紹介する。

田美智子氏 プロフィール

株式会社ヤッホーブルーイング ファンマーケター
2018年ヤッホーブルーイング入社。
三越での外商やオイシックスでのwebマーケティング・SNS運用、トレタでの広報の経験を生かして現在はファンコミュニティのオーガナイズを手がける。ヤッホーブルーイングには社長の井手が「2017年に最も多く会った社外の人」と認識するほど井手の講演に通い、熱烈なファン時代を経て入社に至る。
人をつなげるプロモーションを得意としており、PRとコミュニケーションについて考えるコミュニティ「でんこラボ」主宰。軽井沢と渋谷の二拠点生活中。趣味は野球観戦と排水口掃除。

矢野純子氏 プロフィール

株式会社プロントコーポレーション 営業本部 営業企画部
制作会社でのデザイン職を経て、2009年株式会社プロントコーポレーション入社。
販促物の企画デザインを5年、経営企画部にてID-POS分析や業務システム導入等を4年担当後、2018年より現職。
「カフェ&バー プロント」の顧客データ分析・販促企画・デジタルメディア運用等を担当。

田原美穂氏 プロフィール

ヘネス・アンド・マウリッツ・ジャパン株式会社 メディアマネージャー 兼 ロイヤリティプログラムマネージャー
佐賀県生まれ。NY州立大学卒、早稲田MBA取得。あおぞら銀行グローバルファイナンス部のアナリストとして入社し、渡英。その後Coachジャパンへ転職。eCommerce及びデジタルマーケティングのシニアマネージャーとして従事。
現在は、H&MジャパンのMediaとLoyalty Programマネージャーを兼務している。
関心事は、「ファッションテクノロジーで持続可能な未来の実現」と「女性のエンパワメント」。早稲田MBAの女性コミュニティを中心にセミナーなども主催している。

「ファン=購入頻度が多い顧客」ではない


セッション冒頭ではまず、各社の「ファン」の定義に関してのディスカッションが行われた。
2010年からファンとの交流イベント「宴」を定期開催し、ファンマーケティングを中心に据えて事業展開するヤッホーブルーイングは、顧客を5つのステータスに分類している。

  • 熱狂的ファン/伝道師
  • ロイヤルカスタマー
  • 継続顧客
  • 日和見顧客
  • トライアル顧客

田氏

当社の商品は、コンビニなどで気軽に購入いただけます。当然、何気なく購入いただいている段階ではまだ「ファン」化したとは言えません。

商品そのものではなく、ヤッホーブルーイング自体に愛着を持ち、友人知人に当社商品をすすめてくれたり、ヤッホーブルーイングの店舗にも出向いたりするような、“熱狂的な伝道師”をファンと定義しています。

自分だけで完結するのではなく、親しい人にも商品の魅力を熱弁する伝道師であるかどうかが、リピーターをとファンを分けるポイントのようだ。

H&Mでロイヤリティプログラムの運営を担う田原氏も、単純な数値でファンを区分けせず、定性的な側面を重視しているという。

私は、ブランドに対し心理的なつながりを感じていただいている方がファンだと認識しています。私自身ポイント制のロイヤリティプログラムを運営していますが、たくさんポイントを持っているといって必ずしも当社のファンだとは限りません。

たとえばイベントに参加いただいたり、SNSに熱量の高いコメントを寄せていただいたりと、ブランドに対する愛着を感じるような行動をしてくれている方がファンと呼べるのかなと思います。

田原氏

ユーザーエンゲージメントをKPIとする際、ポイント数やSNSでのアクション数など、わかりやすい数値目標を置きがちではないだろうか。
そうではなく、一人ひとりが発信するメッセージを読み取り、心理的なエンゲージメントを推し量る必要があるようだ。

とはいえ、数字を全く追わなくてもいいというわけではない。最終的には売上に結びつかなければいけないが、その点においても田原氏は「心理的なつながり」が重要だという。

心理的なつながりの強いお客様は、一般的なお客様に比べて購入額、来店数が多く、価格に左右されない傾向が高いんです。
また、他者に推奨する確率も高い。ファンと向き合い、心理的なつながりを強めることで、結果売上に貢献するんですよね。

田原氏

オフラインイベントは必須。ファンと交流を重ね、関係性を強める

では、「ファン」と向き合い、エンゲージメントを強化していくには何を行えばいいのか。
各社の具体例を聞くと、揃ってオフラインイベントを軸にしているようだ。

ヤッホーブルーイングの場合、2010年からファンとの交流イベント「宴」を定期開催。
コアなファン約80名を招待し、年に1度のペースで開催していたが、ファンが増えチケットを取りづらいという声が増えたため、規模を拡大。
2017年には神宮外苑軟式球場を、2018年にはお台場特設会場を舞台に5,000人規模のイベントを開催した。

もとはヤッホーブルーイングの熱狂的なファンであり、好きが高じて入社したという田氏は、ファンイベントに参加し、ファン同士の交流を通じて同社へのエンゲージメントが高まる感覚を経験しているという。
だからこそ、オフラインイベントの重要性を理解し、協力に推進する役割を担っている。

約8年間に渡り、イベントを通じてファンコミュニティを構築してきた結果、ついにファン主導のイベントがスタートしたという。

田氏

昨年、ファンの方たち自らが企画した”ファン宴”が開催されたんです。そのイベントでは、当社社員は招待される側でした。
宴で実施していたマニアックなクイズ大会をファンの皆さんで再現いただいたり、ゲストを呼んでライブをしたりとかなり本格的なイベントだったと思います。

最後には社員に向けて、ファンの皆さんからメッセージソングが贈られたんです。全員号泣して、熱狂的な空間が形成されていました。

ユーザーコミュニティ形成において「ユーザーが自走する」状態が理想だと言われるが、ヤッホーブルーイングの場合は自走を超えた「熱狂」に到達している。


H&Mでも、ファンを熱狂させるようなロイヤリティプログラムを用意している。

コラボアイテム発売時など、VIPパーティーを開催しているのですが、そこにファンを招待させていただいています。
一般的にはモデルさんやインフルエンサーを呼ぶが、ブランドに愛着を持つファンも招待する事で喜んでいただけるし、SNSでシェアする際も熱のこもったメッセージが添えられます。
海外イベントに招待することもあるんですよ。

昨年モスキーノとコラボした際はNYでファッションショーが開催されたのですが、旅費はすべて当社で負担して、応募熱意も加味したエンゲージメントの高いファンの方を抽選で招待させていただきました。

田原氏

プロントでも、飲食店の枠組みを超えた体験を提供できるオフラインイベントの開催を考えているという。

矢野氏

当社は16年前に割引機能付きのメンバーズカードとしてEdyカードを導入し、2012年に”プロン党”というファンクラブ的なコンセプトを追加しました。
よりカジュアルにプロントのコミュニティに入っていただけるよう、2018年にアプリを立上げました。アプリでは商品の魅力を伝えるコンテンツを発信し、よりプロントへの愛着を高めていただくことを想定しています。

今後、お客様との関係構築を進めていくために、飲食以外でのオフラインイベントの開催を想定しています。

ファンに選ばれ続けるために必要なのは?

セッション終盤では、ファンとの関係性をどのように維持し、強化していけばいいのかについて、各人の考えが語られた。

田氏

今まで、顧客の声に耳を傾けることを最も重視していましたが、これからは、自分たちの意志をもっとファンにアピールしてもいいのかなと考えています。

もちろん、顧客ファーストのマインドは前提にあるとして、当社の方向性を理解し、一緒に目標に向けて歩んでくれるコアなファンを見つけていきたいですね。
そのような方は、より強力な伝道師になっていくのかなと思います

H&Mはマスマーケティングで規模を拡大してきたのですが、企業側が一方的に伝えたいことばかりを発信するだけでは、ファンになってもらうのは難しいですよね。
双方向に発信しあえる関係を構築し、お客様と企業が一緒になってブランドを形成していくにはどうすればいいかを常に考えています。

なので当社はここ1~2年で、ストーリーTELLINGではなく、ストーリーDOING(語りかけるだけでなく、一緒に行動していく)を重視するようにしています。

田原氏

ファン自らがブランド形成に携わることができれば、ブランドが「自分ごと化」し、当然エンゲージメントも向上する。継続的に関係を維持するには、ファンとの「共創」がキーワードとなるようだ。

プロントの場合、ファン創出の根源となるサービスの質を左右するための「スタッフのエンゲージメント向上」を目指しているという。

矢野氏

これからより顧客の声を聞いていきたいのですが、同時にスタッフのファン化に取り組んでいきたいと考えています。
当社はサービス業です。サービス業で一番大事なのは、お店のスタッフそのものですよね。
アプリなどのテクノロジーを駆使しつつ、働いている方たちにどれだけ良い体験を提供し、当社へのエンゲージメントを高めてもらえるか。

まず働いている皆さんをファンにして、彼らを軸にファンマーケティングを展開していければと思います。

まとめ

ファンマーケティングの軸は「人」にある。顧客だけでなく、まずは社員が自社のファンにならなければ実現はできないだろう。

各社の実践内容を知ると、ファンマーケティングとは地道に顧客と向き合うことで、共にブランドをつくっていく仲間として迎え入れるための施策だということがわかる。

いかに顧客と社員の境目を曖昧にできるかが、成否を分けるポイントなのかもしれない。

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