アプリやオムニチャネルで実現すべきは「接客の拡張」。パルコが常に先進的でいられる理由

May 29, 2017
約 1 分

渋谷を中心に、最先端のファッションと流行を次々と生み出してきたパルコ。1990年代後半にはすでに自社サイトでECを開始していたという同社で、先進的な戦略を打ち続ける仕掛け人のひとりが、同社執行役グループICT戦略室担当、林直孝氏だ。今回は、同社が見るデジタルマーケティングの未来、そしてアプリやオムニチャネル戦略について伺った。

渋谷の流行を生み出す日々。デジタルマーケティングに可能性を見出した2000年

– 林さんのご経歴を教えてください。

1991年に株式会社パルコに新卒入社し、渋谷店に配属されました。当時から渋谷店は文化や情報の発信に積極的で、新入社員でも新しいことにチャレンジできました。私も好きな映画のイベントを自ら企画・開催したり、当時アメリカのドリームチームの影響で盛り上がっていたバスケットボールをテーマに、3on3の大会を渋谷で行ったこともあります。

インターネットが身近になったのは、1995年の「Windows 95」からですが、当社も同年にはホームページを立ち上げており、ECや、当時「電子ウォレット」と呼んでいた決済システムなど、先進的な試みをしていました。そのチームが分社化して、株式会社パルコ・シティ(現・株式会社パルコデジタルマーケティング)という会社ができたのが2000年です。

私は当時からインターネットが好きだったので、その新しい会社の社内公募に手を挙げました。思えばこれがデジタルの世界に関わるきっかけであり、私のキャリアでも大きな転機となった瞬間でした。2004年にはパルコの店舗の営業に戻り、再び2009年から2011年までパルコ・シティでECの責任者をしていました。

2012年に経営企画室という部署に異動したのですが、そこで我々のチームに与えられたのが、インターネットを使ってどのようにお客様とコミュニケーションすべきかを考えること。翌年にはWebコミュニケーション部という部署もでき、パルコのデジタルマーケティングが一層加速しました。

これまでの施策で具体的な例を挙げるなら、テナント様自らが発信するショップブログがあります。当時広島PARCOに、1日10回以上記事を更新するショップがあったのですが、たまたま来店された旅行者の方がそこの接客を気に入り、地元に戻られてからもブログをチェックされていたそうです。ある日、記事で紹介された商品が欲しいと、地元にも同じブランドのショップがあるにも関わらず、わざわざ広島に現金書留を送ってこられたのだそうです。しかも、同じようなことは月に何回もあるそうで、これはブログが店舗の接客を「拡張」する可能性があることを証明した事例だと思います。

アプリの台頭は予想以上。急遽前倒しでのローンチを決行

– 御社のアプリ「POCKET PARCO」をローンチされた経緯を教えてください。

2013年に、今後3年間のデジタル戦略を練りました。中にはアプリの構想もあったのですが、まずはサイトのスマートフォン最適化や、Facebook、Twitter、LINEといったSNS対策を優先しました。アプリは次の段階、2015年か16年にリリースしようと計画していたのです。しかし時間が過ぎていくにつれ、アプリの重要性を感じるようになりました。調査会社のニールセンが2014年に発表したデータによると、スマートフォン利用時間の72%がアプリだという結果が出ています。我々も何となく感じてはいたのですが、もはやスマートフォンに最適化されたサイトだけでは弱いという危機感を抱き、計画を前倒して、2014年10月に「POCKET PARCO」をローンチしたのです。

– パルコにとって、アプリはどのような存在でしょうか。

アプリはお客様と非常に近い存在であり、かつパーソナライズできる媒体です。ローンチ当初は、福岡PARCOでのみ、アプリに登録したカードを使ってショッピングをするとポイントが付与して効果の検証を行いました。当初は、長期的にデータを取得する予定だったのですが、開始わずか2カ月でアプリにカードを登録されている会員様の売上が、アプリを使われていない一般の会員様と比較しておよそ1.6倍にもなり高い効果が認められたため、2015年3月からは一気に全国展開をしました。結果的には、2015年の1年間においてハウスカード会員比較で、アプリの利用者は客単価で1.9倍も高いという差が出たのです。

他にも、POCKET PARCOには「クリップ」というお気に入り機能があるのですが、1つの記事に10個クリップが付くと、その店舗への来店が1回発生することがわかりました。そこで、1クリップあたりのポイントを10倍とし、結果的に店舗の売上アップに貢献できました。

これら施策が優れているのは、アプリユーザーのアクションがすべて統計データで可視化され、素早くPDCAを回せる点です。これはアプリを導入した効果だと認識しています。

リアルとネット、境のないオムニチャネルの実現でチャンスは2倍に

– POCKET PARCOは、今後どのような展開を予定されていますか。

2016年4月、レコメンドエンジンにAIを採用し、個々のお客様により適したコンテンツをお勧めできるようになりました。それまではクリップ数が1,000を超えることはほとんどなかったのですが、AI導入後はそれが瞬く間に増加しました。結果、全体のクリップ数が17%増え、登録カードからの売り上げも18%増加したのです。

また当社では、いくつかの店舗の屋上に社員自らが製作に携わった天気の観測機を置いています。これを利用し、雨の日に店舗周辺にいるお客様に「買い物をされたら5,000コイン差し上げます」というプッシュ通知を送る実験を行いました。この効果で通常時より、1.6倍も来店・買上が増えるという効果が出ています。

これまでも雨の日特典はありましたが、たとえば晴れの日でも店舗の至るところに告知のポスターを貼るなどしなければ、周知することは難しいものでした。アプリであれば直に、しかもお客様が店舗周辺に来たタイミングでお伝えできます。

そもそも、我々のような商業施設でイベントを実施する際は、事前にスケジュールを固めて紙のダイレクトメールでお知らせするのが一般的です。しかしそれでは時間もコストもかかり、お客様に情報をお届けするまでにタイムラグも発生します。アプリでは、それらすべてが一瞬で解決できますので、この進化は凄まじいものがあります。

– 林さんは、理想のオムニチャネルをどのように捉えていらっしゃいますか。

リアルとネットはまるで表と裏のように語られていますが、私はすべてがつながっていると考えています。仮にECが伸びていて店舗に元気がないのであれば、正しいデータを掴んでお客様に返せていないことが原因です。しかしそれを悲観する必要はありません。店舗側のデータはこれからもっと取得できるようになるでしょうし、そこからEC側のコンバージョンを促す、あるいはまったく逆のことも可能になる。リアルとネットを切り離さずに考えることができれば、売上のチャンス、それに顧客接点は2倍いや、それ以上に増えるのではないでしょうか。

そのための我々のミッションは、テナントのスタッフの皆様の「接客を拡張」することです。わざわざパルコを選んでくださるお客様に対して、いつでも、どこでもリアルとネットを問わずショッピングやサービスを提供できる、そういった機会をテクノロジーで「拡張」することが責務だと考えています。

参照:ニールセン

プロフィール:
株式会社パルコ 執行役 グループICT戦略室担当
林 直孝

1991年にパルコ入社後、全国の店舗、本部及び、Web事業を行う関連会社 株式会社パルコ・シティ(現 株式会社パルコデジタルマーケティング)を歴任。 店舗のICT活用やハウスカードとスマホアプリを連携した個客マーケティングを推進する「WEB/マーケティング部」等を担当。 2017年3月より、新設された「グループICT戦略室」でパルコグループ各事業のオムニチャル化、ICTを活用したビジネスマネジメント改革を推進している。

パルコ公式サイト:http://parco.jp/
株式会社パルコ:http://www.parco.co.jp/

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